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『エースで4番』より『全員野球』を

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、中小企業の経営者の多くは、野球に例えると、エースで4番、すなわち、1人でチームを引っ張るタイプだそうです。そのような状態では、ある程度は業績は高められるものの、全員野球、すなわち、メンバーのそれぞれの個性を活かして事業活動に臨んでいる会社には勝てず、自社の業績は頭打ちになるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、中小企業経営者の方の多くは会計が苦手であるにもかかわらず、見栄でわかったふりをしており、さらに、会計情報は売上しか見ていないので、業績が悪化したときも、売上を増やすこと以外の対策を判断できない結果、妥当な利益率を確保するなどの、より適切な判断ができなくなってしまうということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、事業を発展させていくためには、「全員野球」のような組織づくりが大切ということについて述べておられます。「中小零細弱小家業の社長さんというのは、高校野球にたとえるなら、地区予選を2つか3つ勝ち上がるチームのエースで4番。投げて、売って、チームを引っ張るキャプテンだ。9回まで相手チームを『0』で抑えて、社長さんがホームランを1本打てば、試合には勝てる。

でも、甲子園に出る業豪チームは、1番バッターが内野安打で出塁して、盗塁し、2番がバンドで3塁に送って、3番がフォアボールを選び、ランナーが溜まったところで4番がタイムリーを放つ。そして、続く5番が犠牲フライで追加点……、と。スタメンからベンチメンバーまで、出場する選手全員が役割を全うしていく。こういう野球をされると、対戦相手には、ボディーブローのようにダメージが蓄積する。だから、伝統のある強豪校は、接戦になっても、最終的に勝ち上がることができるのだ。経営も同じこと。社長がエースで4番の会社は、ある程度成功したところで、必ず壁にぶち当たる。

それは、社長さんが現場で陣頭指揮を執らないと、お客さんが集まらないからだ。しかし、社長さんは1人しかいない。店を2店舗、3店舗と増やしていけば、当然、1つの店に張り付いているわけにはいかない。社員が5人、10人、15人と増えていけば、マンツーマンで1人ひとりを育てながら、自分の『イズム』を浸透させていくこともできなくなる。どこかで選手全員が役割を全うする全員野球ができるようにならなければ、会社は社長さんの器以上にはならず、経営は頭打ちになっていく」(159ページ)

チームは、それぞれ個性の異なるメンバーによって構成されているので、各メンバーがそれぞれの個性を発揮して得られた成果は大きくなるということは、容易に理解できると思います。一方、エースで4番のキャプテンが1人でチームを引っ張る場合、成果はキャプテン1人分の成果とほぼ同じであり、チームとして活動する意味が薄いということになります。とはいえ、このことは誰にでも理解できることでありながら、「エースで4番」の社長が少なくないのは、主に、2つの理由が考えられます。

1つ目は、社長が起業した目的が、社長自身がエースで4番になることであるからというものです。もちろん、自らのリスクで起業する以上、自分の思う通りの事業をしたいと思うことは当然であり、このことが直ちに問題とは言えないでしょう。当面の間、社長ひとりか、または、少人数で事業を進めるのであれば、社長がエースで4番でも問題ないと私は考えています。

そして、2つ目の理由は、社長のマネジメントスキルが十分ではないということが考えられます。事業を拡大するとすれば、社長がエースで4番のままでは限界があるということは理解できるものの、「全員野球」に方針を変えようとしても、そのための経営者としてのスキルが少ないと、直ちに全員野球を実践できるようにすることは難しいでしょう。

そこで、少なくとも、経営者は、自ら「マウンド」や「バッターボックス」に立つことが本当の役割ではなく、「ベンチ」から選手の個性に合った役割を見出し、それを実践するよう指示を出すことが本当の役割であると認識することが必要だと思います。それができるようになれば、次は「選手」たちの個性を伸ばすための働きかけをしていくことで、より大きな成果を出すことができる「全員野球」を実践できるようになるし、それが21世紀らしい経営者のスタイルであると、私は考えています。

2024/5/29 No.2723

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