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【CBDの効果】論文によるエビデンスをもとに精神疾患への効果を解説(うつ病、双極性障害、不安障害、不眠症など)

ここでは、臨床試験を報告した論文などを取り上げながら、CBDの効果・効能について詳しくまとめました。

本記事では、様々な症状に対するCBDの効果を網羅的に分かりやすくまとめていますが、詳細な情報に関しては精神疾患に焦点を当てています。勿論、メンタルの不調やストレスに対するCBDの効果なども取り上げています。

※なお、精神疾患以外の症状における詳細な情報についても別の記事で続編としてまとめているので、気になる方のために後ほど案内させていただきます。


皆さんはCBDについて以下のような疑問をもったことはありませんか?

◆CBDが効果を示す症状ってたくさん紹介されているけど、結局、どの症状にどの程度効くの?
◆これまでの論文や体験談を網羅的にまとめた情報はないの?どこまで研究は進んでいるの?
◆病気に対する効能はどのくらい信頼性や証拠があるの?

この記事では、特にこのような疑問に徹底的に答えます。


※精神疾患以外の症状における詳細な情報は以下の記事で取り上げています。

上の記事で取り上げている主な疾患や関連トピックは以下の内容になります。

●疾患:パーキンソン病、てんかん、皮膚炎、疼痛(痛み)、免疫暴走、炎症性腸疾患、糖尿病、高血圧、癌、その他の疾患

●CBDの副作用や用量設定、利用目的に関する概略


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こんにちは。「CBDカウンセリング」というサイトで情報発信をしているロキ(@rokiroki_univ)と申します。

この記事では、CBDや医療大麻を扱う上で非常に重要な情報になると思った内容を取り上げています。特に以下に該当する方に向けた内容となっております。

・CBDを利用している人、扱っている人
・大麻やCBDの効能や医療的価値に関心のある方
・医療関係の方
・精神疾患の患者さん
・生活習慣病など慢性的な病気の患者さん
・ストレスや不安に苦しんでいる方
・発達障害の方

など.

※大麻の所持などは、現在、日本国内において法律で禁止されております。本記事はこのような違法行為を勧めるものではありません。


ここでは、研究論文などの一次情報を必要に応じて引用し、科学的根拠に基づいて解説しているので、安心して読み進めてもらえるかと思います。

なお、CBDに関する基本的な内容をまとめた記事は以下で公開しています。


また、私のブログでもCBDに関する情報を発信しています。参考にしていただけたら幸いです。↓


なお、CBDなどの情報発信を続けるために、ロキは皆様の応援や支持をお待ちしております。気に入っていただければ、何卒応援のほどよろしくお願いいたします。

まず、目次を見て、ご自身の知りたいテーマがあるかをご確認ください。関連する内容を網羅的に取り上げているので、その他の内容も役立つ情報になるかと思います。


◆CBDの効果や効能について【概略】

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先に結論からお示ししますと、最も信頼性の高いCBDの効果は以下の三つの効果になります。

● 抗けいれん作用
● 抗不安作用
● 睡眠改善効果


つづいて、比較的に信頼できるCBDの効果は以下の効果です。

● 依存抑制効果(集中力向上)
● 鎮痛作用、筋弛緩作用 [特に肌への塗布]
● 抗炎症作用


最後に、効果があるのか否かの判断が未だはっきりとはしておらず、エビデンスに欠けるが、有望性が示されている効果が以下のものになります。

・神経保護作用
・抗酸化作用
・抗ガン作用
・制吐作用
など


また、CBDを使う一般的な目的として多いのが、ストレスや不安、うつ、睡眠障害、痛み、疲労、不快感などの緩和であるということが海外の調査結果で判明しています。これらについてはCBDの以下の効果・作用の関連性が確認できます。

◆抗けいれん作用、抗不安作用など →ストレス、イライラ
◆抗不安作用など →不安、うつ
◆睡眠改善効果など →睡眠障害
◆鎮痛作用、抗炎症作用、筋弛緩作用など →痛み、不快感


それでは、これらの結論を導き出した詳細なレビューと考察について、これからじっくり説明していきます。

● 臨床試験の論文をもとにCBDの効果や作用についてまとめた結果

これまでの研究によって、CBDはざっと次のような症状に効く可能性があるといわれています。

依存症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ぜんそく、自閉症(ASD)、アルツハイマー病、ADHD、不安症、関節炎、自己免疫疾患、がん、脳震とう、脊椎損傷、うつ病、糖尿病、線維筋痛症、炎症性腸疾患、片頭痛、多発性硬化症、悪心、嘔吐、ニューロパチー、肥満、パーキンソン病、疼痛、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、統合失調症、てんかん(発作性疾患)、皮膚病、睡眠障害  ...など

引用:書籍『CBDのすべて』

しかし、上に挙げた疾患について、動物実験や培養細胞などにおける実験ではCBDが有効である可能性が示されましたが、実際にヒトに対する臨床研究で効果を示したという報告は非常に少ないのが現状です(※2020年)。

そこで私はヒトに対する臨床研究に注目して、CBDの効果(有効性)と信頼性(エビデンス)の関係を調査しました。

結論からお示ししますと、これまで(2020年~2021年頃まで)のヒトに対する臨床研究や事例から、各疾患および症状に対するCBDの効果(有効性)と信頼性(エビデンス)の関係はおおよそ以下の図のようにまとめられると考えられます。

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図の横軸の信頼性(エビデンス)があまり高くない疾患に関しては、縦軸の有効性のレベルが今後の研究で変動する可能性が高いと考えてください。ですので、これは完成図ではありません。

なお、図で示されている疾患は全てCBDの有効性の可能性が論文により示されています。したがって、評価が低いように見えるパーキンソン病などに関しても何らかの有効性を示しており、将来的な治療での活用が期待されています。

図の横軸の信頼性については、ヒトに対する臨床試験がどのくらいの規模や厳密性で行われ、どれくらいの数のヒト臨床試験が報告されているか、ということを基準にしています。なお、なぜ「ヒト」に対する試験に注目しているのかは後ほど説明します。


信頼性が3~5のもの(図の右側にある疾患)には何らかの有効性が存在しているのは間違いないと多くの人が考えている領域でしょう。また、塗布による痛みの緩和やPTSD、発達障害への効果・有効性はもっと信頼性が高くなるのではないかと思っています。しかし、十分に設計されたヒト臨床試験がほとんど報告されていなかったため、図のようになりました。

注意してほしいのは標準治療の補助薬としてCBDを使用した場合(の臨床試験)も含みます。つまり、疾患によっては標準治療薬とCBDの組み合わせが効果を示した場合も含みます。その点についても、後ほど疾患ごとに詳しく解説いたします。

上の図の詳細を示した表を以下に示します。各疾患や症状にCBDが与えた影響の詳細については後ほど説明していきます。

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●エビデンス:1~5で数字が大きいほどエビデンス力が高い
●有効性:◎→ほぼ有効性は間違いなし、〇→有効な結果が出ている、△→一部で有効だったが狙った効果は観られず(もしくは「間接的に有効」、あるいは「有望」)×→効果なし(または「悪化」)
●用量:低100~200mg以下、中300~600mg(成人の5~10mg/kg)付近、高800mg以上(※臨床試験での用量であるため、被験者の状態などにより差があることに注意)
※?は現時点で判断不可を表す

表中の評価は相対的なものです。つまり、エビデンス力が5だとしても、CBDにおいて他の疾患と比較すると5なのであって、「一般的に」十分なエビデンス力を示しているとは限りません。

用量については個人差が非常に大きく、ある報告では効果が見られたCBDの用量は最大で20倍の差があったと報告されています。つまり、300mgで効果を示したというデータがあったとしても、人によってはその20分の1の15mgで同様の効果が得られるかもしれません。このような個人差は、お酒で酔いやすい人とそうでない人がいるのと似ています。

また、研究論文に出ているような臨床試験では用量が多めに設定されていることが多いことにも注意が必要です。したがって、表中の「高」、「中」、「低」は絶対的なものではなく相対的なものとして参考にしてください。つまり、「『中』だから300mgは用量が必要なんだ」と捉えるのではなく、「『中』ということは『低』の疾患よりは必要な量が多い可能性が示されているんだ」と考えるべきです。


これら上表の結果から、各疾患ごとに分かりやすく評価していきますと、以下のようになります。(※2020年までの各臨床試験の結果をレビューして、私が独自で判断した評価ですのでご了承ください。)

● てんかん(けいれん、発作)
CBDの有効性 ★★★★★
エビデンス力 ★★★★★

● 不安障害
● 睡眠障害
CBDの有効性 ★★★★
エビデンス力 ★★★★

● 統合失調症
CBDの有効性 ★★★
エビデンス力 ★★★★

● 痛み、筋緊張 [主にCBDの塗布による結果]
CBDの有効性 ★★★★★
エビデンス力 ★★★

● 物質依存
● 高血圧
● 免疫暴走
● PTSD
● 発達障害

CBDの有効性 ★★★
エビデンス力 ★★☆

● パーキンソン病
CBDの有効性 ★☆
エビデンス力 ★★★☆

● 皮膚炎 [CBDの塗布による結果]
CBDの有効性 ★★☆
エビデンス力 ★☆



さらに、各臨床試験の結果からCBDの以下の効果・作用における各疾患への関連性が確認できます。

● 抗不安作用 →表の「不安障害」など
● 睡眠改善効果 →表の「睡眠障害」「PTSD」
● 依存抑制効果・食欲抑制作用 →表の「物質依存」
● 集中力向上・ストレス緩和 →表の「不安障害」「PTSD」「物質依存」など
● 神経保護作用 →表の「パーキンソン病」「てんかん」など
● 抗けいれん作用 →表の「てんかん」
● 鎮痛作用 →表の「皮膚炎」「痛み」など
● 抗炎症作用・免疫抑制作用 →表の「皮膚炎」「免疫暴走」「炎症性腸疾患」など
● 抗酸化作用 →表の「高血圧」など(他にもストレス抑制などによる老化防止)
● 抗がん作用 →表の「癌」など

〇 制吐作用 →その他の疾患を参照(ヒト臨床試験が見当たらなかった)
〇 鎮静作用 →抗不安やストレス緩和に関係?副作用としても挙げられる

※それぞれの信ぴょう性や効果のレベルは上表と照らし合わせて確認できます。


なお、ここで挙げられているもの以外の疾患について、私の知る限り、その他の疾患でヒトに対して厳密に設計された研究は報告されていませんでしたが、以下の記事で簡潔に言及しています。また、以下の記事では、「副作用についての簡単な解説」や「比較的に健康な消費者がどのような目的でCBDを使用しているのか」などについても解説しています。


◆ヒトに対する臨床試験に注目する理由と注意すべきバイアスについて

ここで私が注目しているのは、ヒトに対する臨床試験です。ヒト臨床研究に着目することには大きな理由があります。それは、ヒトに対して比較的規模の大きい臨床試験が行われている場合、その対象となる疾患や症状は既に前臨床研究、培養細胞などの試験で有望な結果が得られているはずだからです。なぜなら、ヒトで試すにはリスクがあり、しかも、ある程度の規模となると多額の資金が必要となるので、あまり実施する側も失敗したくないからです。

なお、ヒト臨床研究であまり有効な結果が得られなかったとしても、前臨床研究などでは有望な効果がみられている可能性が高いため、規模を大きくしたり投与方法などの条件を変えたりすれば、結果が変わってうまくいく可能性はあります。どのような条件でうまくいかなかったかということはデータとして重要です。

ヒト臨床研究のなかでも特に、厳密に効果が調べられる「ランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験(RCT)」に注目すべきです。これは薬の有効性を最も厳格に調べることができる臨床試験の方法だと言われています。

「プラセボ比較対照試験」とは患者らを対照群と薬物投与群にグループ分けし、対照群にはプラセボ(偽薬)を薬物投与群には実薬(CBD)を投与して比較する試験です。プラセボ(=プラシーボ)とは色や形は実薬と同じでも、薬としての有効成分を含まない「偽薬」のことです。さらに、「ランダム化」とはくじ引きなどのようにランダムに患者を対照群と薬物投与群へ振り分けることを意味します。また、「二重盲検」とは患者も医師もそれぞれがどの群に振り分けられたか分からないようにしていることを意味します。

ただし、RCTは最も厳格に調べることができる臨床試験とは言いましたが、それでも多くのバイアス(=偏見が誤解を生むこと)を避けることができません。そのため、一つの研究ではなく、多くの類似臨床研究を集めてまとめたシステマティック・レビュー(SR)が実際には最も信頼性の高い評価材料となります。実際に、このSRが医薬品開発において最も重要視されている調査報告です。


臨床試験における4つのバイアスの問題。

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臨床試験において、バイアスに関して触れたり言及したりすることはその論文の誠実性や価値を高めることにつながります。この点を曖昧にし、厳密さが疎かになっていると権威の高いジャーナルに論文を投稿するのは難しいといえます。ここでは、臨床試験における代表的なバイアスを4つほど紹介します。

●選択バイアス
まず、選択バイアスとは、臨床試験の対象患者を意図的に選んだり分けたりすることで生じるバイアスです。例えば、症状が重めの患者を実薬群に、軽めの患者をプラセボ群に割り当てようとすることです。こんなことをすると結果が偏るのは当たり前で、これがランダムで割り当てる理由になります。

●観察バイアス
次に観察バイアスです。効果を判定する観察者の思い込みによって生じるバイアスになります。症状を評価するとき、どうしても医師は実薬を投与してる患者の方が良くなっていると考えがちであったりします。これはよくある人間の心理で、ほとんど無意識のつもりでもバイアスがかかったりします。これを避けるのが二重盲検法になります。これで観察者も被験者もどちらの薬が投与されているかわからないため、このようなバイアスを避けられます。

●解析バイアス
解析バイアスは試験終了後に結果を解析する際に生じるものです。例えば、途中で試験をやめた患者を全体から除外するとバイアスになります。実薬群において症状が良くならなくて途中で試験を脱落した人が多かった場合、それを除外すると実薬を過大評価してしまいます。

●出版バイアス
また、臨床試験が行われたにもかかわらず、都合の悪い結果だから公表を控えてしまうことがあります。こうなると、臨床試験全体の結果が歪んでしまいます。これが医学雑誌への投稿における出版バイアスとなります。とにかく、行われた臨床試験は全て公表されて然るべきなのです。うまくいかなかった試験がボツにされて論文として投稿されなかった場合、あたかも全ての試験がうまくいったかのような印象を与えてしまうのです。

はっきり言って、バイアスはこれだけではありません。それだけ医学研究には誠実さが求められ、それを評価する側や読む側には注意深さが求められるのです。

※臨床試験ではよく「プラセボ群と比較して治験薬投与群で統計的に有意な改善がみられ、p=0.05でした。」といった表現があります。この「統計的に有意」というのはp値で表され、以下のような意味を持ちます。例えばp=0.05であれば普段起こりうる確率が5%であることを意味し、そのようなテスト結果は偶然とは言えないということを意味します。もしもp=0.5だと普段50%の確率で起こることがテストで起こったということになり、それはテストによるものではなく偶然ではないかと疑われてしまいます。なお、実際にはp<0.05で統計的に有意な結果であるとされています。


それでは、これから各疾患の詳細をみていきます。これらの詳細を見ることでCBDの特徴について理解が深まり、CBDがどういった症状にどのくらい実力を発揮するのかわかってきます。したがって、興味のない疾患についても理解しておくと、CBDの性質について点と点が繋がっていくかのようにわかってくるかもしれません。疾患や症状に詳しくないという人でも理解できるように配慮したので是非参考にしてみてください。

