#4-4 批判的リフレクションのすすめ:系統的に本を読んで、自分のテーマについて考えよう!【MAWARUリフレクション:千々布先生#4】
みなさんこんにちは。MAWARUリフレクション事務局です。
今回は、1月21日(土)に開催した、「リフレクションを対話的に再構成する~研究者と実践者でリフレクションを紡ぎなおす~」シリーズの第4回目イベントの様子を、引き続きお伝えします。
PartⅡからPartⅣは、千々布先生と参加者のディスカッションの様子をお届けしていきます。この記事はPartⅣになります。なお、本シリーズはPodcastでも配信しています。
集団づくりに向けた実践的リフレクション:参加者の実践から
千々布:さてそろそろ3枚目のスライドいきましょうか。集団のあり方ね。これはまず一言だけ言っておくと、本の中で書いたのだけれども、リフレクションというのが個人リフレクションと集団リフレクションがあります。集団リフレクションの方がより効果が高いというのは、これもう経験則なのだけれど、色んな量的な調査なんかも通じて、集団リフレクションの方が個人のエージェンシーを拡大する上で有効であるということは言われているのです。
千々布:それで、集団をどう作っていったらいいかということですね。これも、皆さんはどう考えますかということをまずはお聞きしたいね。これに関しては、スライドを用意しているのだけども、まずは皆さんの実践的リフレクションを聞いて、私の批判的リフレクションの例をお示ししようと思っています。どうですか皆さん。
E:私は校内で研修主任として、生活総合で研究を進めていくにあたって、前回の読書会でも僕ここのところでモヤモヤを言ったのですが、やはり経験とバックグラウンドが違う先生たちで、なかなか研修が進めにくいという現状を感じていました。研究授業というのも、研究授業が終わったら、打ち上げ花火になってしまって、実践が続かないみたいなことを課題にも思っていたので、3年前ぐらいから、生活総合で1年の最後に皆で実践を発表する、学年でやったことを発表するという機会を作っています。ちょうど今週、それがあったのですね。先週の読書会では、まだそのアウトプットはなかったのですが、今週その実践発表会を先生たちから聞いた時に、先生たちから出てきた言葉が、2年目の先生は生活科をやった時に「子供たちと一緒に成長できた」っていうことを言ってくれて、大ベテランの先生は「総合を皆と一緒に話して作ることで、自分が今までやっていた固定観念みたいなのが変わってきました」ということを言ってくれたので、全員で共有できたのがすごくいい時間だったなと思いました。そうすると、なんか自分は今まで、そういう先生の内面的なところって全然見えてなかったのだなという風に思ってですね。むしろ、表面的な「生活は進んでいるのかな、総合はちゃんとやっているのかな」みたいなことばかり気にしていて、先生たちの内面的なところを理解しようとしてなかったなという風に感じます。今の話も聞いていても、やはりもっとコミュニケーションを大切にして、先生方と関心を持って接していけば、こういうリフレクションや実践が、発表するだけではなくて、文化的になっていくのかなという風に、今思いました。
千々布:いや、いい話ですね。今の話の様子だけで、先生の学校のソーシャルキャピタルが結構高いと感じるのですよ。で、先生のファシリテーション能力も高いのですよ。E先生は、自分のファシリテーション能力をもっと高めたいと思っているわけですよね。じゃ、どうしたらいいかってね、一つは私の本を読んで、私に対してこういう質問をしたいと思うようになった、ということになるのだろうけれども。今の話を聞いていたら、そういう風に思うのであれば、授業研究のやり方とか、ファシリテーションのやり方とか、色々と本を読みたくなるのではないかな、とか思うのですけれどね。
技術的リフレクションのすすめ:本を読んで情報収集をする
千々布:そういう、本の読み方というところではいかがですか、Eさん。
E:本の読み方ですか。
千々布:うん。その授業研究の進め方って沢山本が出ているから。今までどんな本を読んだことがありますか。
E:ラウンドスタディっていう…
千々布:確か石井さん(※1)が出した本ですか。
E:はい。これを読んで、校内研究授業にはなかなかうまく活かせていないのですが、研修の何か話し合う時に思っていたのが、やはり力のある先生の発言によって、1時間の会議で一切喋らない先生がもう何人もいる、というのは割と仕方ない状況だなと思ったのです。なぜなら公立なので、その学校の所属が長い先生もいれば、異動で初めて来た先生、また臨採で初めて来た先生、年度途中から入った先生で、バラバラの中で同じ取り組みをしています。そんな中で、何とか多様な立場というか、例えば新しく来た先生は、うちの学校の取り組みを新鮮な形で見ることができる。もちろんずっといる先生は長い歴史を知っているので、色んなことを網羅的に見ることができる。全く経験のない先生にとって、「これってどういうことですか」という疑問が、そもそも示唆に富んだものになるというところが強みだと思ったので、ラウンドスタディを取り入れて、皆が何か話す量というのを確保しようと思ってやりました。
