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ブランド戦略は総合的な戦略

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ブランド戦略は、コミュニケーション戦略だけでなく、ミッション・ビジョン・バリューという土台を具体化させた経営戦略とマーケティング戦略を総称したものだそうです。また、ロゴをつくったり、ホームページをつくり直すことをブランド戦略と考えている方もいますが、それはコミュニケーション戦略に過ぎず、ブランド戦略の枝葉だということです。

[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ブランディングを行うには、まず、ミッション(使命)、ビジョン(未来)、バリュー(ミッションとビジョンにたどり着くための価値観)を明確にしなければなりませんが、これらが明確でなければ、効果的なブランディングを行うことができないということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、効果的なブランディングを行うためには、ミッション・ビジョン・バリューをベースに、経営資源をどの地上に投下すればよいか検討することが大切であるということについて述べておられます。「(ミッション・ビジョン・バリューは抽象的であるため、それに基づくブランディング施策を具体化するためには)、ミッション・ビジョン・バリューをベースに、ヒト、モノ、カネ、情報という限られた経営資源を、どの市場に対して投下すれば、自社ブランドが成長するのかを考えます。(中略)

そして、その経営戦略を顧客にフォーカスして考えたのが、次の階層の『マーケティング戦略』、さらに、それをメッセージ化したものが、最後の階層である『コミュニケーション戦略』となります。(中略)ロゴやホームページの話は、各戦略の最終層である、コミュニケーション戦略の一部です。しかし、多くの広告会社やデザイン会社はこの部分だけを切り取って、ブランド戦略と呼んでいます。なぜだと思いますか?理由は簡単です。ブランド戦略の中で、唯一、外部から見ることができるのが、コミュニケーション戦略だからです。(基本的に、経営戦略やマーケティング戦略を公表している会社はありません)

『ブランド戦略』は、コミュニケーション戦略だけでなく、ミッション・ビジョン・バリューという土台を具体化させた経営戦略とマーケティング戦略を総称したものです。もちろん、コミュニケーション戦略は、ブランド戦略の一部に違いはありませんが、それはあくまでブランド戦略の枝葉であり、ブランドという樹を支える土壌には、ミッション・ビジョン・バリューがあり、その根っこに経営戦略、幹にマーケティング戦略があってこそ、初めて成り立つ戦略なのです。さらに、こられらの戦略は、ミッション・ビジョン・バリューから一貫しないといけません。

例えば、ミッションで、『環境を守ることが自社ブランドの使命』と掲げているにもかかわらず、お客様へメッセージを届けるコミュニケーション戦略において、環境に負荷をかけるような施策を行っていたとすればどうでしょうか?恐らく、お客様は、言行一致していないコミュニケーションに違和感を感じると思います。また、そのようなミッションを掲げる会社のロゴであれば、グリーンを基調にした、やさし気なデザインが相応しいですが、経営者や担当者の好みで制作を進めると、環境とは無縁のデザインを採用してしまう可能性もあります。

ブランドの世界観を伝えるのであれば、ミッションから一貫性のあるデザインにしなくてはいけません。これが、本項の冒頭で言った、『数年後、確実につくり直さないといけなくなる』という理由です。“仏造って魂入れず”一見、ブランド風に見えたとしても、各戦略に一貫性がなければ、それはブランド戦略ではありません。コミュニケーション戦略では、大企業が発信しているデザインを真似るのではなく、自分たちの内から湧き出る想い(ミッション・ビジョン・バリュー)を起点としたデザインにすることで、中長期的に使い続けられるのです」(96ページ)

渡部さんが述べておられることは、まさしくその通りだと思うのですが、私は、渡部さんのご主張の、「ブランド戦略」を(広い意味での)「経営戦略」にも置き換えられると思っています。これを言い換えれば、渡部さんの述べられた、ブランド戦略の策定手順は、(広い意味での)経営戦略の策定手順と同じだと考えています。そこで、ここで、少し、経営戦略の策定手順について述べたいと思います。ただし、ここで述べる手順は、オーソドックスなものなので、すべての会社に当てはまるわけではないということについてご了承ください。

まず、経営者の想いを、ミッション・ビジョン・バリューなどで示します。その次に、外部環境、内部環境の分析を行います。なお、ミッション・ビジョン・バリューの策定と、環境分析は、順番が逆になることもあります。その次に、環境分析に基づいて、全社戦略を策定します。全社戦略とは、会社全体に関わる戦略のことで、主に、どの事業や部署にどれだけの資源を投入するのかを決める戦略です。その次に、全社戦略に基づいて、事業戦略を策定します。

事業戦略とは、事業ごとの戦略で、具体的にはどのように競争に勝つかという戦略のことなので、競争戦略と言い換えることもできます。最後に、事業戦略を支える機能別戦略を策定します。機能別戦略とは、事業活動を支える活動を対象にした戦略で、人材戦略、財務戦略、製品開発戦略、販売戦略、購買戦略、在庫戦略、広報戦略、情報技術戦略などです。そして、重要なのは、それぞれの戦略に一貫性があるということです。ミッション・ビジョン・バリューを最初に定めるのは、全社戦略、事業戦略、機能別戦略の間に齟齬が起きないようにするためです。

また、機能別戦略→事業戦略→全社戦略の順に、上位の戦略となっているということもご理解されると思います。では、なぜ、このような手順が必要なのかというと、効率的で効果的な戦略を策定することで、事業の競争力を高めるためです。確かに、これらの手順を踏むには労力が必要ですが、事業活動は組織的な活動であることから、組織の各構成員や、各活動に齟齬が起きないようにすることで、強力な事業活動ができるようになります。また、齟齬がない活動によって、「1+1>2」のような、組織的な活動のメリットも大きくなることが期待できます。

繰り返しになりますが、このような手順は労力がかかりますが、競争に勝つためには重要なプロセスです。話をブランディングに戻すと、渡部さんのいう経営戦略は全社戦略、マーケティング戦略は事業戦略、コミュニケーション戦略は機能別戦略に相当すると思います。これも繰り返しになりますが、これらはミッション・ビジョン・バリューの観点から一貫性がなければきちんと機能する「ブランド戦略」に基づく活動はできません。

そして、すでに多くの方がご理解されておられると思いますが、ロゴをつくったり、ホームページをつくり変えたりすることだけがブランド戦略ではないことは明らかです。しかし、「ブランド戦略=ロゴをつくる」と考えている経営者の方が、少なからず存在していることは残念に思います。ここまで述べてきたように、顧客が自社商品を心の中で識別してくれるようになることがブランド戦略の目的ですが、それは、ロゴをつくっただけでは実現できません。でも、事業活動を表面的にしか見ていない経営者は、「ブランド戦略=ロゴをつくる」とだけ考えてしまうのでしょう。

2024/7/7 No.2762

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