◆CBDと脳疾患 (精神疾患・神経疾患)について

精神疾患はこころの病(やまい)、神経疾患は脳の病と表現されることがあります。しかし、厳密にはどちらも脳の病です。では、どのような違いがあってこのように区別されているのでしょうか。

それは現代の医療技術を用いて、脳に発現する異常を観察できるか否かで区別されているのです。例えば、アルツハイマー病(認知症)では脳が委縮していることがわかりますし、パーキンソン病であれば黒質(中脳に位置する黒い組織)が変性していることを見分けることができるため、神経疾患と呼ばれてきました。一方で、発達障害やうつ病、双極性障害、統合失調症などが代表的な精神疾患は、これまでの技術では脳の異常が観察できず、心の病と誤魔化されてきました。

しかし、これらも最近になって脳の異常(病)が観察できるようになってきたのです。例えば発達障害であるASD(自閉症)では、脳の神経細胞どうしが情報伝達を行うシナプスという部位に異常があるということが判明しました。また、双極性障害には脳の視床上部内(視床下部は有名ですが、視床上部はほとんど知られていません)の細胞に異常があるのではないかということまでわかってきたという報告もあります。いずれ、脳科学が発展し、解明が進むと精神疾患と神経疾患は統合されていくことでしょう。ここではまず先に精神疾患について取り上げます。

※なお、発達障害を精神疾患とすることについては議論があったようですが、最新の基準DSM-5では発達障害も精神疾患に含まれているため、ここではこのように扱わせていただきます。

◆CBDと精神疾患(メンタル不調)

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中枢神経系にある脳の細胞(ニューロンやグリア細胞)にはカンナビノイド受容体が存在し、神経細胞の情報伝達調節や免疫調節に関与するということがわかってきました。大麻成分カンナビノイド(THCやCBDなど)がカンナビノイド受容体に関与することは、前回の記事「CBDについて」でも紹介したとおりです。すなわち、カンナビノイドは脳の機能を調節する働きを示すと言えます。

大麻の主要成分THCは抑うつや不安の軽減に効くことがわかってきています。中枢神経細胞に多く分布するカンナビノイド受容体CB1に作用する物質としてTHCは有名です。CB1は活性化されると、食欲増進作用や多幸感の増幅、鎮痛作用が効果としてあらわれます。「ハイ」になると言われているのはこのためです。

逆にCB1の阻害薬を使用すると、食欲が低下し、幸福感や快感を得られなくなり、鬱症状や不安・恐怖が強くなることが証明されています。例えば、CB1に作用するTHCは食欲増進効果があるので、逆にCB1を阻害する薬が肥満の治療薬になると考え、CB1阻害薬のリモナバンが開発されました。しかし、予想通り食欲減退と体重減少はあったのですが、うつや自殺未遂などといった副作用が問題となり販売が中止になりました。

このようにCB1の活性化は鬱や不安の抑制に重要な役割を果たします。なお、CBDはCB1に作用する内因性カンナビノイドの分解を阻害するため、間接的にCB1を活性化し、抗うつ作用を示すと言われています。また、CBDは抗不安薬、抗精神病薬、抗炎症薬のような作用があると言われています。精神疾患には脳細胞の炎症が関与していることが研究で分かってきているため、抗炎症作用も重要です。

しかし、CBDはカンナビノイド受容体以外の他の様々な受容体にも密接に関与することがわかっており、その全体のメカニズムは非常に複雑で、いまだ解明されていません。そのため、各疾患での症状に対するCBDの挙動を観察することは重要です。では、これから各精神疾患におけるCBDの研究を詳しくみていきましょう。

● 発達障害(ASD、ADHDなど)

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世界中では発達障害に悩む多くの人たちがCBDの効果に期待しているということはご存知でしょうか。発達障害のなかでも自閉症(ASD)や注意欠如/多動性障害(ADHD)は特に有名です。CBDは実際にこれら発達障害に関係する症状を緩和できることがわかってきています。

ASD(自閉症スペクトラム障害)とは

ASDは持続的なコミュニケーション障害や限定的な興味・活動が見られる自閉症のことです。ASDは現代では脳に原因のある発達障害であることが明らかになっているため、育て方などの問題ではないと考えられています。ASDの特徴と他の発達障害やうつ病の特徴は関連性があると言われています。

ASDは特に子供の頃に症状が顕著であり、成長するにしたがって落ち着いてくることが多いようですが、幼少期のASDでの弊害による影響などが大人になっても続くことがほとんどです。

他の発達障害で代表的なADHDは注意欠如・多動症のことであり、不注意や多動・衝動性の二つの症状が特徴的な発達障害です。ASDとADHDは区別されていますが、症状や治療法、薬の効き方に共通点があることから、臨床研究などでASDの症状を論じるときによくADHDの症状が評価の対象のひとつになることもあります。

共通点の多い発達障害・精神障害の発症顕在化の時期は以下のようであると報告されています。
【引用文献:Biological Psychiatry 2014, 76, 350.】

症状の発症顕在化の時期
・ASD : 幼児期 (およそ1歳~6歳)
・ADHD : 児童期 (小学生時代)
・不安症 : 児童期~思春期 (小学生後半~中学生)
・うつ病や躁病 : 青年期 (中学生以降)
・統合失調症や物質依存 : 青年期 (高校生以降)

これらのほとんどがいずれかは併発しやすい症状と言われており、何らかの関係性が指摘されています。

ASDの共存症としては以下の症状などがあり、ASD診断の評価指標にもなることがよくあります。
【引用文献:Lancet 2014, 383, 896.】

知的障害、ADHD、チック障害、運動障害、睡眠障害、不安症、うつ病、てんかん、胃腸障害、免疫系障害

このような症状が起こりうることを知ったうえで、早期に発見して発達支援を行うことが重要だと言われています。

なお、ASDには以下の二つの診断基準があると言われています。

1.社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的な障害。
2.限定的な反復された行動や興味、活動が見られる。

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ASDと診断される子どもの数は世界中で増え続け、この30年ほどで3倍以上になっていると言われています。

ASDの原因は脳によるものであり、簡単に制御できませんが、その特性は長所にもなり短所にもなると言われています。例えば以下のような特徴があります。

・みんなと一緒に何かするのは苦手 ⇔ 人の意見に左右されない
・好きなことはなかなかやめられない ⇔ 好きなことへの集中力が極めて高い
・完璧主義的で他がおろそかになりやすい ⇔ 真面目で几帳面で妥協したくない
・伝えるのが下手で誤解されやすい ⇔ 飽和するくらい思考が豊か

このように短所を長所のように変換して生かしていくことができると、非常に強みにもなると言えます。まずは発達障害に向き合い、上手く付き合っていくことを考えることが大切です。

自閉症(ASD)に対するCBDの研究をレビュー

自閉症スペクトラム(ASD)は現在の標準薬などによる標準治療ではあまりうまくいかない典型的な症状です。また、ASDはADHDやうつ病、てんかん等のような様々な病気と合併しやすいため、これら多くの症状に作用する医療大麻(カンナビノイド)、CBD(カンナビジオール)はASDにもってこいの選択肢であり、将来の治療薬としても有望視されています。

実際に最近の研究レビューでCBD(カンナビジオール)がASD治療薬の候補として可能性が示されています。CBDを含有する大麻がASDの子供に見られる自傷行為を減少させたという強力な事例証拠もあります。

不安・うつなどが生じるのはカンナビノイドの欠乏によりストレスの抑制機能がうまく働いていないためだと言われています。このカンナビノイド欠乏症はASD(自閉症スペクトラム)とも関係しているといわれ、外部からCBDなどのカンナビノイドの摂取を行う方法は非常に有効なASD等の治療法にもなると予想されています。

2013年に報告されたASDのマウスモデルの研究では、ASDの原因において内因性カンナビノイドシステムの関与が実証されています。また、CBDは直接カンナビノイド受容体に作動薬として作用せず、内因性カンナビノイド(アナンダミドなど)を分解する酵素の働きを阻害することで間接的にカンナビノイド受容体を活性化させると言われています。ある動物実験では内因性カンナビノイドであるアナンダミドを分解する酵素の働きを阻害すると反社会的行動が改善されたという報告があります。これもCBDが自閉症に効果を示しうるということを裏付けている可能性があります。


2018年、112人の子供から収集された血液サンプルのアナンダミド濃度を定量的に分析したところ、アナンダミド濃度はASD症例(N = 59人)と対照(N = 53人)を有意に区別し、より低いアナンダミド濃度の子供はASDになる可能性が高かった(p = 0.041)と報告しました。
【引用文献:Plasma anandamide concentrations are lower in children with autism spectrum disorder. Molecular Autism 2018. 9, 18.

この概念に沿って、アナンダミド濃度は対照の子供と比較してASDで有意に低かった(p = 0.034)ようです。これらのデータは、アナンダミドシグナル伝達の障害がASDの病態生理に関与している可能性があることを示唆しています。なお、pの値の意味に関しては「ヒトに対する臨床試験」の説明で前述した通りです。

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関連するCBDを用いた最近の臨床的な研究に関してはいくつか報告がありました。

ASDの子供約50人に対して、CBDオイルの口腔内投与を行い、症状への効果を調べた臨床研究が2019年に報告されました。
【引用文献:Oral Cannabidiol Use in Children With Autism Spectrum Disorder to Treat Related Symptoms and Co-morbidities. Front. Pharmacol 2019, 9, Article: 1521.

臨床研究の参加者は4歳から22歳の子供でした。使用したCBDオイルはCBD:THCがおよそ20:1のCBDオイルでした。そのため多少はTHCの影響が考えられますが、メインはCBDの効果を評価するのが目的です。一日のCBDの用量は45~143mgで、少なくとも一か月以上の投与日数で実施されました。結果、CBDがASD併存症状の改善に有効である可能性が示されました。

【結果と考察】
自閉症スペクトラム障害(ASD)の子供は多動、自傷、攻撃性、落ち着きのなさ、不安、睡眠障害などの併存症状を示します。この研究では、これら併存症状の評価を行うことで、ASD症状の変化を調べています。なお、この試験は、監督下でCBDオイルをASDの子供に投与した両親の記録をもとに行われました。

結果は以下の通りでした。※カッコ内の報告数は該当する者のうち正しく記録されて実際に報告があった人数です。

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ASD併存疾患の症状における全体的な改善は74.5%であり、調査結果はCBDがASD併存症状の改善に有効である可能性を示唆しました。ただし、プラセボを使用した比較対照試験ではないため、解釈に注意が必要です。

報告された主な副作用は傾眠と軽い食欲の変化であり、短期間で自然に解消するというものでした。


続いて150人規模のASDの子供に対して追跡調査した研究についてです。
【引用文献:Real life Experience of Medical Cannabis Treatment in Autism: Analysis of Safety and Efficacy. Scientific Reports 2019, 9, Article number: 200.

調査に参加したのは平均13歳の男子で、CBDオイルの用量に関してはCBD15mgを1日3回舌下投与するところから開始し、親の判断で増減することにしました。用いたCBDオイル(CBD:THC=20:1)や調査国、関与した医療機関など多くの点で先述の研究と類似しています。半年の治療で多くの症状において改善が見られ、CBDによる多動性症状、睡眠障害、不安症状の改善効果が裏付けられた結果となりました。

【結果と考察】
この研究でもCBDオイルをASDの子供に投与した親の記録をもとに行われ、治療開始前および治療開始から1ヶ月後と半年後にアンケートによる調査が実施されました。188人のうち半年後も治療を継続した155人(82%)の中の6割がアンケートに協力しました。半年時点での症状変化における結果は以下の通りで、信頼性の高いものにしぼって取り上げました。※報告した人数が多い、あるいは症状に変化があって一貫性があった項目。

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落ち着きのなさ、怒り発作、興奮、睡眠障害、不安症状、けいれん、便秘、チック、消化不良、抑うつに関しては75%以上が改善したと回答しました。さらにこの中でも、落ち着きのなさ、怒り発作、不安症状、けいれん、チック、抑うつに関しては約90%以上が改善したと回答しました。

また、睡眠の質の改善や集中力の向上により日常生活の質の改善も確認されました。大部分の割合で落ち着きのなさや興奮、発作が緩和し集中力が向上していることから多動性症状は改善していると言えるでしょう。このように考えると、先述の研究における多動性症状、睡眠障害、不安症状の改善が裏付けられた結果となりました。

副作用は約25%が報告しており、落ち着きのなさ、眠気、興奮、消化器症状、食欲の変化、口渇などが一時的に認められました。


さらにその後、標準化されたCBD強化エキス(CBDとTHCの比率が75:1)をカプセル化して経口投与する治療を受けた18人の自閉症患者群による臨床研究報告がありました。
【引用文献:Effects of CBD-Enriched Cannabis sativa Extract on Autism Spectrum Disorder Symptoms: An Observational Study of 18 Participants Undergoing Compassionate Use. Front. Pharmacol 2019, 10, Article: 1145.

調査に参加したのは7~18歳の男女で、CBDの用量は平均して4.6 mg / kg / dayでした。参加した18人のうち15人が6か月間もしくは9か月間の治療期間を終え、結果を報告しました。結果、ASD患者の症状は改善が見られ、介護者を含めた両方の生活の質も大幅に改善されることが示されました。

【結果と考察】
この研究でもCBDをASDの子供に投与した両親の記録をもとに行われました。治療を順守した15人の患者のうち、10人が非てんかん患者で5人がてんかん患者でした。結果は以下の通りでした。

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顕著な改善はすべての症状でみられました。また、一人当たり複数の項目での改善が見られ、明らかに有意な結果が得られました。特に睡眠障害とけいれんでは顕著な結果が見られ、過去の研究を裏付ける結果にもなりました。ADHDの症状でも明らかに多くの人で有意な改善が見られました。

15人の患者のうち10人が他の薬を使用しており、そのうち9人は他の薬を減量もしくは中止した後でも改善を維持することができました。なお、副作用は眠気、過敏性、下痢、食欲増進などが見られ、これらすべて軽度または一時的なものでした。
 

<考察・まとめ>
前述の3つの2019年臨床研究報告を比較すると、いずれにおいても多動性症状(ADHD)と睡眠障害の改善は共通しており、信ぴょう性の高いものでした。不安・抑うつ症状とけいれん・発作の緩和は二つの研究例で共通して明確にみられたことから、これらも信ぴょう性が高いと言えるでしょう。また、最初に紹介した報告にあった自傷行為は三つ目に紹介した報告の行動障害に当てはめることができるので、自傷行為・行動障害の改善も期待できると言えます。

共通して改善した項目
・ADHD(多動性症状)
・睡眠障害
・不安や抑うつ症状
・けいれんや発作
・行動障害(自傷行為)


二つ目の報告と三つ目の報告の比較で注目するべき点は発話障害と認知障害です。THCの含有量が少ないCBDリッチのものを使用した三つ目の報告では発話障害と認知障害において多数の割合で改善が見られ、悪化はありませんでしたが、二つ目の報告では発話障害と認知障害の改善は少ない割合でしかありませんでした。これは子供に対するTHCの影響である可能性が考えられます。

THCの割合が減ると改善した項目
・発話障害
・認知障害

CBDとTHCの比率が75:1でもTHCのアントラージュ効果はありうるので、もしかすると子供には、この75:1が良い割合なのかもしれません。しかし、効果は年齢や症状の重さ、その人の生まれ持った耐性などによっても異なってくるので慎重に判断していく必要があるでしょう。

なお、これらの研究は対照群が設定されていない点や判断を親に任せている点など厳密性に欠ける部分があるのは事実ですが、ASDでこれほど治療に有望な選択肢はあまり見たことありません。