E:あと研究授業に関しては、伊那小の実践の本(※2)を読んで、「個の追及」みたいなことを少し取り入れてですね、なぜなら「研究授業を先生たちで見ましょう」と言ったときに、視点がやはりバラバラで。例え「見る視点」を作ったとしても、話し合う時にやはり技術的なところを言う先生もいれば、子どもの姿を見て「こうだったね」という先生もいて。ただ、ここがバラバラだったので、今年は見る児童を年間で3人決めて、1年間追うという授業研究をしました。なので、協議会の話題というのは「子どもの姿」「子どもとの関わり」「教師との関わり」という風に定めて話すことができました。ただ、それも校内の中では結構賛否両論でした。そこに縛る必要はないのではないかとか、逆にそこで見やすかったというところもあるので、ここは振り返り、リフレクションしていかないといけないのかなという風に思っています。
千々布:おそらくEさん、かなり勉強している方になるはずなのだけれども、今の話を聞いていると、やっていることと、勉強していることがまだ十分噛み合ってないなという印象があるのですね。やっていることはね、まだファシリテーションをもう少し勉強していいのではないかなという印象がありました。そうするとね、そういうところに焦点化した授業研究の進め方についての本もね、いくつか出ているのですよ。石井方式とかね、伊那小学校というのは、かなりレベルの高いやり方だから、個人としてはもちろんそれを勉強していいのだけれども、それをEさんの今の学校に当てはめていこうとすると、伊那小を全然見たことがない先生の方が大部分なのだからね。Eさん、毎年のようにあの冬場、あの場に行っているわけでしょ(笑)。あそこに行きだしたら、毎年この時期になったら行かないと気が済まないという風に思うようになるはずですからね。まあそれはそれで、個人の勉強としていいのだけれども、そこまではできない先生がいっぱいいるから、その人たちを引き寄せるためには、どういうやり方があるかと考えていった方がいいのですよね。おそらく石井英真さんが関わっている学校というのは、本人は町医者だなんていう風に自分で言っているのだけれども、かなりレベルの高い学校とばかりお付き合いしているはずなのですよ。そこまで至っていない状況の学校であれば、どういうやり方がいいかとかね。これはね、技術的リフレクションのレベルで色々と情報収集していいと思うのですね。簡単に言ったら、読書の幅を広げましょうという話になる。そうしたら、Eさんの実践そのもの、ファシリテーターとしての力量も高まるし、授業も変わっていくのではないかと思いました。
批判的リフレクションのすすめ:系統的に本を読んで自分のテーマを考えていく
千々布:ではね、もう少し皆さんの話を聞きたいのだけれども、ここで私の方のスライドを共有させてもらえませんか?皆さんからの質問にどう答えようかと考えたら、私ね、こういうスライドを作っちゃったのですよ(図1)。
千々布:集団をどうしたらいいか。で、集団の保たせ方、それぞれ勉強されている保たせ方があるわけですよ。私は本の中では、集団リフレクションが有効だということしか言っていないわけ。そういう集団を作るために、どういうことを考えなくてはいけないかというと、上から順番に説明すると、ロバート・パットナムっていう人がいてね、身なりのいい紳士がね、たった1人でニューヨークの街中でボーリングを楽しんでいるというのを見て、これは一体何なのだと思ったのですね。高収入を得てはいるのだけれども、友達がいない、どうもこの人寂しそうだと。そこで集団の意義というのに気がついたというのが、パットナムのソーシャルキャピタルの概念になるわけですよ(※3)。ソーシャルキャピタルというキーワードで出てくるのは、集団が大事、それは集団リフレクションではありません。どちらかというと、周辺的参加論(※4)とかね、自分の所属集団が大事だということを言っています。
千々布:教師集団の同僚性について深く考え続けていたのが、アンディ・ハーグリーブスでね。ハーグリーブスが同僚性に言及している本がまだ翻訳されていないから読めないのだけれども、英語でChanging Teachers, changing Times(※5)っていうタイトルだったと思うのだけれども、それは教師の同僚性についてかなり深く突っ込んだ考察をしています。
