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#散文詩もしくは自由詩

〖詩〗レモン

〖詩〗レモン

若い君の涙が
瞳に溜まった涙が
この夜をこらえて
明日

明日の朝陽に溢れれば

ひとつのつややなレモンとなって
まばゆく光るのだろう

〖詩〗ひとり

〖詩〗ひとり

一人でいると

言葉が 寄ってくる
闇が 寄ってくる

私はいつも
居心地のいい椅子に
もたれながら
しおからい夜の海で
さみしさをいじくっている

〖詩〗鈍行にて

〖詩〗鈍行にて

トンネルをぬけると

曇天の
無残な田畑に

菜の花が一束
光っていた

〖詩〗 10がつ

〖詩〗 10がつ

秋は
現実が快適で
わずらうことの少ないので
何をするのも容易

空想にふけろう

〖詩〗 つくる

〖詩〗 つくる

押し花する ように
手招きする ように

風の瓶詰め
夜の抽出
虫眼鏡の中の宇宙

解剖する ように
椅子を製する ように

感情の琥珀
性善説の証明
日常の濾過
私的な考古学

そんなように つくる
そんなように いきる

〖詩〗 パターン

〖詩〗 パターン

ゆくさきの不安
めさきの利益
そのために

大それたセリフ
大袈裟な音楽
そういう人生を
すっかり失くしたのだ

私の映画は
不条理ですらない
十に九つの
ありふれたプロットだ

それでいて
二度と描けぬ
波形のパターンだ

〖詩〗 秋の朝

〖詩〗 秋の朝

秋の朝
ふだん衝立のように
黒黒と扁平な山かげが
霧をまとえば
どっしりと迫ってくる
一枚絵のトリックがとけて
それぞれの面様が顕になる

何もかもが
ようやく始まったかのように
思われてくる

〖詩〗 ひらける

〖詩〗 ひらける

鬱蒼とした山道をゆけば
ふと 場がひらけて
光がみちて
なにかを祝うように
葉が降ったのだ
ゆったりと降ったのだ
こうふくのありか
ここがそうなのかしら

それからというもの
鬱々とした昼間など
このささやかな空間が
私の懐に ぽっかりと
ひらけることがある

〖詩〗 いきる

〖詩〗 いきる

さみしさ
ふあん
はっこう

ゆたか
あなた

あたたか
ひかり
はらっぱ
ころがる
わらう
ねむる

いきるいきるいきる
いきるいきるいきる

かなしみ
くるしみ
じゅくせい

ほんとう
あなた

なめらか
みず
あらわれる
やわらか
かぜ
なでられる
わらう
ねむる

いきるいきるいきる
いきるいきるいきる

〖詩〗 シジャンの朝

〖詩〗 シジャンの朝

朝の街に開かれた
ささやかな喧騒 シジャン
強面アジュンマの屋台で

マンドゥスープの味は
お正月のトック汁とは違った
塩っぱくて
キムチの味は
自家製のとは違った
かっらい

ビビンパを混ぜてくれるアジュンマの顔には
静かな笑いが満ちていた
その表情から湯気のごとく立ちのぼってきた祖母の顔
山中の木陰に揺れる苦い生を
かくもほの明るく咲かせた野花
思わぬ邂逅に熱した喉を
トウモロコシ茶で誤魔化

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〖詩〗 ふれる

〖詩〗 ふれる

なにかに触れる時
それは私に触れる

柔いものに触れる時
私はかたい
温いものに触れる時
私は冷やい

舌をザリザリと感じる時
猫は私の手の甲を
「ニィ」
なめらかに感じる?

葉をすべすべと感じる時
葉は私の指紋に
「 」
辟易している?

私が癒しを得たものは
私に傷つけられたろうか

私を温めてくれたものは
私に温度を奪われたろうか

私に不快を与えたあれは
私で快感したろうか

手と手繋ぐ

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