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星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

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地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
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#短編

掌編「最後の竜、ディディ・クー」

掌編「最後の竜、ディディ・クー」

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星語《ホシガタ》掌編集*13葉目

(2033字/読み切り)

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いつから逃げ続けている。何から逃げ続けている。

賭けて駆けて架けた先には、何があるのか、道はあるのか、続いているのか、ここはどこだ。そうだここは旅の途中───。

────水没した”ビルヂング”遠く立ち並ぶ中、ギザギザにアスファルト折れた、橋脚《きょうきゃく》の背の上。

昔々”コォソクドーロ”って呼ばれ

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掌編「西からの使者、空に。」

掌編「西からの使者、空に。」

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星語《ホシガタ》掌編集*12葉目

(4352字/読み切り)

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空は夜でもなく昼でもなく、なんというか“灰”だった。

遠くの方で、ゴゴ…と不穏な音が響く。

西の空だけがまるで大きな蛍光灯を消し忘れたような、うるうると不気味な白さのまま、ずっと沈みもせず、満ちもせず、欠けもせず、ただ往来のわたしたち、虚無、空っぽの横顔を薄暗く照らしていた。

───買い出し用のリュック

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掌編「歪なクッション」

掌編「歪なクッション」

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星語《ホシガタ》掌編集*11葉目

(3355字/読み切り)

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チクチクチク、チクタクチク…。

気づけば、どこかの寒々しい暗闇の中、肩にショールもかけず、小さな蝋燭の灯りに目を凝らしながら、───何かを必死で縫っていた。やたらとちいさな…10㎝あるかないか。ぐらいのなにか。

今様色…?紅色…?いや、もっと彩度が高い……猩々緋《しょうじょうひ》色…?の何か、一部が丸かっ

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【短編】8月31日、切符を拾った。03

【短編】8月31日、切符を拾った。03

≪*夕方編*≫

***sideおおきな”わたし”***

西へ、西へ、西極《さいはて》へ…と雲たちが帰っていくような夕暮れ時だった。

「なるほど…」
「多肉ちゃんと朝顔が…」

お姉さんは、ただ、聞いてくれた。そして分かったような事も一言も言わずに「ジュースは体が冷えますから」とポットのお茶を分けてくれた。

真緒とまお。わたしとワタシ。おおきなわたしとちいさなワタシ。どこかのお姉さんに優しく

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【短編】8月31日、切符を拾った。02

【短編】8月31日、切符を拾った。02

≪*午後編*≫

***sideちいさな”ワタシ”***

───大人だからって道をしってると思ったワタシがバカだった。

「ご、ごめんね…」
「……いいよ、もう…」

ワタシとめがヌ。2人ともヘトヘトでいしだたみの細い道。古いかいだんのとちゅうで座りこんでいた。きっとこういうのを”徒歩《とほー》がくれる”というのだ。もさもさの木々の向こう、とおくにやねと海が見えた。

あれからめがヌは「任せとい

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【短編】8月31日、切符を拾った。01

【短編】8月31日、切符を拾った。01

*午前中*編

仰ぐと玉座のような入道雲が天を蹂躙していた。8月31日。ツクツクボウシの断末魔の声が響く。夏の終わり。どこかの体育館から、とぎれとぎれの、カノン。

わたしは多分、”切符”を拾った。というか、切符だったんだろうと思う。

───その前にわたしのちいさな頃の話をしよう。

───”ちいさなワタシ”は10数年前のこの日、朝から大きな肩掛けかばんに少しの旅の装備を詰め込み、お気に入りの麦

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掌編「世界は愛すに満ちてない?」

掌編「世界は愛すに満ちてない?」

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星語《ホシガタ》掌編集*10葉目

(4000字/読み切り)

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「ミカちん❤️行ってきます」

犬ころ──わたしの長年連れ添った腐れ縁の彼氏──が寝てるわたしのおでこやらほっぺたにチューしまくって、起こさないように出て行ったのは覚えてる。

バイトが休みの朝。起きると、今日から梅雨明けだというのにやたらとひんやりしてて…部屋の壁が…?なにこれ。オフホワイトで、ざらりとめく

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掌編「庭師は地平に林檎の苗を」

掌編「庭師は地平に林檎の苗を」

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星語《ホシガタ》掌編集*9葉目

(2728字/読み切り/キャラデザ付)