ハーグリーブスの考え方は、日本人の研究者にはかなり影響を与えています。佐古秀一さんは、今は鳴門教育大学の学長をやっているのだけれども、あの人の考え方は、ハーグリーブスの考え方の延長線上にあるのです。同僚性を高めるためにはどうしたらいいかということをやっている。佐古さんは、自分の考えを本で出している(※6)ので、集団の作り方ということで、佐古秀一論というのは参考になるでしょう。
皆さん、ピーター・センゲという名前は聞いたことがあると思うのだけれども、「学習する組織論」ね。これはセンゲの直訳も出ている(※7)のだけれども、センゲ論に影響を受けてから、熊平美香さんという人がね、確かリフレクションとタイトルに入れている本を出しているのですよね(※8)。センゲの「五つの法則」という本とか、「学習する学校」という本とかね、センゲの本を読んでもいいのだけれども、熊平さんの本を読んで、学習する組織論というのを勉強するやり方もあります。
千々布:佐藤学論は、4人組でどう勉強していきますかというような話じゃないのですよ。佐藤学論の本質は、共同体なのです。教師の共同体をどう作っていけばいいか、教師の共同体というのはどういうものかということを言っているのですね(※9)。
千々布:そこまでは組織版とでも言うのかな。そういう組織をなるべく意図的に作っていきたいですよねという考えが出てきますよね。日本の教師集団というのは、伝統的にそういうことができているわけ。ところが海外の方だと、学校の先生というのは例えばね、朝出勤したら直接自分の教室に行きます。自分の教室に自分の机があって、そこで教えます。小学校だったらそこに子どもたちがずっといます。中学校で教科専門だったら、その先生が数学の先生だとすると、数学の時間になったならば、その数学の先生がいる教室に子どもたちが外から入ってくるわけですよ。だからね、自分の教室から全然抜けていない教師がいっぱいいるわけね、海外だと。そういうのを「個業化」と言っているのだけどね。そういう個業組織の中で、教師の力量をどうやって高めましょうかという風に言ったならば、日本には職員室なるものがあるらしい、という話になってくるのですね。そういうのを、じゃ意図的に作りましょうと。職員室はできないから、時々少人数グループで話し合いましょう、という考えが出てくる。それがね、プロフェッショナルラーニングコミュニティ(PLC)というもので、ホード(※10)とかデュフォー(※11)という研究者がいる。このPLCの考え方を強く影響を受けているのが、大阪教育大学の木原俊行さん(※12)です。
千々布:授業研究というのも、本質的にはPLCの1手段になるわけです。授業についてみんなで議論していきましょう、ということだからね。あと、日本では馴染みがないのだけれど、アクションリサーチというのがアメリカとかイギリスでかなり取り入れられています。日本では、校内で議論するのは大体授業研究というスタイルをとるのだけれども、海外だと、先生たちで何か共同研究やりましょうと考えるわけですよ。そういうのがアクションリサーチということになります。
千々布:教員組織どうしますかというと、これだけ色んな本が出ていて、色んな考え方があるわけ。丁寧に探したら、もっと沢山出てくるはずです。それを自分の問題関心に従って読み広げていったらいいわけですよ。私から「校内組織でこういう風にやったらいいです」という風に言われて、それをその通りにやるというのは、技術的リフレクションの考え方ね。そうではなくて、自分で校内組織をどういう風に作っていったらいいのか、集団体制をどう作っていったらいいのかということをね、こういう本を読みながら考えていくというのが批判的リフレクションになるのですね。ということを、皆さんに考えていただく必要がある。
リフレクションそのものの批判的リフレクション:そもそもリフレクションとは何か
千々布:あと、リフレクションそのものですよ(図2)。
千々布:今日の1番目のスライドであった、リフレクション3段階論をどう構築していったらいいでしょうかという質問は、それは技術的リフレクションですよね。じゃ、批判的リフレクションとは何かというと、そもそもリフレクションとはどういうものかという考え方になるのですよ。そもそもリフレクションとは何か。ほとんどのリフレクションの本がね、最初にリフレクションに言及したのはデューイ(※13)だと書いているのですよ。デューイのリフレクションというのはこういうことなのだろうって。リフレクションの概念を明確化したのが、ドナルド・ショーン(※14)になるのですよ。ショーンと一緒に、クリス・アージリス(※15)という研究者がいてね。ショーンのリフレクションを実際に深めるのは、普段の実践に即しながらより深く考えていくのが大事なのだろうということをアージリスは言っていて、ダブル・ループ・リフレクションと言われています。
