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ロビンソン/スピッツ Robinson / Spitz

90~00年代前半にかけては俺にとって音楽の暗黒時代だ。
とても音楽どころではない。
仕事と子育てに追われていた。
平日は朝早く会社に出かけて帰ってくるのは夜遅く。
近所の奥さんからは母子家庭だと思われていたらしい。
その代わりと言っては何だが休日は思い切り子供たちと遊んで過ごした。
自宅周辺の公園は全て網羅したし、子供たちが勉強などしていると
「ねえねえ、勉強なんかしてないで遊ぼうよ」
と俺の方から遊びに連れ出したりした。
夏の暑い日は公園や川で水浸しになって遊んだし、冬の寒い日も暖かい飲み物を持って公園での遊びに一日中付き合った。
会社勤めで安定した収入があったとはいえ、家のローンを抱えて子供が3人いたらぜいたくな暮らしはできない。
毎日の暮らしの中で小さな楽しみを見つけて明るく暮らしていくしかないのだ。
家族5人いつも一緒だった。
ひとしきり遊んで帰りの車に乗り込むと、必ず子供たちに
「今日楽しかった人ー!!!!!」と尋ねた。
すると子供たちは「はーーーーーーーーい!!!!!」と答えてくれた。

これでいいんだと思った。

行き帰りの車の中では俺が選曲したCDをかけていた。
当時音楽CD専用のCDレコーダーが出始めていた。

うおおおおおおおお。
CDに録音できる時代が来るなんて。

即購入。

TSUTAYAに3か月に一度ぐらい通って子供たちが好きそうな音楽のCDを借りてきて夜中にこっそり録音しておいて、出かけるときに子供たちと車のCDプレイヤーで聴く。
子供たちの意見は聞かず、俺の独断で選曲していたので少し偏りがあったけど、なるべく子供たちが好きそうな曲を選ぶのに腐心していた。
初おろしの時に子供たちがどんな反応をするのか見るのが楽しみだった。
「あ、これ今学校で流行ってる」とか「えー?〇〇の新曲じゃん!」なんて喜んでもらうと俺もうれしくなってついつい一生懸命になった。

そのCDの中に1曲ないし2曲ほど自分の好きな曲を密かに潜り込ませるのだ。
さすがに洋楽は無理があるので邦楽を選曲した。
坂本龍一のインストとかくるりとかシンバルズとかスーパーカーとか。
でも子供たちはそういう曲を
「お父さんが勝手に入れた訳の分からん曲」
と言ってスキップするのである。

トホホ。

そうか、CDはスキップも簡単なのだ。

でも最近になってようやく当時俺が聴いていた曲を子供たちが「いいね」と言ってくれるようになった。

ほれ見ろ。

追記
先一昨年娘が結婚した。
小学生だった頃によくかけていたCDを全部まとめてプレゼントした。
「うわ、SPEEDとか、なついー!」
喜んでくれてよかった。



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