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コーチが指導すると選手の成長が止まる

[要旨]

吉井理人さんによれば、元横浜ベイスターズ監督の権藤博さんは、選手に任せるタイプの指導者だそうです。それは、権藤さんが米国で指導法を学んでいた時、米国のコーチから、選手に指導法を教えると、それで上達しても、選手自身が改善法を見つけなければ意味が無く、選手の成長を止めることになるということを学んだからだそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、現在でも、野球界では、教えたことを選手ができなければ、それは選手の責任と考えているコーチが多いけれど、選手の個性は様々なのだから、コーチは個性に合わせた方法で育成できるようにしなければならないということを説明しました。

これに続いて、吉井さんは、吉井さんが尊敬している指導者の、権藤博さんの指導法について紹介しておられます。ちなみに、権藤さんは、中日ドラゴンズで投手や内野手として活躍し、横浜ベイスターズ(現、横浜DeNAベイスターズ)の監督時代はチームを日本一に導いた方です。吉井さんも、近鉄バファローズ(現、オリックスバファローズ)の選手時代に、当時、コーチだった権藤さんから指導を受けておられたようですが、権藤さんは、具体的な指導はあまり行わず、選手に任せる方針だったそうです。

「権藤さんが選手に任せるようになったのは、アメリカでコーチの修行をしているときのことだった。マイナーリーグで右打ちができない選手がいて、いくらやっても左にしか飛ばない。アメリカ人のコーチに『右打ちを練習して覚えろ、できるようになったら俺のところに来い』と指示され、来る日も来る日もケージに入って打たされた。それでも、どうやっても右に飛ばない。

見かねた権藤さんは、つい、コツを教えてしまった。すると、指示を出したコーチに、『おまえは、あの選手の成長を止めた、あそこで工夫して自分で覚えないと、打てるようになっても意味がないんだ』と言われたそうだ。権藤さんは、その言葉ではたと気づいた。それ以来、選手の主体性を大事にするようになったという。こういうエピソードからも、コーチとして気づかされるものがある」(264ページ)

野球選手も、会社の従業員も、いろいろと丁寧に指導する方が成長が速いことは事実だと思います。ただ、コーチや上司から指導されて成長できることには限界があることも事実だと思います。だからこそ、自分自身で解決方法を見つける経験をさせ、その能力を高めさせることの方が重要です。そして、指導者の本当の役割は、それを促すことと言えるでしょう。

ところで、上から目線で恐縮ですが、私も、経営コンサルタントとして気をつけていることは、顧問先の会社に、課題解決策の「回答」は、極力伝えないようにしているということです。その理由は、「回答」はひとつだけとは限らないということもありますが、それよりも、他人から伝えられた解決策は、受け身でしか取り組んでもらえないからと考えているからです。

解決策は、自ら発見したものだからこそ、価値があると思います。また、もうひとつは、経営コンサルタントの役割は、早く、顧問先が経営コンサルタントを不要と感じてもらえるようにすることだからです。顧問先が自ら課題解決策を考え出し、実践できる能力を高めていけば、成長の速度も高まり、ライバルとの競争力も大きくなります。そうなれば、その会社は、「当社は、なぜ経営コンサルタントにコンサルティングを依頼しているのだろう?」と感じるようになります。

逆に、いつまでも同じ会社にコンサルティングをしている経営コンサルタントは、コンサルティングスキルが低いということを自ら証明していることになります。コンサルティングを受けているのに、いつまでもコンサルティングが必要だったら、何のためのコンサルティングということになりますよね。

2023/5/22 No.2350

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