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[要旨]

事業は、単に、顧客の要望をきくだけでよいと感じられがちですが、必ずしもそうとは限らないこともあります。現在は、いいなりになる会社よりも、顧客の真のベネフィットを理解して取引できる会社こそ、高い評価を受け、長期的には多くの利益を得ることができるようになるでしょう。


[本文]

集客関連コンサルティングを営んでいる、ラン・リグの社長、渡邉昇一さんの制作しているポッドキャスト番組に、住宅建設会社のリアンコーポレーションの社長、五嶋伸一さんが、ゲストとしてご出演されておられました。五嶋さんによれば、かつて、五嶋さんが会社を留守にしているときに、住宅購入を希望している、あるご夫婦が、五嶋さんの会社を訪問してきたそうです。しかし、夫婦の間で、購入しようとする家について、意見の違いがあることが分かったことから、ご夫婦に応対した五嶋さんの部下の方は、住宅の販売をお断りしたそうです。

その部下の方は、夫婦の意見が違うにもかかわらず、住宅を販売すれば、ご夫婦が幸福になることができないと判断したようです。その後、五嶋さは、が帰社してから、その部下の方から、住宅の販売を断ったことについて報告を受けたそうですですが、五嶋さんは部下の方に対して、「断ってくれてありがとう」とお礼を述べたそうです。そして、ちょうどそのとき、例の夫婦から五嶋さんに電話があり、住宅の販売を断ってくれたことについてお礼を述べられたそうです。

というのは、販売を断られたことがきっかけで、夫婦で考えを改めることができたからだそうで、その後、意見を一致させた上で、五嶋さんの会社から、改めて住宅を購入するにいたったということです。この事例からは、たくさんのことを学ぶことができると思います。そして、私は、かつて、銀行勤務時代に、ある夫婦から苦情を受けたことを思い出しました。

というのは、当時、私が担当していた。ある会社の従業員の男性から、遊興費として融資を受けたいとの申し出があり、それに応じました。しかし、数か月後、その男性のご夫人から、「夫は浪費癖があるのに、なぜ、銀行は夫に融資をしたのか、はなはだ迷惑だ」という苦情がありました。男性は、ご夫人に隠れて融資を申し込んだようですが、返済予定表などが郵送されたことから、ご夫人に融資を受けたことが知られてしまったようです。

この融資については、銀行の規則に則って行われたものなので、問題があるものではないのですが、後味の悪いものとなりました。男性からの融資に応じたことは、私は、男性が喜ぶことになると思ったのですが、ご夫人に負担をかけることとなってしまいました。この例は、前述の五嶋さんのまったく逆のパターンです。もちろん、その後、私は、利用者の方がもめそうな融資については、規則上は可能であっても、断るようにしました。

これはどんなビジネスパーソンも理解できるものですが、「ビジネス」は、目先の利益よりも、顧客との強い信頼関係を築くことが原則であり、そのことの方は、長期的には多くの利益をもたらすことになるのでしょう。すなわち、近江商人の「三方よし」でなければならないということです。しかし、日々、目の前のことばかりに気をとられていると、目先の利益にしか目が向かないようになってしまうのでしょう。五嶋さんのお話をきいて、かつての私の至らなさを思い出しましした。

そして、五嶋さんの事例で、特に私がすばらしいと感じたことは、五嶋さんの部下の方は、自分の判断で住宅の販売を断ったこと、そして、その報告を受けた五嶋さんは、その部下の方の判断を評価したことです。それは、五嶋さんが、自社の事業の定義をしっかりと部下の方に伝えていたからできることであり、頭でわかっていても、なかなかできないことであると思います。

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