【掌編(物語)】『いちばん上の子』
まえがき
長子の皆さんに捧げる話。ということで。
別に今回は泣きたいからわざわざ自分で物語を書くわけではない。…と思うのだけど、書き上げたら泣いちゃうかもね。
ん?なんのことかって?
前回のお話【掌編(物語)】『おかあさん』↓
https://note.com/ikupopo/n/n705a467e2410
読んでないなんて…読んでください…
【掌編(物語)】『いちばん上の子』
最近は最後2〜3ヶ月のタイニープードルが人気らしい。ガラス越しに見ていても、いつもお客さんに抱っこされているのは小さい子ばかりだ。私はちょっと大きくなりすぎちゃったのかもしれないなあ。わたしのプロフィールの一部がどんどん重ね貼りされていくことの意味、わたしはちゃんとわかってるんだ。
ある日、わたしは久しぶりに、店員さんに抱っこされて知らない人たちのおひざにのせられた。
その人たちはわたしのお父さんとお母さんになってくれた。
なかなか売れなかったわたしをお父さんとお母さんは抱っこしてくれた!決め手なんかなかったかもしれない。いわゆる「情」というものかもしれない。
わたしにとってお父さんとお母さんが全てだった。美味しいご飯をくれたり、毎朝散歩につれていってくれたり。わたしはすごく愛されているのがわかっていた。
ある時お母さんはすごくニコニコして、
「あのね、あなたにいもうとができるんだよ」
と言った。わたしは嬉しかった。お母さんが嬉しそうだったから。きっとかわいいいもうとがうまれて、わたしはその横によりそって寝るんだろうな。いもうとが大きくなったら一緒に走りまわったりするんだろうな。
お母さんのお腹はどんどん大きくなって、ちょっと心配になってきた。でもお母さんはニコニコしていた。だからきっとわたしも嬉しいと思っていいんだろうな。
でも、だんだんお母さんは苦しそうになってきて、私は少しの間、おばあちゃんの家にあずけられた。
心配だった。お母さん。大丈夫かな。お母さん。
いもうと、も大丈夫かな。
わたしがおうちに帰ってきたころ、わたしよりもすこし小さいくらいのいもうとが、小さいベッドに寝ていた。かわいかった。
おじいちゃんやおばあちゃんがたくさん「おいわい」をもってやってきた。
お母さんは夜、何回も起きてはいもうとを抱っこしていた。
少し大きくなってきたいもうとは、お母さんが見えなくなると泣いた。
わたしはお父さんとたまに散歩に出かけた。
でも、前みたいにお母さんとお父さんと一緒にお散歩には行けなかった。
いつもの場所に置いてあったわたしのお気に入りのボールもどこかに片付けられてしまった。
わたしははじめて、ちょっと自分のことが心配になってきた。
お父さんが「出張」で、何日かいなくなった。
わたしはお外に行きたくて、ちょっとうずうずしていた。
お父さんが帰ってきて、つかれた顔のお父さんは、ずっと吸っていなかったはずのタバコをもって、玄関を出た。
「はあ〜」としゃがみこんでお父さんはタバコを吸う。
ふわっと懐かしい、けどくしゃみが出そう。わたしは気づかれないように、すっとそのドアの隙間をすり抜けた。
ほんの少し、夜のお散歩に行ってみたかった。
お月さまとお星さまというものを、ちょっと怖い屋外飼いのお兄ちゃんが教えてくれた。たまにたくさんのお星さまがふるってことも。わたしは新しいことを知って嬉しくなった。
足取りはどんどん軽くなる。
おうちはどんどん遠ざかる。
わたし、お父さんやお母さんと一緒じゃなくても、お外、歩けるんだね。わたし、嬉しい。嬉しくて嬉しくて走り出しちゃう。
気づいたらもう知らない道だった。
蛍光灯が眩しいお店があって、お兄ちゃんたちが4人くらい座り込んでおしゃべりしていた。
そこからふわっとタバコのにおいがして、わたしはうっかりくしゃみをした。
お兄ちゃんたちはわたしに気づいて、ポチとかタローとかいろんな名前でわたしを呼んだ。
わたしは「おんなのこだけどな」と思いながらお兄ちゃんたちの方へ歩いていった。
お兄ちゃんたちはわしゃわしゃと私の頭を撫でてくれたり、びーふじゃーきーというものをくれたりした。すっごく美味しくてびっくりした。
ひとりで夜お散歩するのもわるくないなあ、と思っていたとき、一人のお兄ちゃんがタバコを吸い始めた。
そのにおいがお父さんのタバコのにおいとおんなじで、わたしはなぜか涙が出た。
お兄ちゃんたちにせいいっぱい体をスリスリしてお礼を言って、わたしはお家に帰ろうと思った。
真っ暗な道路を車がすごくはやいスピードで走っている。
わたしも負けじと走ってみる。でも、疲れてヘトヘトになる。
なんだか幸せな気持ちだった。幸せな夜だった。
でもわたしは帰らなくちゃ。
お父さん、つかれてたなあ。
お母さん、ねむれたかなあ。
いもうとも、ねむれたかなあ。
わたしは走る。
走って走って、お家の玄関に着く。
でももうお父さんはいなくて、ぴったり閉じられた玄関をわたしは爪でカリカリする。
わたしは反省する。
お父さんのタバコが臭かったなら、お家に入ればよかった。もしかして心配かけちゃったかなあ。
でも、でも、夜のお外は楽しかった………………
わたしは玄関の前にうずくまって眠った。
朝になって、お父さんが会社に出かけるとき、玄関のドアが私にぶつかって目が覚めた。
お父さんはすごく驚いてお母さんを呼んだ。
お母さんの目はすごく腫れていて、泣いていたみたいだった。そしてわたしに「ばか!」と言った。
悪いことしちゃったなあと思いながら、わたしは足を拭かれて、てくてくお家に入って、ご飯をもらった。
お母さんのくれるご飯はいつもおいしい。でも、びーふじゃーきーもおいしかったなあ…
あとがき
私は長女。犬は私。自己満足。過去の私の追悼。
長子、とくに長女の皆さんは共感するところあるんじゃないかなあと自分勝手に思ってる。
そう、自分一人に傾けられていた愛情が薄くなって怖くなること。両親や色々なものにぶつかって、道を切り拓いていくこと。長子の役目、宿命は存在する。
あ、今回も挿絵はヨークシャーテリアを使わせていただきました。私がイメージする犬は生まれた時からそばにいたヨーキーだから。
最後まで読んでいただきありがとうございました。スキ!♡していただけると「読んでくれたんだ…(感涙)」と大変励みになりますのでどうかよろしくお願いします↓
あなたのこと忘れない