ADHD(注意欠如/多動性障害)とは

注意欠如/多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、一般的に感情の調節不全や認知の障害を伴った不注意や多動・衝動といった症状によって特徴づけられます。

例えば以下のような症状です。
・注意欠如:ケアレスミスが多い、注意力が持続できない、作業中でも別のことに気を取られるなど。
・多動/衝動:落ち着かない、他人の話に割り込んでしまう、じっとしていられないなど。

ADHDは脳の機能異常によっておこる発達障害の一種であるため、上記のような症状を意識的に抑えるためには異常な精神的努力が必要で制御困難となっています。つまり医学的に、しつけや本人の性格の問題ではないとされています。

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ADHDの人に共通して問題視されていることの一つは併発しうる薬物依存です。ADHDにおいて薬物依存のリスクが高まる理由には自己治療を目的とした使用のためということが挙げられます。

このことの根拠は以下の3つの事柄に基づきます。

1.まずひとつめに不安や睡眠障害を改善する目的で薬物を使用する傾向があり、ADHDの症状の改善を補助できると主張されています。例えば睡眠薬などです。

2.次に日本では馴染みがないかもしれませんが、いわゆる覚醒作用のある薬物による治療はADHDにおいて推奨される治療とされており、このことがそのような症状を軽減する薬物を個人が使用したがる傾向に貢献している可能性があります。※なお、治療に使用される覚醒剤は医療用途として、効果の強さ・成分が規制・管理されていると考えられるため、危険ドラッグのような認識とは区別されていると考えられます。

3.また、ADHDの成人に対して大麻の使用が有益であると臨床試験で報告されているということは、(おそらくイギリスなどにおいて)常識の通りであり、大麻の効果はADHD患者を心穏やかにし、疲労感や睡眠障害を改善して集中力を維持するのを助けるということが示されています。
※米国では、実際に過去に医療専門家が、麻薬政策に関する議会の小委員会の前で、ADHDの治療法として大麻を提唱しました。


大麻成分であるカンナビノイドの効果を調査・研究することは、ADHDに関連する全く新しい作用機序の発見や新しい治療方法の開発に繋がりうるという意味でも重要です。ADHDにおいては覚醒剤やアトモキセチンなどの薬物療法が既にありますが、効果的でない場合もあり、十分な忍容性があるとも言い切れません。実際にいくつかの事例ではより深刻な副作用が報告されており、米国食品医薬品局(FDA)が心血管への影響、成長抑制、精神疾患の発症のリスクを伴う可能性があるという警告を示しています。

また、ヘロインなどと同様のオピオイド系の薬物は実際の医療の場で使用されていますが、その副作用による健康被害は計り知れません。そのような中、比較的に安全性の高い大麻がオピオイド薬の代替薬として期待されています。

ADHD(注意欠如・多動症)に対するCBDの研究

ADHD(注意欠如・多動症)に対する大麻の効能に関心が集められ、一部の臨床医によってADHD治療に大麻の処方が推奨されているにも関わらず、ADHDに対するカンナビノイドの調査試験は最近まで行われていませんでした。そのようななか、ADHDに対してCBDを利用した臨床試験を調査したところ、前述でも紹介したようにASDの研究はいくつか報告されていたものの、ADHDの研究は見当たりませんでした(2020年5月)。

ところが、サティベックス(CBD:THC=1:1の混合製剤)をADHDの患者に用いた臨床試験(ランダム化比較対照試験: RCT)が2017年に報告されており、その内容が非常に興味深いものでした。
※サティベックスの調査に興味がない方は、このADHDの節だけ飛ばして、次に進んでもらっても構いません。ここでの内容はTHCの影響が無視できない話になっています。ただし、臨床試験の見方について知識を深めたい人には読むことをお勧めします。


ADHDに対するサティベックス(THC:CBD=1:1の口腔粘膜スプレー)の臨床試験はイギリスのロンドンで実施されました。試験はランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験でした。
【引用文献:Cannabinoids in attention-deficit/hyperactivity disorder: A randomised-controlled trial. Eur. Neuropsychopharmacol. 2017, 27(8), 795–808.

臨床試験を受けられる適格基準はDSM-5に準拠した複合型ADHDと診断されることであり、ASDや重度のうつ病、双極性障害などの一次診断を受けた者は除外されています。さらに、ADHD治療において薬物療法を受けていない者か、覚醒剤のみによる薬物療法を受けていた者を適格とし、後者に関しては試験の1週間前に処方されている覚醒剤の使用をやめることを条件としました。基準に適格した30人の成人を15人のサティベックス群と15人のプラセボ群にランダムで割り振りました(※サティベックス:THC2.7mg, CBD2.5mg / 1 spray)。6週間の治療後、サティベックス群で衝動性や多動性、情緒不安などにおいて改善の傾向が観察されました。さらに認知挙動へのネガティブな結果はみられませんでした。

【設定】
6週間の治療期間のうち、最初の2週間は適切な投与量を見つけるための用量の漸増・調節期間で、その後の4週間は最適化した投与量を維持して服用し続ける期間でした。最終的には1日当たりサティベックス群で平均値4.7 spray (範囲1-13 spray)、プラセボ群で平均値8.5 spray (範囲2.1-14 spray)の摂取量となり、プラセボ群で有意に多く摂取したがる傾向が見られました(p=0.02: ※統計学的に意味のある数値)。これはプラセボでは摂取しても、なかなか効果を感じられなかったためだと考えられます。なお、4.7 sprayはTHC12.7mg, CBD11.8mgに相当します。試験後には、フィードバックの結果、1日当たり最大8 sprayまで、適量を3-5 spray程度とするのが適切だったのではないかと考察されています。

このような対応をしたことには理由があります。もともとサティベックスは多発性硬化症を緩和する目的で使われていたものであったため、ADHD患者には用量設定が高すぎました。そのため、投与量の漸増中に薬剤の効果が見られた場合、その効果が衰え始めるまで用量を増量すべきではないということを参加者に通知していました 。ここで得られた知見は今後、精神疾患などの臨床試験でCBDとTHCの混合製剤を利用する場合、用量を見直すための有益な情報になりうると言えます。また、ここでの投与量の範囲の結果を見ると、人によって効果の現れる用量がかなり異なる可能性があります。

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過去のサティベックスにおける乱用性・中毒性を確認するための研究では、プラセボとの有意な差について4 sprayの用量では見られませんでしたが、8-16 sprayでは有意な差が見られたようです。つまり、一日あたり8-16 spray以上の使用では人によっては乱用の危険性があります。一方で、サティベックスの慢性投与の研究では多発性硬化症の患者において1-3年の使用でも耐性および依存性を示す証拠は現れなかったようです。なお、今回の臨床試験におけるサティベックス投与群での主な副作用は目まい(2人)と下痢(1人)でしたが、これらの症状は一時的なものでした。

【結果】
今回の臨床試験で、認知能力と活動レベル、ADHDに特徴的な挙動、情緒不安定症状への影響が調査されました。事前評価は治療期間前のベースラインの際に行われ、治療後評価は治療期間終了時の6週間後に行われました。

認知能力と活動レベルに関してはQbテスト(定量的行動テスト)ではかられ、統計的に有意なほどの違いとは言えませんが、プラセボ群と比較してサティベックス群で、より改善が見られました。なお、Qbテストの指標となるQbスコアは以下のQb Inattention、Qb Impulsivity、Qb Activityの3つのデータの結果から求められました。※Qbテストは素早い要求に対する応答の速度や正確性、様子を観察する試験です。

Qb Inattention (不注意):
・Qb OE(Omission Error)…見落としによるエラー[応答するべき際に反応しない]
・Qb RTV(Reaction Time Variability)…応答時間のばらつき

Qb Impulsivity (衝動性):
・Qb CE(Comission Error)…要求に対するエラー[求められていない応答をする]

Qb Activity (多動性):
・Qb Activity…頭部の動き

求められていない応答をするか否かの衝動性をみるQb CE(Commission Error)という項目についてはサティベックス群で統計的に有意な改善が見られましたが、Qb Activity, Qb RTVに関しては、改善したものの統計的には弱い結果でした。しかし、有意な改善があったQb CEに関しては治療前のベースラインの時点でサティベックス群のスコアがプラセボ群に比べてかなり高かったため(=つまり、衝動性の高い人がサティベックス群に多く、サティベックス群の方がスコアの低下による改善が観察されやすい条件であったため)、有意な改善が過大評価されている可能性があります。なお、Qb OEに関しては有意な差がなく、効果があるかわかりませんでした。

注目すべきなのは、ネガティブな結果が全くなかったという点です。サティベックスがADHDの認知行動に悪影響を全く及ぼさなかったというのは非常に驚くべき結果かもしれません。一般的に大麻の使用は認知機能障害と関連付けらます。THCのみでは認知行動への悪影響が実際に見られています。サティベックスではCBDがTHCによる認知機能への影響を抑制することが研究により示されており、このことが理由として挙げられます。したがって、THCの割合が少ないほど、認知障害に関する懸念が緩和されると考えられます。CBDのADHD患者に対する効果を考えるうえでも非常に興味深い研究です。

さらに、ADHDの挙動や情緒不安定症状についてはコナーズらによる評価尺度などが利用されました。ADHDの挙動において、多動性/衝動性(CW Hyp/Imp)でプラセボ群と比較してサティベックス群で統計的に有意な改善が得られ、不注意(CW Inattention)に関しても同様にサティベックス群で改善の傾向が見られました。

なお、情緒不安(CW EL)では統計的には意味のある結果と言えず、プラセボ群と比較してサティベックス群で改善したかも微妙な結果でした。しかし、情緒不安(CW EL)はベースラインの時点でサティベックス群のスコアがプラセボ群と比較してかなり低かったため(つまり、情緒不安の人がサティベックス群に少なかったため)、本来はもっと有意な改善が見られていた可能性があります。なお、利用された他の情緒不安定性(Emotional lability)の尺度には他にもCNS-LSやALSがあり、いずれもプラセボ群と比較してサティベックス群で改善の傾向が見られました(下表)。

具体的な結果を以下の表に示します。※なお、表中のp値は小さいほど偶然起こったことではないことを意味し、統計学的に意味のある有意な変化はp≦0.05の範囲としています。ただしp<0.25は表中に含めました。

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表の評価尺度に関しては、どれもスコア(数値)が高いほどADHDに関連する症状が強いと捉えて問題ありません。※Qb OEに関してはp値が高かったため、表には結果を省きました。

【考察】
これらの改善理由の説明として考えられることは、CBDやTHCに不安を軽減する効果が示されているということがあります。また、大麻の心穏やかにする効果は疲労感や衝動的な挙動を抑制し、ADHDの症状を緩和していると考察できます。多動や衝動、不注意をつかさどる神経メカニズムにサティベックスは働きかけていると言えるでしょう。

認知挙動へのネガティブな結果がなかったという今回の事例は、ADHDの人が個々で自己治療として大麻を利用するという傾向を裏付けているのかもしれません。実際に、心穏やかになり集中力が増したという患者の声もあります。

今回の試験にある認知能力やADHDの挙動の改善に関しては、既存治療薬である医療用覚醒剤によるRCT(ランダム化比較対照試験)の結果に類似していました。このことは大麻の医療的価値を支持する結果になりうると言えるでしょう。

● 統合失調症

これまでの研究から、CBDは統合失調症の妄想・幻聴・幻覚などの陽性症状だけでなく、意欲低下などの陰性症状も治療する薬になりうる潜在的な可能性がみられています。

統合失調症とは

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統合失調症は精神医療の現場でよくみられる病気と言われており、脳機能の障害により異常な行動や思考が現れます。

統合失調症には主に以下の三つの症状が挙げられます。

・陽性症状:妄想、幻聴、幻覚
・陰性症状:意欲低下、感情の平坦化、引きこもり
・認知機能障害:注意・判断力の低下、思考障害
※認知機能障害を陽性症状に加えて、陽性症状と陰性症状の二つの症状にまとめる場合もあります。

特徴として、初期(急性期)には陽性症状や認知機能障害の激しい症状が現れます。その後、消耗期を経て、陽性症状が落ち着いた頃に陰性症状が主にみられるようになります(慢性期)。

統合失調症に対する従来の治療薬とその問題点

陽性症状に対する対応は比較的簡単で、興奮を抑えたり、不安を和らげたり、落ち着かせたりする薬で症状を軽減できると言われています。また、幻聴や幻覚の原因のひとつは睡眠障害とも言われているため睡眠薬で改善することもあります。

一方で陰性症状に対する治療は難しいと言われています。陰性症状に効果があると言われているのは一般的に覚醒剤のような作用薬であり、処方できるような医療が整った国や地域は限られています。実際に、このような気分を向上させる薬物は、種類によっては医学的に有益であるというエビデンスがあるにもかかわらず、禁止されている場合が多いのが現状です。大麻などはその好例であると言えるでしょう。

統合失調症の薬としてまず処方されるのは抗精神病薬です。抗精神病薬の多くは脳内のドーパミンD2受容体の拮抗薬として作用することでドーパミン機能を低下させます。このような作用を持つ抗精神病薬は多くの患者に効果が認められますが、治療反応が貧弱な患者もかなりいます。抗精神病薬は、有益な効果が主に陽性症状に対するもので、陰性症状と認知障害に対してはあまり影響を与えません。これは、陽性症状とは対照的に、統合失調症の陰性症状はドーパミン機能の上昇によって引き起こされないためかもしれません。

一方で、セロトニン受容体への作用が抗精神病薬の副作用や統合失調症の陰性症状を低減・改善するメカニズムに関係している可能性が示されてきています。したがって、ドーパミン受容体への作用が主要な抗精神病薬とは異なる作用機序を示す化合物は、統合失調症の治療を改善する新しい薬もしくは補助薬となる可能性があります。

統合失調症に対するCBDの研究をレビュー

CBDはTHCの「ハイ」になるような向精神作用を抑制する働きをもち、安全性の高いカンナビノイドとして注目されています。大麻使用後の精神病症状および認知機能障害のリスクは、CBD含有量が比較的高い大麻製剤を使用すると低くなります。また、健康なボランティアでは、THCによる精神病症状の誘発と認知能力に対するTHCの悪影響の両方がCBDの事前投与によって軽減されています。

CBDの作用機序は複雑で、未解明の部分が多いですが、抗精神病薬のようなドーパミン受容体への直接拮抗作用は関与していないようです。一方で、CBDはセロトニン受容体5HT1Aに関与しており、内因性カンナビノイドの分解を阻害してカンナビノイド受容体を刺激します。また、CBDは他の受容体への関与も示されています。このことは、CBDがこれまでとは異なる作用機序を示す新しい精神病治療薬となる可能性を示唆しています。


1995年に報告された最初の症例研究報告では、1500 mgのCBDを26日間投与すると治療抵抗性統合失調症に有益であることを示しました。CBDは抗精神病薬と同程度に統合失調症を改善したにも関わらず、副作用で有益な結果をもたらしました。
【引用文献:Antipsychotic Effect of Cannabidiol. J. Clin. Psychiatry. 1995, 56(10), 485.


その後、2006年に報告された症例では、3人の治療抵抗性統合失調症の男性患者がCBD単剤療法で4週間治療されました。この治療では、初期経口投与量が40mgであり、最終的に1280mg /日に達しました。著者らは、1人の患者でのみCBD治療後の陽性症状と陰性症状の穏やかな改善を報告しました。
【引用文献:Cannabidiol monotherapy for treatment-resistant schizophrenia. Journal of Psychopharmacology 2006, 20(5), 683.


