微妙に違う!? (325の3)自転車及び歩行者専用道路と(325の4)歩行者専用道路の使い勝手
都市部の道路には、歩行者や(普通)自転車のみが通れる規制が道路に課されていることがある。代表的なものは「歩道」「歩行者天国」「スクールゾーン」等だろう。これらの規制を表すのによく使われる規制標識 (325の3)「自転車及び歩行者専用」、(325の4)「歩行者専用」、または(302)「車両通行止め」などがある。これらの標識が使われた際の違いについて解説する。また、歩行者の図柄についての話題も取り上げる。
自転車及び歩行者専用
この規制の目的は、普通自転車以外の車両の通行を禁止し、歩行者と普通自転車の安全な通行を確保するためである。生活道路、通学路等で、普通自転車及び歩行者の安全で円滑な通行を確保する必要性の高い道路のために規制される。合わせて、歩道にもこの規制標識が設置される。
歩行者専用
この規制の目的は、車両の通行を禁止し、併せて歩行者の通行方法に関する制限を解除することにより、歩行者の安全と良好な生活環境を確保するためである。以下のような道路に対して規制がかけられる。
十分な幅員を有する歩道又は路側帯がない以下のいずれかの生活道路
車両の通行により歩行者の安全が確保できないおそれのある商店街等の道路
通学、通園、通勤、買物、レクリエーション、散策等を目的とする歩行者の通行が多い道路
病院、公園その他公共施設の付近で歩行者の通行が多い道路
福祉施設等付近で高齢者、身体障害者等の通行が多い道路
普段の通行には十分な幅員を有する歩道又は路側帯があるが、日曜、休日等には、買物、散策等のため大量の歩行者が集中し、車道にあふれるなど交通混雑が著しくなる道路
歩行者の通行が多い公園内、観光地等の道路(管理権に基づく規制場所を除く。)
祭礼、各種イベント等が行われる道路
両者の相違点は?
それでは、(325の3)「自転車及び歩行者専用」と(325の4)「歩行者専用」は、普通自転車が通れるかどうかだけの違いだけなのかを見てみよう。
記事「規制標識の別表記」でも解説したが、補助標識で除外する車両を指定することで、いくつかの異なる規制標識で同じような意味を表すことができる。
「自転車及び歩行者専用」は、「歩行者専用」から「自転車を除く」としたものと等しいように見える。しかし、警察庁の「交通規制基準」には以下の規定が書かれている。
つまり、「歩行者専用」は「自転車及び歩行者専用」と比べて以下の違いがあることになる。
普通自転車や許可を得て走行している車両に徐行義務が課せられる。
歩行者に右側端通行義務や横断歩道横断義務等がなくなり、道路のどこを歩いても良い。
逆に、「自転車及び歩行者専用」や、「車両通行止め」の規制がかけられているところでは以下に留意する必要がある。
許可されている車両が徐行しないで普通の速度で走ってくる可能性がある。
歩行者は道路の右側や横断歩道を歩かなければならない。
ただし、「右側端通行義務」「横断歩道横断義務」は道路交通法第10条で規定されており、歩道は対象に入っていないため、歩道には当てはまらない。
制定年の違いと考察
都道府県によっては、歩行者専用道路を規定するに当たり、規制標識 (325の3)「自転車及び歩行者専用」、(325の4)「歩行者専用」、または(302)「車両通行止め」等の使い方に好みがあるようだ。
ここで考慮しておきたいものの1つが各標識の制定年だ。実は「自転車及び歩行者専用」も「歩行者専用」も、日本の現代の標識が制定された1963年よりも後に制定されている。昔の歩行者天国の写真を見ると、最初は「車両通行止め」の写真が使われていたことが分かる。
東京都内の銀座、新宿、池袋、浅草の4地区で大規模な歩行者天国が始まったのは1970年のことであり、これに合わせて標識の整備も進んでいったようだ。
これらの標識の制定前から規制がかかっていた道路は「車両通行止め」や「自転車及び歩行者専用」が使われていて、現代までそれが変更されずに来ている場合もあると思われる。東京都内でも長らく生活道路の車両通行規制に「自転車及び歩行者専用」が使われてきたが、近年の標識の更新により、多くの標識は「歩行者専用」に「自転車を除く」が添架されたものに置き換わっている。このようにすることで、許可車両も徐行したり歩行者の通行場所の義務が生じない、より安心できる歩行者用道路が実現できる。
おまけ: 歩行者の図柄の違い
「歩行者専用」の標識は大人と子供が手を繋いでいる絵柄なのだが、「作画崩壊」なのではないかと度々話題になる。「子供が嫌がっているのではないか」「大人が子供を誘拐しているのではないか」「大人の手がゴムのようにフニャフニャしている」「宇宙人なのではないか」等、色々言われることが多い。
元々はきちんとした作画だったのではないかという噂も絶えないのだが、元の作画は警察庁が発行している「交通規制基準」や「交通の方法に関する教則」を参照すると分かる。これらの作画は、現在使われている上の作画とは異なるデザインとなっている。また、両者の作画も微妙に異なっている。国土交通省が発行する「道路標識一覧」では、微妙に異なるものの「交通規制基準」の図柄のほうに近い図柄が採用されている。
過去はどういう図柄が使われていたのか、画像があまり鮮明ではないがうかがい知ることができる資料も掲載する。
「歩行者専用」標識の制定年は前述の通り1971年 (昭和46) 11月なのであるが、1970年代の歩行者天国の写真を確認すると、「歩行者専用」標識の作画は現在のものと異なり、「交通規制基準」に近い作画であることが確認できる。いつの頃から作画が変更されたかは不明だが、2020年代の現在では、当初の作画よりも崩れた作画になっていることは間違いないだろう。
参考までだが、「歩行者専用」標識よりも1年前の1970年 (昭和45) 8月に制定された「自転車及び歩行者専用」標識の図柄は、より小さな作画のため、輪郭の曲線が減らされ直線的な図柄で実装されている。
ちなみに、規制標識の仕様は都道府県の公安委員会に任されており、「歩行者専用」のような複雑な図柄は都道府県、制作年、制作会社等により微妙なバリエーションがあることで知られている。
公安委員会以外の、たとえば商店街などが作成する歩行者専用の図柄は、警察庁が発行している図柄に従っている。
おまけ: 海外でも同じ図柄
「歩行者専用」の規制標識の図柄は1949年 (昭和24) に採択された国際連合道路標識 (国連標識)に含まれるもので、加盟国であるフランス、オランダ、オーストリア、スペイン、ドイツ、デンマーク、オーストリア、アラブ連合、カンボジア、タイ、イギリスなど、欧州を中心とする多くの国で採用されている。
出典: Comparison of European road signs (Wikipedia) - Footpath (Pedestrian only)
*
こちらもどうぞ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?