千々布:稲垣忠彦先生(※16)は東京大学の教授だったのだけれども、その後、信濃教育会の研究所の所長になっているのです。稲垣先生が主催する信濃教育会の勉強会は、教師のリフレクションを深めるやり方なのです。そこでみんな、自分の実践を実践報告という形で持ち寄って、自分がどういう授業やりました、その授業の中で子どもたちがどう変わっていきましたかと、長文のレポートを書いて持ってくるのですね。それをお互いに聞き合う、それを基に議論し合うということで、みんなリフレクションが高まっていく。柳澤昌一、木村優というのはね、福井大学の先生なのだけれども、そういう信濃教育会の実践をずっと勉強して、そういうリフレクションを教職大学院に来る教員に経験させましょう、という「福井大学プログラム」を作っているわけなのです。ドナルド・ショーンを翻訳(※14)したのは柳澤昌一さんなのだよね。思想的には、福井大学の中で柳澤さんの占める位置が一番上です。柳澤さんに次いで、福井大学の考え方をリードしそうなのが木村優さんで、この人は秋田喜代美さんのお弟子さんで、心理学が専門であるのだけれども、ハーグリーブスにも師事したりしましてね。結構深く考えているのですよ。心理学に関する本(※17)を出したりしているのだけれども、そういう本を読んで、リフレクションとはどういうものかというのを書いている。
あと皆さん、鹿毛さんとか奈須さんはよく知っていると思うのだけどね、彼らのお師匠さんに藤岡完治さんがいるのです(※18)。藤岡完治さんがお弟子さんとやる時は、もうずっとリフレクションなのですよね。リフレクションを高める。鹿毛さんは、リフレクションという言葉はあまり使わないのだけれども、藤岡完治の影響を多大に受けているのですね。澤本和子さん(※19)は、日本女子大学で教えていて、元々国語の教師なのだけれども、国語の授業作りの時にリフレクションということを非常にこだわってやっている。皆さんが招聘した上條晴夫さん(※第2回イベントにご登壇)の本(※20)を読んでいるとね、藤岡完治の影響をかなり受けているのですよね。なので、ここに位置づけたということになる。
千々布:コルトハーヘン論は皆さん既に勉強しているから簡単に飛ばすのだけれども、大きくは、坂田さんたちのグループ(※第1回イベントに山辺恵理子先生がご登壇)(※21)が出しているコルトハーヘンの考え方とね、それと町支(※第3回イベントにご登壇)・脇本(※22)が出している、コルトハーヘンの考え方があると。あと、エドガー・シャイン(※23)が出している、コンサルテーションという考え方があります。
千々布:つまり、リフレクションについて、批判的リフレクションをするということは、これらの人たちが皆リフレクションについてどう考えているのだろうか、と考えていくことなのですよ。私が考えるリフレクション論を皆さんに説明することはできますよ。できるのだけれどね、それを聞いて皆さんがメモしてから、「リフレクションはこうやったらいいのだ」と考えるのは、技術的リフレクションなわけ。批判的リフレクションをやろうとすれば、このスライドに挙げているような人たちの本を、読める範囲で読んでいく。もう私は既に全部読んでいるのだけれども、本当は、読んでいない本で、リフレクションに関する大事な本はいっぱいある可能性があるわけ。これは、私の批判的リフレクションの途中過程で、皆さんが批判的リフレクションをするための参考として、例えば私は今までこれだけ勉強してきていますよと。皆さんも似たような勉強してみませんか、というのが今日の1枚目のスライドの質問に対する私の答えになるわけですね。ということで、皆さんの批判的リフレクションが促進できましたでしょうか。私からの話は以上です。
まとめ
以上、PartⅣの記事をお届けしました。参加者の実践の共有のお話から、技術的リフレクション・実践的リフレクション・批判的リフレクションの違いと、3つの段階のリフレクションにそれぞれ取り組むことの大切さが見えてきたのではないでしょうか。特に、技術的リフレクション・批判的リフレクションのすすめとして、千々布先生から示していただいた書籍紹介・研究者紹介のパートは「圧巻」という言葉に尽きます!
本イベントは「リフレクションを対話的に再構成する」をテーマに行ってきましたが、筆者にとっては本記事の執筆を通じて新たな知と格闘したことそのものが、リフレクション概念の新たな地図を描き、再構成する時間となりました。この記事をお読みの皆様に、そのワクワクの一端をお届けできていれば幸いです。
千々布先生のイベント記事は、本記事で最後となります。イベントにご参加の皆様、ゲストにお越しいただいた千々布先生、この度は誠にありがとうございました。次回の第5回イベントでは、東京学芸大学教職大学院の渡辺貴裕先生をお迎えしています。今後のイベント記事についても、ぜひお読みいただければ幸いです。お楽しみに!
MAWARUリフレクションメンバー
(執筆:生井)