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クリスマス


銀座の中央通りで、ブタを散歩させている人を見た。

その奇天烈な感じに見覚えがあって、なんだっただろうかと思い返しているうちに、幼少の頃に両親に連れて行ってもらったピカソ展で見た、トカゲにリードをつけて散歩させてる人だということを思い出した。あまりに驚愕だったあの光景を忘れない理由はもう一つあって、それは、トカゲの尻尾が半分なくなっていたことだった。お母さんに、トカゲは尻尾を切られてもまた生えてくるのだということを、教えてもらった。

その夜、リカちゃん人形の前髪をそっくりそのままハサミで切って、ついでに自分の前髪も切って笑っていたら、大慌てでお母さんが飛んで来た。

翌日に、保育園の入園式を控えていたらしかった。今でも写真の中の私は、ハサミで切られたザクザクの前髪で、いたずらに笑っている。

トカゲの尻尾はまた生えてくるし、前髪もまた生えてくるのに、なんでリカちゃんの前髪はもう生えてこないのか、そういうことの理解は、まだできなかった。

イタズラっ子も、世にはばかる。


♢♢♢



都営大江戸線の地下は深い。


見上げると、絶望的な高さまでエスカレーターが続いていて、今にもレッド・ツェッペリンの天国への階段が流れてきそうだって、いつも思う。


都営大江戸線は、私の住む街を新宿まで繋げてくれる。

単一の地下鉄路線としては、日本最長なんだって。 40.7 kmもの地下をいく。後発で建設された地下鉄路線だから、既存の路線よりも更に深部を走るんだ。その最深部にあたるのは六本木。日本の地下鉄の中で一番長く、そして一番深い闇を走る。

それだけ聞くと、日影の電車、というかんじがするけれど、その分耐震性に富んでいて、災害時には救助作業の大動脈として利用されることになっているらしい。地下深くに、秘密兵器を隠し持っているってかんじがする。

トカゲのしっぽみたい。


♢♢♢


クリスマスプレゼントに、アガサ・クリスティーの『クリスマスの殺人』を赤い包装紙に包んでもらおうか迷ってやめた。

この間蔦屋書店で買った5冊の電車に、まだ乗ったままだったから。

読みたい本、全部買って3,000円くらいの出費。それを読みたい時に読みたいものを読むやり方で5冊同時進行で読んでいて、今、枕元にも鞄の中にも、いつだって読みたい文字の続きがある。

それは例えるならば、新宿駅のホームに立っているかんじと言ったら、きっと君には伝わるかな。

どの電車も乗り心地は少しずつ違くて、路線によって乗っている人も少しずつ違くて、車窓から見える景色には心踊るじゃない。時折乗った電車が快速だったり、山手線をグルグルと回っているだけだったり、そういうこともあるけれど。

言葉を食べて分裂と増殖を繰り返す。
私は所詮、ミトコンドリアの集合体。

閉店時間までジュンク堂で養分を蓄えて、王将で餃子食べて帰る、結局は、有楽町線。


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