また、最近の2019年には、治療抵抗性統合失調症の57歳の女性の症例が報告されました。
【引用文献:Remission of severe, treatment-resistant schizophrenia following adjunctive cannabidiol. Aust. New Zeal. J. Psychiatry. 2019, 53, 262.

入院時、彼女はPANSS(統合失調症の陽性および陰性症候群スケール)での症状スコアの合計が117で、そのうち陰性症状スコアは41でした。なお、PANSSについてはこの後さらに詳細に取り上げるので、その際に詳しく説明します。彼女はクロザピン(275 mg /日)とラモトリギン(225 mg /日)による治療の補助として、1日2回CBD 500 mgを投与され、7週間後に1日2回750 mgの投与量に増量しました。結果、PANSSの合計スコアは68に減少し、症状の改善がみられました。また、陰性症状スコアは21に減少しました。これにより、陰性症状は寛解基準を達成しました。


2012年、主に急性の妄想性統合失調症症状が認められた患者42人を対象に、4週間にわたる600~800mg/日の経口CBD投与と抗精神病薬アミスルプリドの投与の比較試験が報告されました。
【引用文献:Cannabidiol enhances anandamide signaling and alleviates psychotic symptoms of schizophrenia. Transl. Psychiatry 2012, 2(3), e94.

試験はランダム化二重盲検比較対照試験(RCT)により実施されました。妄想性統合失調症の参加者42人の平均年齢は30歳であり、ランダムにCBD投与群とアミスルプリド投与群に割り振られました。CBD群の平均体重は82kgであったため、一日当たり7.3~9.8mg/kgのCBD投与量でした。4週間の治療後、両薬剤とも統合失調症の陽性および陰性症候群スケール(PANSS)での評価スコアが同程度に低下して改善がみられましたが、CBDで顕著に副作用が少なくなっていました。同時にCBD群で内因性カンナビノイドであるアナンダミドの血中濃度の上昇が報告されました。これはCBDがアナンダミドの分解を阻害するためです。より厳密にいうと、CBDがアナンダミドを分解する酵素を阻害するためです。このような作用機序が統合失調症の治療における完全に新しいメカニズム(による抗精神病効果)を表す可能性があることが指摘されています。

【結果と考察】
統合失調症の評価尺度であるPANSSスコアの詳細を下表に示します。

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※図はPANSSの各症状スコアの変動(低下)をグラフ化したもので、aが合計スコア、bが陽性症状スコア、cが陰性症状スコア、dが一般スコアを示します。青色がCBDで赤色がアミスルプリド。

興味深いのは、PANSSでの陰性症状の評価において、抗精神病薬であるアミスルプリドと比較してCBDが症状を1.5倍程度軽減したことが比較的統計的に意味のある値で示されたことです(p≒0.1)。前述したように、統合失調症における薬物療法による陰性症状の軽減は難しく、現代の課題でもあります。


さらに、2018年には統合失調症の補助療法としてのCBDの安全性と有効性を調査するためのランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験が実施されました。
【引用文献:Cannabidiol (CBD) as an Adjunctive Therapy in Schizophrenia: A Multicenter Randomized Controlled Trial. Am. J. Psychiatry 2018, 175(3), 225.

これは統合失調症における最初のCBDのプラセボ比較対照試験だと筆者は述べています。この臨床試験では、抗精神病薬に部分的に反応していた88人の患者に、CBD 1000mg/dayまたはプラセボのいずれかを追加治療として6週間投与しました。陽性および陰性の精神病症状(PANSS)、認知能力(BACS)、機能レベル(GAF)、治療中の全体的な臨床印象(CGI-IおよびCGI-S)に対するCBDの影響が評価されました。

【設定】
参加者は18〜65歳で、DSM-IVで定義されている統合失調症または関連する精神病性障害である必要がありました。なお、年齢の平均は41歳で、平均体重が84kg(CBD群)、BMIの平均が28でした。つまり一日当たりのCBD服用量は12mg/kgと言い換えることもできます。また、以前に抗精神病薬への少なくとも部分的な応答を示したこと(すなわち、治療抵抗性の病気ではなかったこと)と少なくとも4週間安定した用量の抗精神病薬を受けていたことが必要で、この治療は試験期間中も変わらず継続されました。主な抗精神病薬はアリピプラゾール、オランザピン、リスペリドンでした。他にはアミスルプリド、クエチアピンなどがありました。患者一人につきCBDと併用している薬は一種類の抗精神病薬のみでした。

患者はおよそ1:1の比率でCBD群とプラセボ群にランダムで割り当てられました。CBD群ではCBD1000mg/day(一日当たり100 mg / mL経口溶液10 mL)を、プラセボ群ではプラセボ(賦形剤のみ)を朝と夜の2回に分けて投与されました。

【結果】
陽性症状はPANSS陽性スコアにてプラセボ群と比較してCBD群で有意な減少が見られました(p<0.05)。

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※図は陽性症状のスコアの変動(低下)を示す。CBD群が緑色、プラセボ群が橙色。

陰性症状はPANSS陰性スコアでは統計的に意味のある結果は得られませんでした。一方で、陰性症状において、別の尺度のSANSスコアでも統計的に有意とまではいきませんでしたが、プラセボ群と比較してCBD群でより症状スコア低下の傾向が見られました(p=0.12)。
結果は下表に示します。

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PANSS合計スコア(陽性スコア+陰性スコア+一般スコア)が20%以上改善した患者数の割合はプラセボ群よりもCBD群で高かった(p=0.09)のですが、その人数は多くはなく、それぞれCBD群で12人(29%)、プラセボ群で6人(14%)でした。陽性スコアのみでは同様の改善傾向がCBD群でより顕著でした(p=0.06)。

臨床の全体的な印象の改善度合をはかるCGI-Iでは、CBD群でプラセボ群と比較して有意に改善した患者の割合が高くなりました(p<0.05)。

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※図はCGIにおいて、各改善度合の患者の割合を示す。図の左ほど改善度合が高く、右ほど悪化度合が高い。CBD群が緑色、プラセボ群が橙色。

また、臨床の全体的な印象の重症度合をはかるCGI-Sでは、CBD群でプラセボ群と比較して有意に重症度の患者の割合が低くなりました(p<0.05)。

さらに、機能レベルをはかるGAFスコアでも認知パフォーマンスをはかるBACSスコアでもCBD群でプラセボ群と比較して改善の傾向が見られました(それぞれp=0.08、p=0.07)。なお、認知パフォーマンスの中でも特に運動速度と実行機能のスコアにおいてCBDで有意な改善が顕著でした(それぞれp=0.04、p=0.07)。

主な有害事象・副作用は、以下の表の通りでした。いずれも軽度で一時的なものでした。

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有害事象についてはCBD群とプラセボ群で有意な差はありませんでした。すなわち、CBDは良好な忍容性を示しています。上表にあるように、特徴的なのは消化管に関わる軽度の副作用(胃腸障害、下痢、吐き気)がCBD群で明らかに多かったということです。なお、神経系障害や精神障害、傾眠に関してはプラセボ群に多く見られました。

これはCBDが、統合失調症の悪化や抗精神病薬の副作用を抑制している代わりに、胃腸などの消化器系へ負担をかけているような印象があります。CBDは人によって適切な用量が異なるので用量の調節でこれらの問題が解決する可能性があります。

副作用で試験を離脱したのはCBD群で一人、プラセボ群で一人でした。離脱者について、CBD群では下痢、腹痛、嘔吐によるもので、プラセボ群では傾眠や知覚の変化によるものでしたが、これらの症状はその後解消されました。

【考察】
CBDを抗精神病薬の追加の補助薬として使用したこの臨床試験では、すでに適切な用量での抗精神病薬の治療があったため、スコアへの影響は全体的に控えめでしたが、統計的に意味のある改善が見られました。これは、従来の抗精神病薬治療の効果を上回ったと言えます。また、これらの結果は、統合失調症やパーキンソン病における精神病症状およびTHC誘発性精神病症状をCBDが軽減したという過去に報告された研究結果とつじつまが合います。さらに、認知パフォーマンスの全体的な改善の傾向はCBDが認知に有益な影響を与える可能性を示しました。

2012年に報告されたアミスルプリドを用いた比較試験でのPANSSスコアと比較して考えると、統合失調症における初期の急性症状の際に従来通り抗精神病薬を使用して安定化させてから追加でCBDを用いるよりも、統合失調症の初期段階からCBD主体で治療したほうが結果がより改善されているように思われます。これはカンナビノイドの潜在的な有用性を示している可能性があります。

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ところが、2018年に報告された別のランダム化プラセボ比較対照試験では600mg/日のCBD投与においてプラセボと比較して有意な症状の改善が見られませんでした。
【引用文献:The effects of cannabidiol (CBD) on cognition and symptoms in outpatients with chronic schizophrenia a randomized placebo controlled trial. Psychopharmacology 2018, 235, 1923.

この研究では慢性統合失調症の36人の患者を対象とした6週間の治療において、プラセボ群とCBD群の両方で PANSSスコアが改善されたことが明らかになりましたが、プラセボとの比較ではCBDによる有意な改善は認められませんでした。なお、CBDの忍容性は良好でした。

【考察】
しかし、この臨床研究には誤解しやすい問題点が多く、この直前に紹介した、プラセボ群と比較してCBD群で統合失調症症状が有意に改善した臨床試験よりも解釈に注意が必要です。その理由はいくつかあります。

1.まず、この研究での対象患者は、あらゆる治療を尽くした長年診察を受けていた慢性の統合失調症患者であり、安定した抗精神病薬による治療も受けていた患者であったということです。

2.さらに、いずれの研究も試験期間中に抗精神病薬を併用していましたが、CBDが有益だった研究では複数の抗精神病薬を服用している者は除外されていたのに対し、この研究ではそのような基準はなく、しかもプラセボ群で明らかに多くの気分安定薬や複数の抗精神病薬を使用していました。CBDが有益だった研究では併用薬の数が1種類/人であったのに対し、この研究ではCBD群でおよそ2種類/人、プラセボ群で3種類/人の併用薬を併用していました。

3.しかも、この研究では、治療前の症状においてPANSSスコアがプラセボ群で明らかに顕著に高く、スコアの低下のしやすさ(伸びしろ)はプラセボ群のほうが認められやすいという状況でした。なお、この前に紹介したCBDが有益だった研究では、治療前のPANSSスコアはCBD群とプラセボ群で同程度でした。

4.また、CBDの用量もこの研究のほうが少なかったため、用量も関与している可能性があります。規模もこの研究のほうが小さく、設計も全体的にバイアスがかかりやすいものでした。

これらのことから、公平に精査した結果、より信頼性が高いのは有益な効果を支持したほうの研究だと私は結論づけています。ただし、症例報告でもあったように、慢性で治療抵抗性のある統合失調症患者は症状が改善しにくく、改善するとしても非常に高用量のCBD投与の場合のみである可能性が考えられます。とはいえ、初期(急性期)での対応や補助薬として利用する場合、CBDは統合失調症の有効な治療薬である可能性が示されていました。


さらに、最近のランダム化二重盲検比較対照試験(RCT)により600 mgのCBD単回投与が一時的に海馬回、線条体、および中脳の異常な脳活動を正常化することが判明したため、CBDは精神病の臨床的ハイリスクをもつ若者に予防効果をもたらす可能性が示されました。
【引用文献:Effect of Cannabidiol on Medial Temporal, Midbrain, and Striatal Dysfunction in People at Clinical High Risk of Psychosis. JAMA Psychiatry 2018, 75(11), 1107.

これらの脳領域の機能障害は精神病に決定的に関与しており、このことが精神病の治療効果の根底にある可能性があります。

● うつ病・双極性障害

うつ病や双極性障害(躁うつ病)に対するCBDの有益な効果には大きな期待がよせられています。

うつ病とは、双極性障害(躁うつ病)とは

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うつ病の患者は現代増え続けており、社会問題となっています。うつ病では気分の落ち込み、意欲や関心、思考能力の低下が見られ、不安や睡眠障害、倦怠感、食欲の変化、頭痛、肩こり、めまい、自殺念慮などが症状として現れます。原因ははっきりとはわかっていませんが、主にストレスが発病のきっかけになります。

一方で、双極性障害とは気分が落ち込む「鬱状態」と気分が高揚する「躁状態」を繰り返す病気で、躁状態では活力的になりますが、注意が散漫になったりイライラしやすくなったりします。双極性障害におけるうつ症状では反動があるためひどく落ち込みやすいという特徴があります。なお、双極性障害もうつ病と同様にはっきりとした原因はわかっていません。

しかし、最近の研究によって、これらの病気の原因には脳細胞の慢性的な炎症および損傷が疑われているため、ストレスから遠ざけて症状を緩和する治療が必要になると言えます。

うつ病や双極性障害の患者の社会復帰や薬物乱用者の更生の難しさは現代において問題となっています。これらに苦しむ人たちは社会不安障害もあいまって、寛解しても症状の再発に悩まされています。

診断基準DSM-4において、うつ病や双極性障害(躁うつ病)は「気分障害」に分類されています。最新の診断基準(DSM-5)では、うつ病と双極性障害は別のカテゴリーになり、気分障害という項目はなくなりましたが、現在も気分障害は必要な場合に使用されている言葉です。

うつ病と双極性障害に対するCBDの研究をレビュー

うつ病と双極性障害におけるCBDの研究報告を調査したシステマティック・レビューについて調査したところ、2019年12月に公開された気分障害におけるレビューでは、特にうつ病と躁うつ病を取り上げたCBDの有効性の調査や臨床試験の研究は見つからなかったと報告されています。なお、ここでは偶然性の高い簡易な調査研究は除いています。
【引用文献:Cannabidiol as a Treatment for Mood Disorders: A Systematic Review. Can. J. Psychiatry 2020, 65, 213.

しかし、他の疾患に関連する前臨床や臨床研究を考慮すると、CBDは気分障害(うつ病と躁うつ病)の治療薬としての役割を果たしている可能性が高いと評価されています。また、これまでの動物モデルの実験では、カンナビノイド受容体CB1およびセロトニン受容体5-HT1Aの両方の活性化によって、CBDは抗うつ様効果を誘発している可能性があることを示しています。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、選択的セロトニンおよびノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SSNRI)、抗うつ薬、ベンゾジアゼピンを含む、不安障害の薬理学的治療のための医薬品の広範なリストが利用可能にはなっていますが、SSRIとSSNRIはどちらも効果が出るまでの長い潜伏期間があり、ベンゾジアゼピンは運動障害、鎮静を引き起こし、断薬後に依存症と離脱症状を誘発するリスクがあります。また、これらの生殖毒性(性欲の低下など)も問題となっています。なお、不安障害については次の節で詳しく取り上げます。

一方で、CBDは即効性があり、反復治療によって耐性または依存性を引き起こさず、薬物依存症状を軽減させる可能性があることも示されています。さらに、CBDは副作用がほとんどなく、高い忍容性が認められているため、現在利用可能な薬剤と比較しても大きな利点を有しています。


最近、重度のうつ病に対してCBDが効果を示したという症例が報告されました。ただし、これはうつ病のみに焦点を当てた研究ではありません。うつ病・薬物乱用・社会不安障害と診断された青年に対するCBD治療について報告された研究です。
【引用文献:Cannabidiol treatment in an adolescent with multiple substance abuse, social anxiety and depression. Neuropsychiatr. 2020.

