マガジンのカバー画像

リトル・メルヘン

30
運営しているクリエイター

#昔話

秋刀魚と狼

 長い雨の後の大きな水たまりの表面がゆらゆらとして物語が浮かんでいました。水の紙芝居のようでした。

 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいて昔話に花を咲かせていました。昔のことらしく幾らでも遡ることができるので、なかなか話は先に進みません。おじいさんに先に進めようとする意思はなく、おばあさんには遡るための引き出しが幾つもありました。引き出しを開けると、新しいおじいさんとおばあさんが現れて

もっとみる

とりかえっこ

 昔々、街の中心に近いところに傷ついた鶴がいました。偶然にそこを通りかかった若者は、傷ついた羽を震わせ苦しそうな鶴を見つけて立ち止まりました。(助けなければ)若者は助けることを前提にして、念のためにその後のことも考えてみました。もしもこの鶴を助けたとして、鶴の傷が癒え、元気になったとして……。
 若者は助けた後の未来に想像を掘り下げながら立ち止まっていました。元気になった鶴が、突然家に押し掛けてく

もっとみる
運命の人

運命の人

 昔むかしのことを考えながら歩いているとどんどん体が軽くなってゆくように感じられて、ますます弾むように先へ先へと歩いて行くと、時折風が吹いてかなしみが落ちて、かなしみが雨を降らせると、虹がかかりふわふわと虹の橋を歩いているとちょうど同じ頃に向こうからお姫様が歩いてきたので、結婚しました。
 めでたしめでたし。

もう知らない

もう知らない

 昔むかしあるところにおじいさんがいたのだけれど、今はいませんでした。
「御免ください」
 旅人はおじいさんの家をたずねました。
「おじいさんは今はいないよ」
 と奥から若者が出てきました。
「おじいさんには世話になってね」
 と言う若者は他の惑星から来た凄い男でした。
「今まで数え切れないほど地球のピンチを救ってきたし、人々から感謝もされてきたけれど」
 若者はもう十分だという顔で、空になった缶

もっとみる