成功の鍵は正しいメンバーを集めること
[要旨]
起業家の方の多くは、事業を成功させるために、製品やサービスに注力しようとしますが、それだけでは成功できません。現在は、さらに、事業を軌道に乗せるための支援を、幅広い関係者から得られるかどうかがポイントになっており、起業家の方の人脈づくりも重要になっています。
[本文]
今回も、前回に引き続き、瀧本さんのご著書、「君に友だちをいらない」を読んで、私が気づいた点についてご紹介したいと思います。瀧本さんは、成果を上げる会社組織の例として、瀧本さんが出資者として、また、役員としても関わった、オトバンクをあげています。「オトバンクは、上田渉という男が、東京大学に在学中の24歳のときに設立した会社である。(中略)創業してまだ9年だが、現在では、日本の出版界において、オーディオブックのデファクトスタンダードの地位を築くことに成功した。(中略)
そこに至る道は、決して平たんなものではなく、まず、初めに、上田の前に立ちふさがった難問は、出版物を音声化するにあたっての権利を、著者と出版社から取得することだった。(中略)2000年代になってから(中略)、大手IT会社などの10社が、次々に、このビジネスに乗り出し、日本でのオーディオブック市場の立ち上げを狙うが、いずれの取り組みも、失敗に終わった。その最大の理由こそが、著作権の壁に阻まれて、魅力的なコンテンツを、多数、揃えることができないことだった。(中略)
ところが、オトバンクだけは、学生が作ったベンチャー企業であるにもかかわらず、日本の大手出版社のすべてと契約を結び、著作権の壁を乗り越え、多数のベストセラーを音声コンテンツ化して、オーディオブックビジネスに成功することができた。いったい、なぜ、そんなことが可能だったのか。答えを言えば、それは、『正しいメンバーを集めることに成功したから』にほかならない」(144ページ)
ちなみに、上田さんは、東京大学在学中にオトバンクを起業した時点で、元三井物産広報部長、著作権分野に関して著名な弁護士、上田さんの高校の同級生で、ウェブ制作会社のゼントの社長の松島隆太郎氏などの協力者がいたようです。そして、同書には同様の事例が何社か紹介されているのですが、事業の成否は、製品やサービスそのものの優劣というよりも、事業をどうやって軌道に乗せるかで決まる、すなわち、「正しいメンバーを集める」ことができたかどうかで決まるということです。
このことは、多くの方がご理解されると思いますが、私が、これまで、起業のための融資申請のご支援をしてきた経験から感じることは、起業家の方の多くは、どういう製品を製造するか、そういうサービスを提供するかに注力している場合が多いということです。ところが、現在は、品質の高い製品、サービスが提供できて当然という状況になっているので、瀧本さんのご指摘のように、結局のところ、質のよい製品・サービスを提供できる体制をつくるだけでなく、さらに、どうやって事業を軌道に乗せることができるかどうかがポイントになっているということです。
オトバンクの主要な事業のオーディオブックについても、前述の通り、オーディオブック事業そのものが評価されたというよりも、著作権に関する課題を解決し、魅力的なコンテンツを揃えることが成功につながっています。この点については、理解が容易なようで、見落とされがちな点であると、私は感じています。
2022/7/13 No.2037