『振り返り』で気づきのレベルを高める
[要旨]
千葉ロッテの吉井監督は、北海道日本ハムのコーチ時代、ある投手に、試合の翌日に振り返りを行わせていました。そして、振り返りにより、その投手は気づく能力が高まっていき、ピッチングを自分自身で改善できるようになり、安定した成績を残せるようになりました。このように、振り返りという活動は、気づく能力を高めることに効果があり、さらに改善の速度を速めることにつながります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。吉井さんは、選手の育成の手法として、選手に「振り返り」を行わせていたということを述べておられます。「2017年シーズンの1年間、ファイターズの若手ピッチャー3人を指名し、先発した次の日に『振り返り』をやってもらった。3人のうちの1人、A投手は、極めて劇的に変わった。初めのうちは、振り返りをしても、投球に対する意図が感じられなかった。
『キャッチャーが出したサインの通りに投げました』『投球フォームも、いつもコーチに言われてるように、ちょっと突っ込んじゃいました』どうしてサイン通りに投げたのか、投げたかった球種だったのか、なぜ突っ込んだ投球フォームになってしまったのか、そういう重要な点に関する考えが出てこない。いったい、どうなることかと心配していたが、振り返りを繰り返していくうちに、A選手は、徐々にいろいろなことに気づき始める。『本当は、この球種をこのコースに投げたかったんですけど、キャッチャーが違うサインを出したので、仕方なく投げちゃいました』
さらに、しばらく続けると、当初とはまったく違うことを言い始めた。『こういう点が僕の特徴なので、あの場面では、このコースにこういう球を投げれば抑えられると思って投げました』この年、A選手は調子を落として2軍に落とされた。しかし、振り返りがだんだん上手になって気づきが増えるとともに、調子を上げていった。そして、再び1軍い上がり、安定した成績を残せるようになった。振り返りによって、A選手は試合中にフォームの修正までできるようになった。試合中に自分の投球フォームの状態が自分でわかるようになり、その修正まで自分で工夫してできるようになった。まさに劇的に変化した事例だ」(80ページ)
このA投手の事例は、多くの人が理解できることだと思うのですが、私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしている中で感じることは、多くのビジネスパーソンは、振り返りという作業は、あまりやりたがらないということです。この振り返りを行わないということを、別の言い方をすれば、PDCAの「D」だけしかしないということです。念のため、PDCAについて説明すると、計画(P)→実行(D)→検証(C)→改善(A)の一連の活動を繰り返して、事業活動を改善していくという手法です。
そして、このうち「D」だけしか行わないということは、日々、成行的にしか活動を行わないため、改善も行われないということです。そうであれば、早晩、ライバルとの競争に敗れてしまうことは必然です。では、なぜ、振り返りを行わず、成行でしか事業活動を行わないのかというと、その理由は1つだけではないと思いますが、最も大きな理由は、多くのビジネスパーソンは、事業活動することだけで満足してしまうからだと思います。そして、振り返りには関心がないということです。
でも、事業活動は改善していくことにこそ本当の意味があると考えれば、「D」だけではなく、「C」や「A」にも関心が向くのですが、現実には、そこまで目を向ける人は多くありません。しかし、A投手の事例からも分かる通り、A投手の実力が伸びた要因は、振り返りを続け、気づく能力を高めたからです。このことを言い換えれば、成行的な活動だけしかしていない会社は、振り返りをするだけでも業績を伸ばすことができるということです。したがって、もし、いま業績が伸び悩んでいるにもかかわらず、振り返りをしていない会社があるとすれば、振り返りの実践によって改善のチャンスが十分にあると言えます。
2023/5/12 No.2340
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