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ソーシャリー・ヒットマン外伝15「蒼き裏側の住人たち」

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俺は根来内ねらいうち だん。殺し屋だ。

殺し屋と言っても、人を殺めるなんてマネはしないのさ。

俺が殺めるのは……そうだな、「社会的地位」とでも言っておこうか。


路地裏での出来事は、俺を激しく困惑させた。俺に銃を向けた依頼人・蒼里あおり 運天うんてん、その依頼人をなかったことにしたマイトンと波、そして路地裏の番人・めぐみティコ……くそっ、なにがどうなってやがる。

騒動の後、ティコは俺に「不憫な目に遭ったら、いつでもいらっしゃいね」と言い放ち、そのまましゃなりしゃなりと帰っていった。その直後、降っていた雨がピタッと止み、雲間から光が差した。一体なんだったんだ、あの女は。

まあいい。とりあえず危険な依頼人は消息不明ということで、蒼社長の社会的抹殺ソーシャルヒットはキャンセルだ。二度も狙われ、二度もキャンセルとは、あの男も運が良いのか悪いのかわからんな。

ふう、路地裏も静かになったことだし、ちょいと一服するか。そう思い、俺はポケットからココアシガレットを取り出そうとした。


♪もももも~ももも~ももももも~


俺のスマホが鳴った。着信メロディーは、「ピーチパイン・ポーキュパイン」シーズン2のオープニング主題歌「もももももももももももも」のTVサイズバージョンにしてある。主役声優・宇津串うつくし 憩絵いこえのすんばらしい歌声に、着信のたびに聞きほれてしまう。

10秒くらい聞いた後、通話ボタンを押した。

「あたしからの電話にすぐ出ないなんてねぇ、いつの間にそんなえらくなったんだい?」

「すぬ婆か。なんの用だ」

「おや、随分なご挨拶だねぇ。『はよ開けんかい委員会』があんたをお呼びだよ」

「はよ開けんかい委員会?」

「忘れたのかい? まったく、相変わらずの鳥頭だねぇ。前に蒼木部長から話があったろ?」

蒼木? ああ、そういえばそんなことを話していたっけ。

「すぬたさんの情報は、リアルタイムで『はよ開けんかい委員会』――秘密裏に反乱分子を探る我々のチームのことだ――に伝わっている。当然、君が潜入したことも、財布をスられたことも、飴で嘔吐したこともな」

SH外伝5「蒼き真実は目の前に」より抜粋

「時間がないので、簡潔に話す。俺にはやらなければならないことがある。愛殺文を生み出した反乱分子を見つけ、壊滅させる。そのためには、君に生きていてもらわなくてはならない。しかし、悲しいかな、今は内部崩壊の危機にある。蒼社長の孫・マイトンと我が部下・蒼林とが対立してしまっているのだ。俺はまずこれを止め、はよ開けんかい委員会を再構築しなくてはならない」

SH外伝6「蒼き決意、黒き運命」より抜粋

秘密裏に反乱分子を探るチームが「はよ開けんかい委員会」だと。
その中でマイトンと蒼林が対立していて、ワールド・ブルー株式会社は内部崩壊しかけていたと。
それを蒼木がなんとかしようとして、「はよ開けんかい委員会」を再構築しようとしたと。

その後どうなったのかは知らん。
が、俺に情報が来ていないことを考えると、内部崩壊の危機は去り、ひとまず元の鞘に収まったのだと思う。

しかし、今、すぬ婆を通して「はよ開けんかい委員会」が俺を呼び出した。これはなにか問題が起きたんじゃあないのか。

「あたしが案内役を命じられたもんだからさ、本社ビルの入口で待ってるからね」

「わかった。すぐに向かう」



ワールド・ブルー株式会社の本社ビルにやってきた。
入口では、割烹着姿のすぬ婆が俺を待っていた。

「よく来たね」

「あんたが呼び出したんだろうが」

「それもそうだ。ところで、念のため確認するけどさ、だれにも尾行つけられていないだろうね?」

「問題ない。『隠密あんみつ』を食べてきた」

「そうかい。じゃあついてきておくれ」



すぬ婆に案内されてやってきたのは、本社ビル2階の一角だった。

「ここが『はよ開けんかい委員会』の本部だよ」

暗躍している組織と聞いていたので、地下とかもっとわかりにくい場所にあると思っていた。あえて目につきやすそうなところに設置することで、疑惑の目を逸らす効果があるらしい。「木を隠すなら森の中」とはよく言ったものだ。


