モラトリアムは楽しくも儚い~「アメリカン・グラフィティ」「ヘアー」「ファンダンゴ」「バッド・チューニング」
高校や大学を卒業して次の進学・就職までの束の間、思い切り羽目を外したいというのは若さなるが故のもので、古今東西共通しているものだろうか。
とはいえ、日本だと(特に最近は)ここまで激しくないんじゃないかと思うような乱痴気騒ぎが海の向こうでは繰り広げられているようで。
このジャンルの映画は定期的に作られているようだが、今回取り上げる4本を比べてみると、乱痴気騒ぎはさることながら、ほのかに香る時代や製作者の意図の違いが感じられるのではないだろうか。
まず、1973年公開の「アメリカン・グラフィティ」。これは1962年を描いた作品。高校を卒業した一夜を描いたものだ。
1973年というと、ベトナム戦争が泥沼化していたころ。一方の1962年も古き良きアメリカが失われつつあったころだがまだその残滓が感じられた時代でもあるだろう。戦争もない、公民権運動もない。みんな楽しく平和に、平等に幸福を享受していた時代を懐かしんだ本作であるが、そのエンディングで現実に引き戻される。
次は1979年公開の「ヘアー」。1968年のミュージカルの映画化であり、ミュージカル自体は同時代を舞台としたものである。
本作はもっと直接的にベトナム戦争をテーマとして組み込んでいる。
前半は兵役につく前日のバカ騒ぎを描いているが、最後に急転直下で笑えないコントのようなエンディングを迎えることになる。4本の中では一番戦争色が強い印象。ヒッピー=反戦というのを隠そうともせず前面にだしているからだろう。
それにしても最初の「アクエリアス」のシーンは必見である。
3番目は1985年公開の「ファンダンゴ」。これもベトナム戦争末期を舞台とした映画。
若きケヴィン・コスナーがかっこいい。かっこよすぎて、馬鹿騒ぎがあまり似合わないくらい。
内容は、やはりベトナム戦争へ行くことになった学生が、友人の一人の結婚話と絡めてクルマで旅してまわるもの。
中盤まではスカイダイビングなど笑ってしまうような場面が続くのだが、それが最後の結婚式から別れに至るまでのシーンの切なさを引き立たせているようだ。今回の4本の中では一番好きな終わり方である。
4本目は1993年公開の「バッド・チューニング」。1976年の高校生と中学生の3年生の終わりを描いている。
1993年なのだが、画面全体も1970年代っぽく作っている。
1976年ということでベトナム戦争の影は全くなく、ただひたすらドラッグとアルコールとに溺れまくる。当時のアメリカの高校生ってこんなんだったのかと思うと、ほんと日本人でよかったと思ってしまう。
いちおう進路に悩むような場面もあるのだが、全体通しての印象はそれほど情緒的なものではなかった。破壊的・退廃的で無価値的な色合いが濃いという点が、90年代っぽい視点なのかもしれない。
このジャンルの映画は21世紀になっても作られ続けているわけで、まだそちらの方は鑑賞していないのだが、引き続きどんな視点の変化が感じられるか見届けていきたい。
とはいえ観終わった瞬間は、どちらかといえば「なんだこれは!?」というのが率直な感想なものが多い気もするけれども。。
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