これは症例報告であり、ランダム化比較対照試験(RCT)や非ランダム化比較対照試験などと比べるとエビデンスレベルは低いものとなります。しかし、個人の症例報告は詳細な変化を追いやすく、欠点ばかりではありません。また、てんかん治療のシャーロットちゃんの例のように、大規模試験のきっかけの1つにもなりえます。この研究では、一日当たり最大600mgまでCBDの投与量が増量されました。8週間の治療後、患者のうつ病、単純恐怖症、妄想、解離、不安症状が改善され、抗うつ薬と他の薬物の使用がなくなりました。また、CBD投与量の増加に伴って離脱症状や社会不安が軽減されていきました。

【設定】
この報告における患者は16.9歳の男性で、ICD-10基準に基づき以下の疾患がありました。

・重度のうつ病
・社会恐怖症
・自己陶酔性人格障害
・複数の物質使用障害 [THC(大麻)、MDMA、コカイン、エクスタシー]

また、具体的な症状は以下のようなものでした。

現実逃避、注意欠陥、重度の鬱、社会不安、引きこもり、妄想、薬物依存


青年は過去2年の精神科治療歴があり、直近6ヶ月間、抗うつ薬(セルトラリン100mg/day)の投与治療を受けていましたが、効果はありませんでした。

患者には今回の治療において、CBDの利用以外にも以下の対応がありました。

グループ療法、個人心理療法、社会的認知訓練、作業療法、理学療法


これらに加えて、CBD薬物療法が以下の手順で行われました。

(1)初期: 100mgのCBDを50mgずつ朝と夕方で投与
(2)最初の3週間で用量を600mgまで漸増し、300mgずつ朝と夕方で投与
(3)8週間の治療後に症状を評価

過去の知見なども考慮すると、重度のうつ病や複数の薬物使用障害を持つ患者には最大600mg/day程度までCBDの投与量を増やすのが良いと筆者は判断されています。治療の3週間後には抗うつ薬(セルトラリン)を中止でき、突然の中止でも気分と不安症状に変化がありませんでした。

【結果と考察】
治療により、患者は抗うつ薬と他の薬物の使用を停止でき、禁断症状を示しませんでした。これにより、うつ病、単純恐怖症、妄想、解離、不安症状が改善しました。また、THCを含まないCBDは依存、不安、睡眠障害に改善をもたらし、CBD投与量の増加に伴って離脱症状や社会不安が軽減されていきました。CBDは安全で忍容性の高い薬剤でした。

今回の例では、CBDの利用以外にも心理療法などの様々な治療が並行して行われており、その効果は大きかったかもしれません。しかし、抗うつ薬(セルトラリン)の断薬の際でも単純恐怖症、妄想、解離などの不安症状が改善していたため、CBDの有益な寄与は明らかなように感じます。ただしこのような症例に関するRCTが不足している点についても筆者は触れています。とはいえ、この研究報告はCBDの有用性を感じさせてくれるのに十分な報告例であると言えるでしょう。

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また、さかのぼると2015年には、長期にわたって双極性障害を診断されていた27歳の男性がCBDオイルを使用した症例が報告されていました。この患者はマリファナ(THC)依存症でもありました。
【引用文献:Cannabidiol Oil for Decreasing Addictive Use of Marijuana: A Case Report. Integr. Med. 2015, 14(6): 31–35.

ここでは、追加治療でCBDオイルを使用すると、患者は不安が軽減し、通常の睡眠パターンに落ち着くと報告しました。彼はまた、CBDオイルを始めて以来、マリファナ(THC)への依存もなくなったと述べています。なお、追加治療で使用されたCBDオイルの用量は24 mgから18 mgに徐々に減少しました。この報告では双極性障害の症状には触れられていませんが、結果としてCBDが双極性障害患者の生活の質を向上しました。


一方で、2010年の症例報告では、双極性障害に対してCBDの有意な効果はほぼ観察されなかったと報告しています。ただし、この症例だけでは有効でないと言いきることはできません。
【引用文献:Cannabidiol was ineffective for manic episode of bipolar affective disorder. J. Psychopharmacol. 2010, 24(1), 135.

2人の女性患者(34歳と36歳)に対して試験が1ヶ月間行われ、一方は他の薬(オランザピン)を補助的な量で併用して使用していました。CBDの投与量は初めが1日あたり600mgで、最終的に1200mgまで増量されました。薬を併用していた患者で投与初期に症状の改善が見られましたが、もう一方の患者では改善がありませんでした。なお、CBDの忍容性は高く、副作用は報告されていません。この試験は、非常に限られた条件の範囲内でしか行われていませんでした。CBDは双極性障害に効果のある薬物と共通する特性を持つことや、CBDに抗うつ作用が存在することなどを考慮すると、うつ病や躁うつ病に対する、さらなる調査が必要です。


CBDに限定せず、カンナビノイドに焦点をあてると、双極性障害の治療はエンドカンナビノイドシステム(ECS)の操作にヒントがあるかもしれないと指摘されています。
【引用文献:Bipolar disorder and the endocannabinoid system. Acta. Neuropsychiatrica. 2019, 31(4), 193.

この研究では、カンナビノイド受容体2(CB2)の選択的な作動薬であり、カンナビノイド受容体1(CB1)の拮抗薬でもあるようなカンナビノイドが双極性障害の症状を緩和する可能性があると結論づけています。ただし、これは現時点で利用可能なデータに基づいて調査した結果の結論なので、さらなる基礎研究および臨床研究が推奨されています。ECSが気分の制御に関与していることは明らかであり、双極性障害(躁うつ病)やうつ病は脳の神経細胞における炎症に関連していることが示されているため、CB1やCB2をターゲットにした治療薬に期待が高まります。 

CBDで鬱症状が緩和した体験談について

ここでは、うつ病を経験した私自身のCBDの体験談をお話します。なお、CBDの効果は個人差があるため、これから話す内容は1つの主観的な体験談でしかないことをご理解ください。※個人的な体感ですので一般的なCBDの治療効果や改善効果を示す内容ではありません。

私はうつ病と診断され、抗うつ薬を処方されたことがありましたが、抗うつ薬はどれも相性が悪く、ほとんど良い効果を感じたことがありませんでした。そこで藁をもすがる思いで、CBDオイルを試してみることにしました。すると、驚くほど鬱の症状が緩和されたのです。最も印象的だったのは、うつ病を経験したことのなかった頃のかつての元気な自分を思い出すことができ、懐かしい気持ちになったことです。そして、多くの人に共通していることでもあるのですが、朝がすっきり起きられるようになりました。このようにCBDの抗不安や睡眠改善の効果を実感することができました。

【設定】
使用量は私の場合、一日当たり3~10mg程度でした。投与量には個人差があります。CBDオイルを舌下滴下し、2分後に飲み込みました。初期のころは就寝前に使用し、顕著な効果は初めての使用から翌日の朝に感じ始めました。最初は体調・気分の変動に波がありましたが、およそ2週間後には安定してきました。試行錯誤の結果、朝と夜の2回に分けて使用するのが良いように感じましたが、不安が強い時には朝に、睡眠障害が気になる日には夜にまとめて摂取することもありました。なお、副作用は特に感じられませんでした。

【結果と考察】
実感した効果は具体的には以下のものでした。

・睡眠障害の改善
・不安の抑制
・ストレス緩和
・集中力向上
・アルコール依存の抑制
・視界の明るさの向上 (まぶたの重みが改善)

重要なのは、生活習慣を整えるためにCBDの助けを借りているのだと意識することでした。なぜなら、結局、最も大切なのは、ストレスを最小限に抑えながら生活リズムを整え、栄養をしっかり取って運動することだったからです。それを習慣化するのを実現するためにCBDの助けを借りるのです。CBDは生活を見直すための意欲と活力を与えてくれるような存在なのかもしれません。

● 不安障害

CBDの抗不安作用は、社会不安障害および関連する恐怖症で生じる症状に有効であることが示されてきています。

社会不安障害とは

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社会不安障害・社会恐怖症(SAD)は最も一般的な不安状態の1つであり、社会的適応の障害、機能障害、生産性の低下、うつ病の発症などに関連しています。SADは治療なしではめったに回復しないと言われており、治療を受けても、現在利用可能な薬では十分な制御が困難であることが多いため、新しい治療薬の探索が求められています。

社会不安障害に対するCBDの研究をレビュー

SADの患者には不安反応を「自己治療」するために大麻を使用する傾向があるようです。しかし、大麻には精神作用により不安を誘発するという主張があり、これらの矛盾には、大麻植物の最もよく知られている成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)の含有比率の低いものが適切な抗不安薬のような効果を生み出す一方で、含有比率の高いものは不安誘発反応を引き起こすという事実を部分的に反映している可能性があります。特にカンナビジオール(CBD)は、THCの不安誘発作用を弱めることが示されており、動物実験では抗不安薬と同様の効果が実験的に示されています。


2011年、健康な対照被験者と、CBDまたはプラセボの単回投与を受けた未治療の社会不安障害(SAD)患者に対して、スピーチテスト(SPST)を利用することでCBDの効果を比較した研究が報告されました。
【引用文献 Cannabidiol Reduces the Anxiety Induced by Simulated Public Speaking in Treatment-Naïve Social Phobia Patients. Neuropsychopharmacology 2011, 36, 1219.

未治療のSAD患者24人は、CBD(600 mg; n = 12人)またはプラセボ(プラセボ; n = 12)のいずれかを受けるために、SPST(スピーチテスト)の1時間半前にランダム化二重盲検法で割り付けられました。同じ数の健康な対照被験者(n= 12)は薬物療法を受けずにSPST(スピーチテスト)が実施されました。結果は、CBDの事前投与により、発話パフォーマンスの不安、認知障害、不快感が大幅に軽減され、スピーチ前の警戒度が減少しました。結論として、SAD患者に対してCBDを使用すると、スピーチテストによって引き起こされる不安が軽減され、健康な対照被験者と同様の反応が得られるということがわかりました。

【設定】
人前で話すことの恐怖はSADの主要な症状であり、スピーチテスト(SPST)に対する反応パターンがSADの患者に見られる臨床反応と類似しているという薬理学的証拠があるため、SPSTはSADの調査として妥当性を持っています。
不安状態のレベルをはかるVisual Analogue Mood Scale(VAMS)とNegative Self-Statement scale(SSPS-N)のスコアと生理学的測定値(血圧、心拍数など)が、スピーチテスト中に6つの異なるタイミングで記録されました。SSPSは特定のシチューエーションにおけるスピーチテストのパフォーマンス感覚を自身で測るための尺度です。なかでも、自身に対する否定的な認識に焦点を当てた尺度がSSPS-Nとなります。

実験セッションの時間割は以下の通りです。

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上表中のそれぞれ、ベースライン(B)、スピーチテスト前(P)、スピーチ直前(A)、スピーチの合間(S)、スピーチ後(F)の段階(=タイミング)でVAMSやSSPSなどの評価・測定が実施されました。

被験者には基準を満たした大学生が選ばれました。SAD患者の参加者24人は12人ずつCBD群とプラセボ群にランダム化二重盲検法で割り振られ、それぞれCBD 600mgもしくはプラセボが事前投与されて、スピーチテスト(SPST)が実施されました。さらに、健康な対照被験者としてHC群の12人が試験に参加しました。HC群では薬物投与は無しでスピーチテスト(SPST)が実施されました。

【結果と考察】
スピーチテストでの各不安因子(VAMS)のスコア変化は以下の図のようになりました。

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左上が不安レベル、右上が認知障害、左下が鎮静、右下が不快感を示し、青色のラインがCBD投与群、赤色がプラセボ投与群、灰色が健康な被験者を示す。図中のPはスピーチ前、Aはスピーチ直前、Sはスピーチ中、Fはスピーチ後を表す。

さらに、スピーチテストによって引き起こされるSSPS-N(自身に対する否定的な認識)のスコアの変化は以下のようになりました。

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予想通り、VAMSスコアの結果は、プラセボ群で対照群と比べて有意に高い不安レベルとより大きな認知障害、不快感、および警戒を示しました。一方で、SAD患者へのCBD事前投与により、発話パフォーマンスの不安、認知障害、および不快感が大幅に減少し、スピーチ前における警戒心が大幅に低下しました。 CBDを受けたSAD患者の認知機能障害、不快感、および警戒レベルには、HC(健康な対照群)と同様の結果が見られました。

さらにこの研究では、SSPS-Nの結果から、SAD患者に見られるスピーチ中の否定的な自己評価の増加がCBDによって抑えられることがわかりました。このように、演説中の自己評価を改善するCBDの効果は、SAD患者の治療に影響を与えます。

なお、生理学的測定値はグループ間に有意差を示しませんでしたが、不安症状に間接的に影響を与える可能性のある身体症状の自己報告(BSS)における症状スコアは、プラセボを投与されたSAD患者についてのみ有意に増加しました。

結論として、CBDの単回投与はSAD患者の人前で話す恐怖を抑制することが示されたため、CBDの活用により社会不安障害を改善できる可能性が示唆されました。


2017年には、プラセボ、抗不安薬のクロナゼパム(1 mg)、およびCBD(100、300、および900 mg)をそれぞれ投与した5つの健康な被験者のグループで不安レベルを比較した研究が報告されました。
【引用文献:Inverted U-Shaped Dose-Response Curve of the Anxiolytic Effect of Cannabidiol during Public Speaking in Real Life. Front Pharmacol. 2017, 8, 259.

18〜35歳の男女60人の健康な被験者を、プラセボ、抗不安薬クロナゼパム(1 mg)、およびCBD(100、300、および900 mg)を投与する5つの群に12人ずつランダムに割り当てました。被験者は、実際に人前で話すテスト(TPSRS)を受け、Visual Analog Mood Scale(VAMS)によって不安と鎮静のレベルが評価され、さらに血圧と心拍数も記録されました。これらの測定は、4つのタイミングで実施され、それぞれベースライン(B)、スピーチテスト前(P)、スピーチの合間(S)、スピーチ後(F)でした。この研究の目的は、ヒトにおけるCBDの抗不安作用が、多くの動物実験で観察された逆U字型の用量効果曲線と同じパターンに従うかどうかを調査することでした。つまり、CBDの用量には適量が存在し、用量が多すぎても少なすぎてもその効果は低下するだろうという予想を確認するための調査でした。結果、CBD は300 mgで最も不安スコアの低下が見られ、CBDの単回投与は健康な被験者に対して用量依存的な逆U字型曲線で抗不安作用を誘発したことが確認されました。

【結果と考察】
TPSRS(実際に人前で話すテスト)は実験的に不安を誘発し、主観的不安、血圧、心拍数を大幅に増加させまます。さらに、TPSRSは、よく知られた抗不安薬であるクロナゼパムの抗不安作用の検出に敏感であり、潜在的な抗不安薬を特定するために利用できることを示唆しています。

VAMSによる評価の結果は以下の図のようになりました。

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グループ間の比較では、スピーチ時(S)とスピーチ後(F)でのプラセボ群とクロナゼパム群の間に有意差(p<0.05)が見られ、クロナゼパム群で有意に低い不安レベルでした。また、CBD300群では、スピーチ時でCBD900群と比較して、スピーチ後でプラセボ群もしくはCBD100群とは比較して、有意に低い不安レベルでした(p <0.05)。予想通り、CBDの単回投与は健康な被験者に対して用量依存的な逆U字型曲線で抗不安作用を示しました。クロナゼパムは他のグループと比較してより高い鎮静効果を誘発することを示しました。興味深いことに、抗不安作用をもたらしたCBD(300 mg)は、クロナゼパムほど血圧を低下させませんでした。なお、この研究での被験者は健康な参加者であり、不安障害の患者ではないことに注意してください。

CBDがベンゾジアゼピン系抗不安薬と比較して鎮静特性が弱いことを示す過去の研究結果と一致して、CBD(300 mg)は、クロナゼパム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)よりも有意に低い鎮静レベルを引き起こしました。ベンゾジアゼピンの最も一般的な副作用として、依存症、認知障害、および離脱症状に加えて、強い鎮静および運動協調機能障害が挙げられます。これらの副作用はCBDの使用では観察されていません。この結果は、ベンゾジアゼピン系治療薬の代替薬としてCBDを利用できる可能性を示唆しています。


さらに2019年、プラセボ、およびCBD(150、300、および600 mg)をそれぞれ投与した4つの健康な被験者のグループで不安レベルを比較した研究が報告されました。
【引用文献:Cannabidiol presents an inverted U-shaped dose-response curve in a simulated public speaking test. Braz. J. Psychiatry 2019, 41(1), 9-14.