部屋の中に入ると、3人の人間が待っていた。部屋の奥に置かれている長机に両肘をつけ両手を組む形で1人座っており、その両脇を2人が固めている。

椅子に座っているのは、眼鏡をかけた老紳士。長い銀色の髪とヒゲ、左目にはモノクル、歴史を感じさせるフォーマルな服装、どれをとっても中世ヨーロッパの貴族を彷彿とさせる。身なりだけでなく、オーラにもただならぬものを感じた。

両脇の2人のうち向かって左側は、厳格そうなスーツ姿の男。年齢は蒼木と同じくらいだろうか。白髪交じりの髪と顔に刻まれた皺には、酸いも甘いも嚙み分けてきた貫禄がある。口を真一文字に結び一切の感情を表に出さないところが、不気味さを醸し出している。無口で無愛想な奴だ。

右側の方は女だった。それもまだ若い、20代前半くらいに見える。髪はショートウルフで不自然なくらいに真っ蒼だが、瞳は燃えるような橙色だ。肌は白く、機能性の高い身軽な武装をしている。ボディーガードだろうか。

「根来内 弾を連れてきました」

すぬ婆が言った。

「ご苦労じゃった、すぬたさん。下がってくだされ」

老紳士が穏やかな口調で返した。

「はい、失礼します」

すぬ婆は老紳士に向かって頭を下げた後、静かに退室した。

「急に呼び出してすまんかったのう、根来内殿」

「お前は一体……」

俺が口を開いた瞬間、ショートウルフ女が一瞬にして目の前に現れ、俺に銃口を突きつけてきた。
ええええ。まじか。ついさっき別の人間に同じことされたんだが。一日に2回も銃を向けられるなんて。もしかして、こいつはマジのヒットマンじゃあないのか。あばばばば。

「『お前』? 貴様、だれに向かってそのような……!」

「おやめ、あかねくん。彼は我らの客人じゃよ」

「しかし……!」

「よいのじゃ。失礼はこちらの方にある。わしの頼みを聞いてくれんかの」

老紳士は笑みをたたえながら、ショートウルフ女を優しく諭した。ショートウルフ女はしぶしぶ銃を下ろし、元に位置に戻った。ふう、危なかった。

「手荒な真似をしてすまなんだ。わしは『はよ開けんかい委員会』の委員長、蒼下葉あおげば 十年とおとしという者じゃ。以後お見知りおきを」

蒼下葉は立ち上がり、自己紹介をしてから仰々しく礼をした。

「こちらの女性は蒼久内あおくない あかねといってのう。当委員会で諜報員をしてくれておる。要するに我が社ワールド・ブルーの内部を探るスパイというわけじゃな。すぬたさんの部下にあたる」

蒼久内ショートウルフ女は、「フン」と鼻を鳴らした。

「そしてこちらの寡黙な男性は、当委員会の事務局長をしてくれておる、蒼見鳥あおみどり 緑青ろくしょうじゃ」

蒼見鳥は、なにも言わず表情も変えず会釈した。

「さて、自己紹介も終わったことだし、本題に移ろうかの」

椅子に座り直し、元のポーズに戻った蒼下葉は、静かに口を開いた。

社会的抹殺ソーシャルヒットをお願いしたいのじゃ。そのためには、スットン共和国に行ってもらわなければならぬ」




社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマン・根来内 弾。

彼は、パスポートを持っていない。

(続く?)


【あとがき】
どうも、言葉遊び大好き!アルロンです。

早いものでSH外伝も15話となりました。いつも読んでくださりありがとうございます。

今回、新キャラを一気に3人も作りました。
それぞれなんとなくイメージしてる既存キャラがいるので、こっそり書いときます。

☆各キャラのイメージ
蒼下葉 十年:アルバス・ダンブルドア(小説「ハリー・ポッター」シリーズ)、ヘンリー・ヘンダーソン(漫画「SPY×FAMILY」)

蒼久内 茜:カチーナ・タラスク(ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズ)

蒼見鳥 緑青:岡本 龍肝(漫画「ACMA:GAMEアクマゲーム」)


【参考記事】

↓「すぬ婆」ってだれですか


↓「はよ開けんかい委員会」ってなんですか


↓「マイトンと蒼林の対立」ってなんですか


↓「スットン共和国」ってどこですか


【ワールドブルー物語】


【「ソーシャリー・ヒットマン」シリーズ】

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