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線原《せんのはら》地区は、その名の通り、延々と地平線が続く区域で、神の一筆。という通り名がついているぐらい、だだっ広く、単調だった。

わたしは小包を抱え、隣丘の大ペリカンのところまで、”お使い”にでているところだった。歩くたびローブの襟から三つ編みがぴょこぴょこと生き物みたいに反り、西日が弾けた

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掌編「鳩目町仕様ネイビーモデル67」

掌編「鳩目町仕様ネイビーモデル67」

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星語《ホシガタ》掌編集*8葉目

(2662字/読み切り/挿絵付)

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陽炎の中、ゆらり、青い屋根連なる白ばんだちいさな町、霞んで揺れた。

──ここはどこだ?

これは残像?それとも────

ふと気づくと、わたしは、光の爆発の中、坂の上から遠く水平線が見渡せる、どこかの町の只中に突っ立って、ノースリーブのワンピースをなびかせ、眼下に広がる青を見ていた。

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掌編「そんなところも?どんなところも」

掌編「そんなところも?どんなところも」

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星語《ホシガタ》掌編集*7葉目

(1143字/読み切り)

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「なに読んでるの?」

色の薄い板張りのダイニングに、東からの白い光。くっきりと窓の影が描きだされていた。今日の空は何色だろう。

継ぎの当たった二人掛けソファから巨体をはみ出し寝そべりながら、日曜の朝からスマホをだらだらと読み耽る、わたしの………恋人?いやなんかもうそういうのではない。家族?腐れ縁

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掌編「花唄屋」

掌編「花唄屋」

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星語《ホシガタ》掌編集*6葉目

(696字/読み切り)

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「コイツに話しかけると”はじまりのたね”をいい声で唄うってんで、
地球《あおやね》町、人気の苗でさァ」「お兄さんなら、どの苗だろうね」

柄にもなく花唄屋の口車に乗って、三色すみれを、ひと鉢、連れて帰ることにした。

確かに花唄屋は繁盛しているようで、路地や軒先のそこかしこ、住人が植えた花だらけの町だ

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掌編「うつつの本、青の蝶々」

掌編「うつつの本、青の蝶々」

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星語《ホシガタ》掌編集*5葉目

(2930字/読み切り)

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────ここはどこだ?

気づくと”わたし”は、ところどころステンドグラスがはまった、昭和感ただよう細工窓の向こう、キーコーヒーの看板。飲めもしないレモネードがテーブルに乗った狭い喫茶店で、ipadではなく、何故か原稿用紙に向かい、万年筆で小説を書いていた。

やたらと雰囲気満点な、この原稿用紙とレモネードの小

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掌編「朱の空の碧い錆」

掌編「朱の空の碧い錆」

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星語《ホシガタ》掌編集*4葉目

(950字/読み切り)

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わたしは草ボウボウの石畳、曲がりくねった路地のそのまた小径を急いでいた。

(”開始時間”はいつだったっけ…)

わたしは故郷での演奏会で出演しなくてはならなかった。足を速めるたび、からからと乾いた音が大きな黒い鞄から響いた。

そういえばわたしは何の楽器を演奏するんだっけ…。

顔がない子どもが通せんぼしてこう

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掌編「蒼い箱とスズメさん」

掌編「蒼い箱とスズメさん」

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星語《ホシガタ》掌編集*3葉目

(2031字/読み切り)

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小さな蒼い箱に、白いリボン。暗闇の中、ポツン。ボクは"サミシイ"の箱。

それにしてもここはどこだろう。寒いなぁ。どうやらどこかのお屋敷の窓辺、作りもののとげとげの木の途中に、ひっかかってるみたいだ。

そうだ、ボクはプレゼントのカタチをしてるだけの小さな飾りモノ。明日は昔のエライ人が生まれた、お祭りの日な

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