57人の健康な男性被験者が、CBD 150 mg(n = 15人)、300 mg(n = 15)、600 mg(n = 12)、またはプラセボ(n = 15)をそれぞれ経口投与する4つのグループにランダムで割り振られました。模擬公開スピーチテスト(SPST)における6つの異なるタイミングで、VAMS(視覚的アナログ気分尺度)の評価スコアと生理学的測定値(収縮期血圧と拡張期血圧、心拍数)が記録されました。結果、プラセボと比較して、300 mgのCBDの事前投与はスピーチ中の不安を大幅に軽減しました(下図)。CBD 150 mg、600 mg、プラセボを投与されたグループ間でVAMSスコアに有意差は認められませんでした。この研究でも、CBD 300 mgで最も不安スコアの低下が見られ、CBDの単回投与は健康な被験者に対して用量依存的な逆U字型曲線で抗不安作用を誘発したことが確認されました。なお、CBDの逆U字型の用量反応曲線は、抗不安作用にのみ関連しているわけではなく、他の精神疾患や痛み、糖尿病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、多発性硬化症などでも関係している可能性が指摘されています。

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図において、それぞれPTは薬物投与直後、Aはスピーチ直前、Sはスピーチの合間、F1はスピーチ直後、F2はスピーチが終わってしばらくした後、を表しています。


また、CBDが予期不安に与える影響をVAMSで評価した2つの研究では、CBD 400mgは脳血流検査の実施前に誘発される不安を有意に減少させ、精神的鎮静を増加させるということが示されました。
【引用文献 Effects of Cannabidiol (CBD) on Regional Cerebral Blood Flow. Neuropsychopharmacology 2004, 29, 417–426.
【引用文献 Neural basis of anxiolytic effects of cannabidiol (CBD) in generalized social anxiety disorder: a preliminary report. J Psychopharmacol. 2011, 25(1), 121.

これらの研究では脳の状態を評価するため、放射性医薬品を体内に投与し、脳血流の状態を調べるSPECT(スペクト)という検査が実施されました。SPECTのような検査手順を知ると、被験者は検査前に不安の増加を報告することが多いようです。異なるタイプの被験者を対象にした同グループの研究の結果は、それぞれ10人の健康な男性被験者(2004年報告)もしくは不安障害患者(2011年報告)に対するCBD 400mgの単回投与が、プラセボと比較して、SPECT前における状態不安を有意に軽減するということを示しました。これらはランダム化二重盲検プラセボ比較対照クロスオーバー試験でした。なお、健康な男性被験者(2004年)で評価されたVANSスコアの結果は下図に示しました。これらの研究で発見された抗不安作用は、不安を誘発する状況の直前に検出され、CBDが予期不安の軽減に影響を与える可能性があることを示しています。さらに、脳検査では、CBDが脳の辺縁系および傍辺縁系領域に対する作用を介して媒介される抗不安作用を持っていることを示唆する結果をもたらしました。

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図において、それぞれの各評価タイミングは薬物摂取前、薬物摂取後、検査直前、検査中を表しています。図の左上が不安レベル、右上が精神的鎮静を示し、白がプラセボ群で黒がCBD群を示します。


一方で、2017年に報告されたランダム化クロスオーバー試験では、健康な被験者に対するCBD(300、600および900 mg)の単回投与は、行動課題における負の刺激に対する反応に影響を与えませんでした。すなわち、健康なボランティアに対して、CBDはネガティブな感情的刺激への反応を弱めず、社会的拒絶の感情に影響を与えませんでした。ただし、ここで使用された感情的刺激はネガティブな気分状態や不安を誘発するほど強い刺激ではなかった可能性があります。また、健康な被験者では不安障害患者のように不安を抱きやすいわけではないためCBDの効果の確認が難しかった可能性もあります。しかも、この研究の参加者について、生涯のうち大麻を使用したことのある人の割合は94.7%と高く、37%の参加者が試験の前月に使用していたため、臨床反応が観察されにくくなっていた可能性があります。
【引用文献:Cannabidiol Does Not Dampen Responses to Emotional Stimuli in Healthy Adults. Cannabis Cannabinoid Res. 2017, 2(1), 105–113.


最近、パーキンソン病患者のスピーチテストよって引き起こされる不安と振戦(手などの震え)に対する300mgのCBD投与の影響を調査した研究が報告されました。結果は、不安を有意に軽減し、不安を誘発する状況下では振戦(手などの震え)の振幅も有意に低下させたというものでした。なお、この研究に関しては後のパーキンソン病の節で詳細に取り上げます。
【引用文献:Effects of acute cannabidiol administration on anxiety and tremors induced by a Simulated Public Speaking Test in patients with Parkinson’s disease. J Psychopharmacol. 2020, 34(2), 189-196.


さらに2019年に、回避性パーソナリティ障害を伴う社会不安障害と診断された18〜19歳の若者を対象にCBDの継続投与を調査したランダム化プラセボ比較対照試験の結果が報告されました。
【引用文献:Anxiolytic Effects of Repeated Cannabidiol Treatment in Teenagers With Social Anxiety Disorders. Front. Psychol. 2019, 10, 2466.

この研究では、4週間、毎日300mgのCBDオイルもしくはプラセボが昼に経口投与され、CBD群17人およびプラセボ群20人の治療前後の症状変化が評価されました。結果として、FNEおよびLSASという評価尺度においてプラセボ群と比較してCBD群で明らかに社会不安障害の症状レベルの有意な低下が示されました(下図)。FNEは他者からの否定的な評価に対する恐れの度合を、LSASは対人による不安や回避傾向の度合をそれぞれアンケート形式で評価してスコア化する症状の評価尺度です。

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社会不安障害の薬物療法の選択肢としてパロキセチンが最も効果的であると2016年に報告されています。そこでは、26週間にもおよぶパロキセチン単独の治療でFNEスコアが5.2、LSASスコアが10.2低下したと報告されており、今回の4週間のみのCBDによる投与と低下度合がほぼ同等でした(CBDではそれぞれで5、12のスコアの低下)。この結果について、筆者は多くの社会不安障害の若者にとってCBDは効果的な選択肢であるかもしれないと述べています。

この研究は日本の京都大学の元教授によって報告されたものであり、大麻の成分を使用した疑いがあるということでなのか、十分な試験の承認が得られていないということを指摘されてしまいました。これを理由に実験ノートなどの記録の提出が求められましたが、提出すべき記録が十分でないということから、捏造疑惑まで報道されてしまいました。本人は捏造を否定しており、私もこの研究の内容を見る限り、ある程度の妥当性はあるのではないかと考えています。いずれにせよ、精神疾患に苦しむ多くの日本人にとって非常に希望を与えてくれる内容になります。

<考察・まとめ>
これらの研究をまとめると、不安症の患者にはおよそ300~600mg程度、健康な人には300mg前後が、CBDの単回投与での抗不安効果を受けるのに最適な用量であり、少なすぎても多すぎても効果が落ちるということが言えます。ただし、継続的(慢性的)な投与での用量設定に関しては、調査が不足しているため未だよくわかっていません。また、適切な用量に関しては使用者の体重、BMI、症状の度合、年齢、性別、遺伝的要素、大麻使用歴などが影響してくると考えられるため、解釈に注意しなければなりません。なお、臨床研究での使用量は多めに設定していることがほとんどであることにも注意してください。さらに、PTSDの節でも取り上げますが、過去の嫌悪記憶による恐怖を和らげる研究では50mg以下の用量でも効果を示しています。したがって、適用したい症状によっては50mg以下の用量のCBDでも効果的である可能性は高いようです。いずれにしても社会的な不安に対するCBDの効果は非常に有望であることは間違いありません。

● 睡眠障害(不眠症)

CBDは多くの臨床研究で睡眠の質を改善しています。

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睡眠障害とは

過眠や不眠などにより日常生活に支障をきたしたり、睡眠時無呼吸によっていびきが出て十分に睡眠がとれていなかったりすると睡眠障害であると言えます。睡眠障害は、精神的なストレス、精神疾患、カフェインやアルコールなどの服用、身体的な症状(痛みやかゆみ、発熱など)、環境や生活リズムの急激な変化など様々な原因で起こります。治療法には睡眠薬を用いる薬物療法と生活習慣の改善などの非薬物療法があります。

睡眠には脳波の活動性によりレム睡眠とノンレム睡眠があり、眠っている間はこれらが交互に繰り返されています。レム睡眠は一般的に浅い眠りだと言われており、急速な眼球運動があります。この時、全身の筋肉は弛緩し、からだを休息させています。一方でノンレム睡眠は深い眠りと言われており、脳波の活動に低下が見られます。この時は脳を休息させています。睡眠にはこれらのバランスが大切だと考えられています。


睡眠障害に対するCBDの研究

睡眠の質を改善する目的でCBDはよく利用されます。少量のCBDは覚醒を促して入眠を妨げることがあると言われていますが、摂取量を増やすと傾眠効果が現れるようです。このように、用量によって効果が変わることを二相性と言ったりします。CBDは二相性が顕著な化合物だと言われています。

CBDはノンレム睡眠(深い眠り)を促すことにより、睡眠の質を高める効果があると言われています。さらに、CBDは深い眠りを促すことで夜中に目が覚める「覚醒」を起こりにくくする可能性があります。

一方で、THCは睡眠の深さを浅くすると言われていますが、入眠を促す効果が指摘されています。別のカンナビノイドのCBNも、THCと同様に入眠を促す効果を持つと言われています。また、THCは睡眠時無呼吸症候群の治療に有効である可能性が指摘されています。実際、CBDとCBN(もしくはTHC)を組み合わせることで睡眠障害に対して大きな効果を発揮できるブレンド(カンナビノイド医薬品)になりうると考えられています。ですが、ここではCBD単体に焦点を当てて話を進めていきたいと思います。

臨床研究では、CBDによる睡眠障害の改善がしばしば示されています。例えば、発達障害やPTSDなどの研究でも取り上げられており、有意に睡眠の質の改善が見られています。しかし、どちらかというと二次的な評価として睡眠への影響を見ている研究が多いのが現状です。


2014年には、CBDの使用により4人のパーキンソン病患者のレム睡眠行動障害が改善したと報告しました。レム睡眠行動障害はレム睡眠中(浅い眠りの時)の行動抑制機構に異常が起こり、悪夢などで叫んだり暴れたりする危険な睡眠障害の一種です。なお、この研究に関しては後のパーキンソン病の節でも取り上げます。
【引用文献:Cannabidiol can improve complex sleep‐related behaviours associated with rapid eye movement sleep behaviour disorder in Parkinson's disease patients: a case series. J Clin. Pharm. Ther. 2014, 39, 564.


また、最近の症例集積報告において、CBDが不安に対して持続的な改善効果をもたらし、睡眠障害も改善したという結果を報告しました。
【引用文献:Cannabidiol in Anxiety and Sleep: A Large Case Series. Perm. J 2019, 23, 18–041.

この研究では、精神科に通う不安症もしくは睡眠障害の患者72人に1か月間、CBDを投与したところ、患者の79%で不安が改善し、67%で睡眠が改善したと報告しています。CBDの投与量は一日当たり25mgで、例外として効果が薄い、もしくは症状の重い一握りの患者に50mgもしくは75mg、一人の患者に175mgを投与しました。治療1か月後、不安症患者の平均不安スコア(HAM-A =ハミルトン不安評価尺度)が23.9から18.0に低下し、睡眠障害患者の平均睡眠スコア(PSQI =ピッツバーグ睡眠品質指数)が13.1から10.6に低下しました。さらに、3か月間治療を続けたところ、不安スコアでは持続的な改善が見られました。抗不安効果に比べると睡眠改善効果は劣っていましたが、これは、用量が少なく、入眠に対してCBDの影響が安定しなかったからかもしれません。なお、この研究結果も慎重に吟味する必要がありますが、CBDの利用が不安や睡眠障害に対して改善効果をもたらしたという結果は既存の科学的根拠を裏付けました。

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CBDで睡眠障害が改善した体験談について

ここでは、CBDオイル服用による睡眠・不安に対する効果について私自身の体験談をお話します。結論から言いますと、不安は大きく改善されました。睡眠の質に関しては改善しましたが、CBDを摂取する量や時間帯の影響が大きいことがわかりました。なお、服用方法は毎日就寝前に3~7mg分のCBDを含んだオイルを舌下投与するという方法でした。もちろん効果の実感には個人差があり、人により適量が異なります。なお、使用したCBDオイルは6.6%CBDオイルです。

【結果と考察】
就寝前に3~7mg分のCBDを含んだオイルを舌下滴下した場合について、睡眠障害によくある症状ごとに私の体感をまとめます。まず、「寝つきが悪い」症状に対しては改善するときとしない時がありました。しかし、摂取量を増やすと安定して入眠の改善がみられたように感じます。一方で、「夜中に何度も目が覚める」ことはなくなり、明らかに睡眠の質が向上しました。また、「熟睡できない」症状に関しても大きく改善され、CBDオイル利用前と比べて圧倒的に睡眠が深くなった実感があります。さらに「目覚めが悪い」症状も改善され、爽快な朝が迎えられるようになりました。ただし、日の出とともに目覚めることが重要なので睡眠をとる時間帯には注意が必要です。当然ですが、夜更かししすぎると効果は落ちます。

入眠に関しては、不安やイライラがおさまって、心穏やかになり眠りやすくなった可能性もあります。不安・うつなどに対しては効果に即効性が認められ、継続的に使用することでさらに改善しました。睡眠障害改善の効果以上に抗不安の効果は、より強く実感できました。強いうつ病ともなると服用量を増やしたほうが良いかもしれませんが、それでも臨床研究で使われる量に比べて少ない量でも十分に効果を実感できたので、副作用はますます問題とならず、他の抗うつ剤などと比べると非常に優れていると感じました。ただし、状況に応じて適切な時間帯に、自分に合った適切な量のCBDを使用できるようになることが最も大切だと感じました。

レム睡眠はからだの疲労回復に関与し、ノンレム睡眠は脳の疲労回復や成長の亢進に関与すると言われています。CBDがレム睡眠やノンレム睡眠にどのような影響を及ぼすかについては、今後の詳細な研究で判明していくかもしれません。いずれにしても、うまく適量を見つけて活用できれば、CBDは睡眠障害の改善に役立つものになると言えるでしょう。

● PTSD

これまでに報告されたPTSDの研究を考慮すると、CBDは特に悪夢や嫌悪記憶に関連する症状を改善することが示されています。

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PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

過去の精神的苦痛や恐怖体験の記憶による心の傷をトラウマと言いますが、これによりフラッシュバック、悪夢、不眠、感覚麻痺、イライラ、発狂、自殺願望などの症状を起こすことがあります。このような深刻な症状が慢性的に続く病気をPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼び、通常の日常生活や社会生活を送れなくなります。

主な発病の原因としては戦争での体験や過去の家庭内暴力、性的虐待、迫害、いじめなどが挙げられます。トラウマやPTSDの治療としては、カウンセリングなどの心的療法や、ストレスを緩和する精神療法、抗うつ薬などの薬物療法が行われます。しかし、これらの治療法で劇的な改善は普通ありません。

