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メイヤー・オブ・シンプルトン/XTC Mayer Of Simpleton / XTC

 ある日K崎くんから電話がかかってきた。
「俺君、パソコン買ったから見に来ない?」
「いいよ、今から行くよ」
「ギターの音を入れて欲しいからギター持ってきて」
「分かった」
ギターとMTRを持って行ってみるとそこには小さな箱と化け物のような
デカいプリンターが置いてあった。

K崎くんが言うには、
「これはアメリカのアップルっていうメーカーのパソコンで、マッキントッシュ・プラスって言うんだ」

「ほーほー」と俺。
とは言ったもののまったく意味は掴めていない。
当時はパソコンなどにまったく興味はなかったし、
一部のマニアが電子工作的にいじるものという認識でいた。
特に日本のパソコンはMS‐DOSというOSで¥だの@だの、
難しいコマンドを打ち込まなければ動かせない代物だった。
電算機というイメージはぬぐえず、計算ができるだけだろと。

「これの凄いところはさ、マスター・トラックス・プロっていうソフトを入れると自動で演奏してくれるところなんだよ。」
「ほーほー」まだ分からない。
「聴いてみて」と言ってK崎君はパソコンの画面のスイッチを押した。
「カチッ」
「ターン、ドンドンタドドン ドタタタドドタン」
「ブンブンブンブンブンブンブブ ブブブブブブブン」

「おおおおおおお、すげええええええ」

「なっ?すごいだろ?自動で演奏してくれるんだよ」

K崎君はドラムだけじゃなくてベースも入力してあった。
K崎君はベーシストなのだ。
「あとはギターを入れるだけなんだよ」
「それにしてもすごいね。」
「マッキントッシュは音楽だけじゃなくてデスクトップ・パブリッシングと言って画面の見たままを印刷できるんだよ」そう言ってバカでかいプリンターで俺らのグループ(ボードゲームの同好会グループ)のマークを印刷してみせた。

ガーガーとすさまじい音を立ててプリントが始まり、考え事でもしているかのように時々止まって、ものすごく時間がかかった。

俺はまだそのデスクトップ・パブリッシング(DTP)とやらが何なのかよく分からなかったけど、デザイン分野でDTPが一般的に活用されるようになるまでにはもう少し時を待たねばならなかった。
ただアメリカのパソコンが凄いことは分かった。
K崎君はいつも情報雑誌を読んでいるからアメリカの、特に西海岸の情報が早いのだ。
何でも先取りして、俺たちに見せてくれる。
いいか悪いかは別にして。

まさかこんなにもパソコンが普及して、日常生活に不可欠なものになるとは、その時は夢にも思わなかった。


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