PTSDに対するCBDの研究をレビュー

海外では、PTSDの治療に大麻が使用されることがあります。実際に医療大麻の使用によって、PTSDによる悪夢や不眠症、慢性痛などの症状の著しい改善や他の処方薬である抗精神病薬や鎮痛薬の減薬もしくは断薬を実現できたと報告しています。PTSDの患者は内因性カンナビノイドの欠乏によって、心的外傷やストレスから脳を守る働きがうまく機能しなくなっているのではないかという指摘があります。これが、カンナビノイド欠乏症に有効な大麻が治療に効く理由だと言われています。

過去の研究では、PTSDの症状の程度をスコア化して評価する方法で比較したところ、医療大麻の使用で症状(スコア)が75%以上も改善したという結果が得られています。
【引用文献:J. Psychoactive Drugs 2014, 46(1), 73.】


さらに、大麻の重要成分のひとつであるCBDがPTSDの治療に重要な作用を示すことがわかっています。PTSDの要因は、思い出したくもない記憶が定着し、その記憶の消去(学習)が妨げられるという、記憶の調節不全に関与していると言われています。CBDは抗不安作用があり、さらに、過去の苦しい記憶が固定されるのを阻害するのに重要な役割を果たしている可能性を示しています。動物実験でもCBDがトラウマによる恐怖心を緩和することが示されています。具体的には、CBDは内因性カンナビノイドであるアナンダミドの分解を阻害するため、アナンダミドを増やしてエンドカンナビノイドシステムを活性化します。これにより、CB1受容体が活性化され、嫌悪記憶の定着の抑制および削除の促進を通じて症状が和らげられることが動物実験により示されています。つまり、CBDだけでもトラウマが原因であるストレス障害の治療に有望であるということが示唆されています。

これらの背景から考えられる、CBDがPTSDを改善するとした仮説は以下の2つの根拠にまとめられます。
1.CBDは嫌悪記憶に対する反応の抑制および消去(学習)の促進をもたらす可能性がある。
2.CBDは抗不安作用が示唆されている。

では、これらの根拠を踏まえて、これまで報告された研究論文を見ていきましょう。


性的虐待を受け、PTSD と診断された10歳の少女についてCBDオイルによる治療が症状を改善したと2016年の症例報告で発表されました。
【引用文献:Effectiveness of Cannabidiol Oil for Pediatric Anxiety and Insomnia as Part of Posttraumatic Stress Disorder: A Case Report. Perm. J 2016, 20(4), 16-005.

PTSD と診断された10歳の患者は、5か月の治療期間、およそ25mgのCBDが毎日投与されました。これにより睡眠の質と量が徐々に改善し、彼女の不安が軽減していきました。ただし、不安の度合により25mgを超える日もありました。CBDオイルを服用することによる副作用は観察されませんでした。

【設定】
患者(少女)の父親は事故で亡くなっており、少女の母方の祖父母が保護者になりました。父親が亡くなる前、少女は両親からほとんど放置されているような状況でした。また、少女は3歳のときに性的な虐待を受けていました。少女の母親はメタドン中毒、アルコール依存症、双極性障害、うつ病と診断されており、妊娠中にはずっとマリファナを使用していました。

少女は診断により、攻撃的、反抗的、衝動的、および性的に不適切な行動を示していたことが報告されました。また、彼女は低い自尊心と不安を示し、不眠症でした。

少女はCBD治療を実施する前から薬物療法を受けていましたが、部分的な症状の緩和しかみられず、その効果は長続きせず、副作用もありました。その後、CBDによる治療が始まってからは、栄養剤とCBDオイルのみを服用して問題なく症状を制御していました。彼女は就寝時にCBD25 mgを服用しました。さらに、不安の発症に応じて日中に6 mg〜12 mgのCBD舌下スプレーが追加で投与されました。なお、栄養剤として毎日投与されたのはEPA魚油750mgでした。

【結果】
評価に利用された睡眠スケールと不安スケールの症状スコアは、5か月の治療期間中一貫して改善が見られました(表)。

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CBD治療5か月後の8月には、ほとんどの夜、自分の部屋で夜通し眠ることができるようになり、学校や家庭での不安が減り、適切な行動を示しました。なお、上表は治療後の9月までスコアが示されています。患者の祖母(彼女の介護者)は次のように報告しました:「彼女は明らかにCBDのおかげで状態が良くなったの。彼女の不安が完全に消滅したわけではないんだろうけれど、以前のような激しさはなくなったわ。今ではほとんどの時間、自分の部屋で眠れるようになったの。これまで、こんなことはなかったわ。」


2019年には成人のPTSDに対するCBDの影響を調べた症例集積報告がありました。
【引用文献:Cannabidiol in the Treatment of Post-Traumatic Stress Disorder: A Case Series. J Altern. Complement. Med. 2019, 25(4), 392–397.

この研究では11人の成人PTSD患者にオープンラベルでCBD経口投与を行ったところ、8週間後の評価において11人中10人でPTSD症状の重症度が有意に低下しました。PTSD症状の重症度評価については、PTSDチェックリストによるアンケート(PCL5)で評価しており、8週間でPCL5スコアは平均して28%減少しました。さらに4人の患者はCBDを36週間以上使用し続け、これらの平均PCL5スコアは50%も減少し、長期にわたって持続的なスコアの減少が見られました。スコアが半減するのは非常に大きな結果です。ただし、この研究では従来の薬物療法と心理療法による同時治療も実施していたり、プラセボとの比較が無かったりと、厳格さが欠ける試験でもあったため解釈には注意が必要です。

【設定】
対象である11人の患者は22歳〜69歳(平均値は40歳)で、73%にあたる8人が女性でした。また、心理療法を受けている人数は8人(73%)いました。患者は、PTSD診断に加えて、併存する精神症状が平均して1.8±1.5つありました。つまり、PTSD以外に他の精神症状が2つほどあったということです。

さらに、同時に服用していた薬については以下の表の通りとなり、患者は平均して3つの精神薬を使用していました。

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CBDの投与には症状に応じて経口カプセル(1つあたりCBD25mg程度)もしくは経口液体スプレー(1スプレーあたりCBD1.5mg程度)が使用されました。患者は症状の重症度に応じてCBDを1日1回または2回摂取しました。

【結果と考察】
前述したようにPTSD症状の変化の評価はPCL5アンケートで行われました。これはPTSDに関連する症状を問う20の項目ごとに0〜4の五段階で評価するもので、合計スコアが0〜80となっています。結果は11人中10人(91%)でPTSDの症状の減少が見られました。

平均PCL5スコアの結果は下図のように8週間で52から37まで下がりました。つまり平均PCL5スコアは28%の減少でした。

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さらに、4人の患者はCBDを36週間以上使用しました。これらの平均PCL5スコアは初期の58から29となり、長期にわたって持続的なスコアの減少が見られました。特に筆者は悪夢の有意な改善に対するCBDの影響を指摘しています。これはCBDが睡眠障害を改善することと関与していると考えられます。

CBDで見られた主な副作用は疲労と胃腸の不快感でしたが、副作用での治療の中止はありませんでした。ただし胃腸に関して病歴のある患者は副作用のリスクが言及されています。

研究で使用されたCBDの用量は過去に報告されたものよりも少なかったのですが、用量が多いほど症状の改善が大きいという結果が見られたようです。特にPTSD関連の悪夢における重大な症状をCBDは改善しました。長期経過した後も持続的な症状の改善が見られましたが、その後この効果がどの程度持続するのか、症状が再燃しうるのか等についてはさらなる調査が必要とのことです。また、これは患者や医者がどのような治療が実施されているかを知らされているオープンラベル試験によるものであり、評価にバイアス(偏り)があるかもしれません。さらに、プラセボなどの対照群も含まれていないため、結果は慎重に判断しなくてはなりません。より厳密なエビデンスにはランダム化比較対照試験(RCT)が必要です。


また、2013年、CBDは人間の恐怖記憶の消去学習を強化することが、恐怖条件付け(パブロフの恐怖条件付けパラダイム)を利用した実験によって示されました。
【引用文献:Cannabidiol enhances consolidation of explicit fear extinction in humans. Psychopharmacology 2013, 226, 781–792.
※なお、ここで言う消去学習の「消去」とは、脳のメカニズムでは言葉通りの「消去」ではなく、恐怖記憶を抑えるために別の記憶を上書きすることを意味します。例えば、過去に恐怖刺激を引き起こした合図が与えられても何も起きなかった場合、その合図と恐怖刺激との関係性を否定する新しい記憶を学習することになりますが、これも消去学習です。同様に物事を「忘れる」時も、記憶が消えているわけではありません。思い出すための脳の神経伝達機能が上書きもしくは劣化しているだけなのです。

実験は三つのタスクに分かれており、それぞれ「恐怖記憶の条件付け」、「恐怖記憶の消去学習」、「恐怖記憶の想起」の順に行われました。最後の、恐怖記憶を再び呼び起こす想起に関しては、24時間後に実施されました。なお、恐怖条件付けで使用された(恐怖)刺激は電気ショックでした。18〜35歳の48人の参加者は、(1)「恐怖記憶の消去学習」前にCBD 32 mgを吸入する消去学習前CBD群、(2)「恐怖記憶の消去学習」後にCBD 32 mgを吸入する消去学習後CBD群、または(3)プラセボのみを吸入するプラセボ群の3つのグループ(各n = 16人)に割り振られました(ランダム化二重盲検法)。試験の結果、(2)の消去学習後CBD群で、「恐怖記憶の想起」タスク中における恐怖反応が明確に抑制されました。すなわち、CBDが消去学習で得た神経伝達を強化することで、想起タスク時に恐怖記憶を抑制した可能性があることを示唆しています。また、これらの効果はCBDが再学習を可能にするような柔軟性の向上を反映している可能性があります。結論として、CBDは人間の消去記憶の学習を強化し、恐怖の予期を減らしました。CBDで消去学習の統合を強化し、記憶の柔軟性を高めることは、PTSDや不安障害の患者の治療に貢献する可能性があります。

● 物質依存

CBDなどのカンナビノイドは薬物依存や中毒の治療薬として有効であるということが研究により示唆されています。例えばニコチン依存症の軽減やオピオイド依存症の治療における離脱症状の軽減、さらにアルコール使用障害による機能障害の予防などの効果が報告されています。ここでは、アルコールおよびタバコ(ニコチン)への依存に対するCBDの効果に焦点を当てて解説していきます。

アルコール依存症(AUD)とは

依存症のなかでも、日本で最も多いのがアルコール依存症(AUD)です。アルコール依存は健康を害するだけではなく、家庭崩壊や金銭トラブル、交通事故や犯罪などにもつながり、社会的影響も非常に大きいと言えます。また、アルコールは大麻よりもあらゆる面で有害であることが医学的に示されており、その影響力は計り知れません。例えば、自身に与える有害な影響、社会に与える有害な影響、ハザードにおける物質どうしの比較など、いずれについてもアルコールの方が危険であることが研究で示されました。

アルコールの摂取により、アルコールに対して精神依存が起こり、繰り返し摂取するうちに耐性がついて、摂取量も増え、摂取をやめると離脱症状(禁断症状)が現れたりもします。このような依存症は本人の努力だけでは治療が困難とも言われています。

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アルコール依存症に対するCBDの研究をレビュー

アルコール性肝障害は軽度であれば飲酒をやめるだけで正常に戻るかもしれませんが、飲酒をやめなければ肝硬変や肝不全のような重篤な状態に移行する可能性があります。最近、肝障害の制御において内因性カンナビノイドシステムが重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。内因性カンナビノイドシステムに働きかけるCBDは、肝臓の炎症や線維化を抑制し、肝硬変への進行を妨げる作用があると指摘されています。実はカンナビノイド受容体CB1の活性化により肝臓の炎症や線維化が促進されうることが報告されています。一方で、CBDはCB1の阻害剤(アンタゴニスト)としても働くため、肝障害の抑制に効果があると考えられています。 すなわち、CBDはCB1の活性化を阻害するメカニズムで、脂肪肝やアルコール性肝障害を軽減できることが示唆されています。

さらに最近の研究報告では、CBDは消化器系、免疫系、および中枢神経系全体の作用(MGBA)を通じてアルコール使用障害(AUD)の症状に影響を与える可能性が指摘されています。特にアルコールとカンナビノイドがMGBAに真逆の効果を及ぼすことを示唆しています。アルコールは、免疫機能障害(脳や末梢の慢性全身性炎症など)や腸内微生物種(微生物相)の障害、腸管透過性の増加に関連しています。これらのMGBAの混乱は、乱用や認知制御障害などのAUD症状と関連しています。ところが、カンナビノイドは腸の透過性の低下、腸内細菌の調節、炎症の軽減など、胃腸および免疫系に有益な効果をもたらす可能性があることを示唆しています。したがって、カンナビノイドは、少なくとも部分的には、MGBA全体の有益な作用を通じてAUDを改善する可能性があります。実際に、最近の研究でCBDは腸の透過性を低下させることがヒトのランダム化比較対照試験により示されました。なお、この研究は腸の透過性の阻害は炎症性腸疾患の発症および病態の進展を予防しうるということに注目されて実施されています。炎症性腸疾患に関しては後の章で取り上げます。


2019年、アルコール依存症に対するCBDの効果を調査した研究をまとめたシステマティック・レビューの報告がありました。
【引用文献:Cannabidiol as a Novel Candidate Alcohol Use Disorder Pharmacotherapy: A Systematic Review. Alcohol clinical experimental research 2019, 43(4), 550-563.

この報告では、調査した研究論文について、まず303の記事を特定し、その中からさらに基準に適合する12の記事に絞っています。12の記事の実験対象モデルの内訳は、8つが動物実験モデル、3つが健康な成人のボランティア、1つが培養細胞に関するものでした。動物実験モデルや培養細胞の例では、海馬へのアルコールによる有害な効果に対してCBDが神経保護作用を発揮することがわかっています。さらに、CBDはアルコールによる肝毒性を軽減し、ストレスによるアルコールへの依存や離脱症状による痙攣を緩和させる効果も示しています。ヒトに対する研究の例では、CBDはアルコールによる影響との相互作用が見られず、許容性(安全性)が高いということがわかりました。これらの結果から、CBDはアルコール依存症の薬物療法として有望な候補であると結論づけています。


AUD関連の認知機能障害に対するCBDの影響を調べる研究は、ヒトでは確認されていません。しかし、健康なヒトの認知機能に対するアルコールとCBDの同時摂取の影響を調査した研究は、上の2019年のレビューで報告された通り、3つ報告されていました。ここでは、この3つの研究について説明します。

【設定と結果】
1979年に発表された初期の研究では、10人の健康な成人を募集し、プラセボ、CBDのみ(200 mg CBD)、アルコールのみ、もしくはCBD +アルコール(200 mg CBD)を投与しました。アルコールのみ、およびCBD +アルコールにおいて、運動(指のタップテスト)および認知(注意と集中)パフォーマンスの大幅な低下と精神活性効果に関連していました。CBDの同時投与はアルコール中毒に影響を与えませんでした。

同じ1979年、CBDまたはプラセボを投与した後、アルコール飲料(0.54 g / kg)またはプラセボ飲料を摂取したところ、認知、知覚、運動機能のテストにおける症状の悪化はすべてアルコールに関連していることが明らかになりましたが、CBDは実質的に関与が認められませんでした。

1980年の報告では、CBD、THCおよびCBNの単独またはアルコールとのすべての可能な組み合わせの影響が評価されました。結果、THCのみがすべてのパフォーマンスで相乗的な低下をもたらし、CBDまたはCBNの事前投与による相互作用の影響はありませんでした。

【考察】
これらの結果をまとめると、CBDがアルコールやTHCと同じ有害な認知効果と関連していないという証拠が得られました。つまり、CBDがアルコールの急性認知作用を変化させず、認知の観点からは忍容性の高い治療法である可能性が示唆されました。しかし、明らかにヒトに対する調査が不足しており、これからさらにヒトに対する臨床研究が必要であると言えます。

CBDでアルコール依存が改善した体験談について

私は実際にCBDオイルを利用していますが、CBDを続けていて、不思議と以前あったような衝動的な飲酒願望はなくなりました。これはもしかすると次のタバコ依存の節で説明する「注意バイアス」の低下が関係しているのかもしれません。

CBDがアルコール依存の抑制に効果を示しているという確たる証拠があるわけではありませんが、依存そのものへの抑制や集中力の向上にCBDが関与しているような印象が感じられました。

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たばこ・ニコチン依存症とは

たばこの依存が生じる原因は成分として含まれるニコチンという物質に依存性があるためです。ニコチンは脳内報酬系に作用し、多くの脳内神経伝達物質に影響を与えます。1980年には米国の医学会によって、ニコチン依存症は精神疾患の診断分類としてとりあげられました。

タバコ依存者が喫煙を我慢すると生じる離脱症状は、イライラや神経質、落ち着かない、憂鬱、頭痛、眠気、胃のむかつき、手の震え、食欲や体重の変化などの症状があります。依存症になると、このような離脱症状の軽減のため喫煙を続けざるを得なくなります。また、タバコの喫煙は癌や虚血性心疾患、脳卒中、肺疾患などの病気の原因ともなり、問題視されています。

ニコチン依存症に対するCBDの研究をレビュー

CBDはニコチン依存の治療に利用できる可能性があると指摘されています。なぜなら、動物実験において、内因性カンナビノイドであるアナンダミドの分解酵素(FAAH)が阻害されると、ニコチンの効果が低下するということが示されているからです。CBDはアナンダミドの分解酵素を阻害して、アナンダミドの血中濃度を上げる作用があります。

そこで、タバコ依存についてCBDを用いて臨床試験が行われた研究論文をレビューしたところ、CBDを摂取することでタバコに対する関心(注意バイアス)を低下させるような重要な結果が示されていました。一方で、予想に反してCBDはタバコに対する渇望度に影響を与えていませんでした。これらのことから、タバコ喫煙者が禁煙の意図を持ってCBDを利用するならば、喫煙量を減らすこと、もしくは禁煙することをサポートできることが示唆されました。

これに関連して捕捉で重要だと考えられるのは、そもそもCBDはストレスや不安を緩和する効果が認められているということです。このことも臨床試験においてCBDが喫煙者の喫煙量を減らしたことに関係しているだろうと考えられます。では、実際にこれらの根拠となるエビデンスを提供する臨床試験を詳しくみていきましょう。


2013年、24人の喫煙者を対象にランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験が実施されました。
【引用文献:Cannabidiol reduces cigarette consumption in tobacco smokers: Preliminary findings. Addict. Behav. 2013, 38, 2433–2436.

この試験では24人の喫煙者が12人ずつCBD群とプラセボ群に割り振られました。1週間、被験者は喫煙意欲を感じた時にCBD(12人)またはプラセボ(12人)を吸入器で吸入するように指示されました。その結果、プラセボ群ではタバコの喫煙量に変化はありませんでしたが、CBD群ではタバコの喫煙量が明らかに減りました。

【設定】
参加者の適格基準は1日あたり10本以上タバコを吸っており、喫煙をやめる意図のある人で、年齢は18〜35歳の範囲(平均28歳)でした。参加者は12人ずつCBD群とプラセボ群に割り振られました。参加者について、CBD群およびプラセボ群の試験前における平均のタバコ喫煙本数はそれぞれ18.2本および16.5本で、喫煙歴はそれぞれ14年および11年でした。

CBDもしくはプラセボは、エアロゾルによる吸入が可能な吸入器を用いて摂取されました。1週間の間、いずれも喫煙意欲を感じた時に吸入するように指示されました。

【結果と考察】
7日後の結果は、プラセボ群と比較してCBD群で明らかに有意な喫煙量の減少が見られました(p=0.002)。プラセボ群では7日間での喫煙量の有意な低下が無かった一方で、CBD群では喫煙したタバコの本数が40%も減少しました。なお、CBD群では不安症状におけるスコアの低下率もプラセボ群と比べて大きく、このことは偶然と思えない印象を受けました。

さらに興味深いことに、タバコに対する渇望度はいずれのグループでも治療後に低下していたのですが、プラセボ群とCBD群での差はありませんでした。したがって、両グループでの渇望度合の低下は、おそらく吸入器を使用することで治療を受けているという意識が働くことによるプラセボ効果に起因するのではないかと考えられます。


この研究でひとつ大きな疑問が生じます。タバコに対する渇望度はCBD群とプラセボ群で差がなかったにもかかわらず、どうしてCBD群で明らかに喫煙量が減ったのでしょうか。その答えとなりうる手がかりが2018年の臨床試験で報告されることになります。

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2018年、治療志向のない30人の喫煙者を対象にCBDのランダム化二重盲検プラセボ比較対照試験が行われました。
【引用文献:Cannabidiol reverses attentional bias to cigarette cues in a human experimental model of tobacco withdrawal. Addiction 2018, 113(9), 1696–1705.

この臨床試験では、30人の喫煙者がまず通常通り喫煙し、その後、およそ12時間の禁煙を行い、800mgのCBDとプラセボの効果が比較されました。試験はクロスオーバー試験で行われました。クロスオーバー試験とは各群で別々の治療を行い評価した後、各群の治療法を交換して再度評価する方法です。結果は、一晩タバコをやめた後、800mgのCBDを経口摂取するとプラセボを経口摂取した場合と比較してタバコへの関心が低下しました。では、ここでの関心の低下とは具体的にどういうことなのでしょうか。これから詳しく解説していきます。

【設定】
参加者は18〜50歳(平均年齢28歳)の少なくとも1日10本以上のタバコを吸っていたニコチン依存症の者であり、起きてから1時間以内に最初のタバコを吸うという条件が適格基準に含まれていました。なお、参加者の平均の1日あたりの喫煙本数は13.5本、喫煙歴の平均年数は9.6年でした。この試験では、まず参加者は通常通り喫煙し、その後、一晩タバコをやめた後、800mgの経口CBDカプセルとプラセボの効果が比較されました。評価には注意バイアスという尺度が使用されました。では注意バイアスとは何なのか。

CBDは「喫煙しよう」という前兆の顕著性を低下させる可能性が指摘されていました。そこで注目されたのが依存薬物に対する注意バイアスという評価尺度です。薬物の注意バイアスとは、無意識に薬物もしくはそれに関連する物に注意を向ける現象のことを言います。つまり、潜在的な脳の機能が、ある特定の対象に反射的に注意を向けさせる現象のことをいいます。この薬物刺激に対する注意バイアスは薬物依存度における非常に重要な指標となることがわかっています。CBDに関する研究では、例えばヘロイン中毒者にCBDが投与されると、ヘロイン刺激(例えばヘロインを摂取している画像など)への注意バイアスを低下させたことが示されました。そこで、筆者らはCBDがタバコに関連する刺激に対する注意バイアスおよび心地よい印象を低下させると仮定し、これらの評価を行いました。

【結果】
注意バイアスの評価方法としてビジュアルプローブタスクが利用されました。このタスクでは被験者に対して、喫煙に関連する画像(タバコ刺激画像)と、構成が類似した喫煙とは関係のない中性的な画像(中性画像)のペアが瞬間的に画面に表示され、被験者の視線の偏りと応答時間が記録されました。

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※この例では中性画像は口紅を塗っている画像。

ペア画像の表示時間は、より潜在的な志向を反映しうる0.2秒の短時間暴露と、より意識的な志向を反映しうる0.5秒の長時間暴露に分けて記録されました。試験には複数の画像が使用され、適切な応答が認められた正しい試行のみが分析されました。

結果は以下の図のようになりました。

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短時間暴露(左の黒)と長時間暴露(右のグレー)の注意バイアスがそれぞれ左から満腹時および禁欲時CBD群、禁欲時プラセボ群で示されています。なお、正のスコア(ms: ミリ秒)がタバコ刺激画像へのバイアスを示しています。

短時間暴露(図中の黒)では、満腹時よりも禁欲時のプラセボ群でタバコ刺激画像への注意バイアスが大きくなっていました(p=0.001)。一方で、同じ短時間暴露において禁欲時でのCBD群よりもプラセボ群でタバコ刺激画像への注意バイアスが大きく(p=0.007)、禁欲時CBD群と満腹時での結果の差はほとんどありませんでした(p=0.82)。

禁欲時のCBD群において、長時間暴露(図中のグレー)では短時間暴露と比較してタバコ刺激画像への注意バイアスが大きくなりました(p=0.015)。これらの結果から、幾分の意識下ではCBDを服用してもタバコ刺激に注意バイアスが向けられるが、無意識下、潜在的にはCBDがタバコ刺激に対する注意バイアスを明らかに低下させているということが示されました。つまり、プラセボと比較してCBDは禁欲時の喫煙者のタバコへの注意バイアスを潜在的に逆転させることが明らかになりました。

さらに、同時に快感評価タスクが行われました。これはタバコ関連画像に対する快・不快の度合を評価するための試験です。この試験では、タバコ関連画像もしくは中性画像のいずれかが3秒の間、ランダムな順序で提示されました。画像のタイプは前述のビジュアルプローブタスクの時と同様でした。被験者は提示された各画像の快感度を-3〜+3の7段階のスケールで評価しました(-3は非常に不快、+3は非常に快適)。

快感評価タスクの結果を以下に示します。

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結果はタバコ関連画像の評価数値から中性画像の評価数値を引いた差で示されています。

満腹時と禁欲時(プラセボ群)での有意な差は見られませんでしたが、禁欲時におけるCBD群においてプラセボ群と比較してタバコへの快感度の有意な低下が観察されました(p=0.011)。このように、禁欲時の喫煙者に対してCBDはタバコに対する印象的な心地よさを明らかに抑制しました。

なお、副作用に関してはいずれの臨床試験においてもほぼ見られず、高い忍容性が確認されました。

【考察】
これらの試験結果から、CBD群とプラセボ群でタバコへの注意バイアスが逆転し、CBD群でタバコへの快感評価における快感度合が低下することが判明しました。ところが、同時に評価された、タバコの渇望度や離脱症状の主観的な評価においては、プラセボとCBDで差はありませんでした。なお、これらの渇望および離脱症状スコアは予想通り満腹時よりも禁欲時で顕著に高くなりました。

この結果は、前述の2013年に報告された臨床試験の結果とつじつまが合います。すなわち、CBDを服用してもしなくても意識的にはタバコに対する渇望度は同様に認められるにも関わらず、脳の潜在意識におけるタバコへの関心・動機付けの顕著性はCBDによって低下しました。短時間暴露の場合のみ顕著にCBDによってタバコへの注意バイアスが避けられたことは、脳の意識外での自動処理に関連しています。これらの結果はCBDの依存抑制効果が薬物志向バイアスを修正するメカニズムによることを支持します。したがって、CBDは特にタバコへの注意バイアスの高まりに苦しんでいる人に有効であると考えられます。ただし、これを確認するためには、CBDが食物などの他の顕著な刺激に対しても動機付け・方向付けを修正するかどうかのさらなる調査が必要です。

<考察・まとめ>
臨床試験の結果はCBDがタバコ使用障害の治療に潜在的な有用性を示していることを強調しました。ただし、CBDは禁煙活動の補助薬として利用できる可能性はありますが、過度な期待はせず、正しく活用して禁煙に取り組むことを心構えとするのが重要だと考えられます。なぜならニコチン中毒の誘発は注意バイアスのみが要因だとは考えにくいため、過度に期待するとCBDを過大評価してしまう危険性があるからです。実際にCBDで禁煙を始めて、「吸いたいって気持ちは簡単に消えるわけではないけれど、タバコのことがあんまり気にかからなくなった」とおっしゃる人がいました。これは、実際の臨床試験の結果を裏付けるようなリアルな声にも思えます。

薬物依存と日本の間違った認識について

ここで少し、薬物に対する私たちの奇妙な認識と薬物関連逮捕者の社会復帰を妨げる法制度について、大麻の問題を絡めて考えていきたいと思います。

以前、沢尻エリカさんが薬物の問題で逮捕され、世間がざわつきました。ところが、彼女は10年以上も前から薬物を使用していたにも関わらず、仕事には大きな影響があったようには見られませんでした。治療もあっさりと順調に進み、公判の際にもしっかりとした足取りであったと言います。しかし、これはそれほど不思議なことでもないかもしれません。MDMA、大麻などに関してはタバコやアルコールよりも依存性がなく、有害性も小さいということが科学的に示されています。MDMAや大麻などは治療薬としても有効性が高いことが医学的な知見から示されています。


論文『カナダ大麻合法化から学ぶこと』では現代の社会構造はその法的な関係から奇妙な状況が生まれていると指摘しています。
【引用文献:『カナダ大麻合法化から学ぶこと』精神科治療学 2020, 35(1), 19.】

例えば、アルコール使用者が大麻などの薬物使用者を見下すという場面です。なぜこれが奇妙かと言うと、アルコールはれっきとした精神作用物質であり、大麻などよりも強い依存性と深刻な健康被害をもたらすからです。しかし、彼らは「アルコールは薬物とは違う。薬物使用者と一緒にするな。」と主張するのです。さらには、医療用オピオイド使用者がヘロイン使用者を見下す場面もしばしばあるといいます。同じオピオイドを使用しているのですが、法律で認められているか否かでこれほどにまで差別が大きいことに多くの懸念を感じざるをえません。

法律に触れているので差別があること自体はそれほどおかしいことではありませんが、法律による規制の有無だけ驚くほど大きな差別が生じているということに問題があります。ここでは、医学や科学的な知見が明らかに配慮されていません。

特に問題なのは、このような社会構造によって薬物関連逮捕者(薬物依存症患者)の社会復帰や更生が明らかに妨げられているということです。前科がつき、まわりの人間や社会的制裁が患者を精神的な苦痛へ追い込むことにより、治療や社会復帰を困難にしています。このように貴重な人材の社会復帰が減ることで国民に課せられる労働力や損益が増えます。法的措置や治療などに膨大な国のお金、税金が非効率に使われているのです。その一方で、アルコール中毒者は飲酒のみでは逮捕されて前科がつくことはありません。こういった面でも、法規制の見直しは必要なのかもしれません。その上で治療環境や復帰環境を充実させていくことが国を良い方向に向けていくためには必要不可欠でしょう。

CBDがうつ病などだけでなく、処方薬も含めた薬物中毒からの回復や社会復帰のために利用されるようになれば、世界中で大麻に対する偏見も緩和されていくのかもしれません。

◆精神疾患以外の疾患 (てんかん、炎症、癌など) に対するCBDの効果について

今回の「【CBDの効果】論文によるエビデンスをもとに精神疾患への効果を解説。」は、以上で終わりです。この続きとなる「CBDの効果とそれに関連する疾患や症状:後編」では、以下の内容を取り上げます。

●疾患:パーキンソン病、てんかん、皮膚炎、疼痛(痛み)、免疫暴走、炎症性腸疾患、糖尿病、高血圧、癌、その他の疾患

●CBDの副作用や用量設定、利用目的に関する概略


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