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星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

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地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
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#挿絵

掌編「エルゴォの不思議なマッチ。」

掌編「エルゴォの不思議なマッチ。」

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星語《ホシガタ》掌編集*15葉目

(4500字/読み切り)

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「マッチだよ。マッチはいかが?」

月夜にシャンシャンと結晶降り積む、白く染まった”銀の町”。慌ただしい年末、今日はクリスマス。どこか遠く、コーディのブンチャカ言う音色に合わせ、不器用な縦笛の夜想曲が響く、がたがたの煉瓦道。

シルクハットの隅の埃を払い、袖も裾も引きずるほど長い煤けた外套には、た

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【短編】8月31日、切符を拾った。03

【短編】8月31日、切符を拾った。03

≪*夕方編*≫

***sideおおきな”わたし”***

西へ、西へ、西極《さいはて》へ…と雲たちが帰っていくような夕暮れ時だった。

「なるほど…」
「多肉ちゃんと朝顔が…」

お姉さんは、ただ、聞いてくれた。そして分かったような事も一言も言わずに「ジュースは体が冷えますから」とポットのお茶を分けてくれた。

真緒とまお。わたしとワタシ。おおきなわたしとちいさなワタシ。どこかのお姉さんに優しく

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【短編】8月31日、切符を拾った。02

【短編】8月31日、切符を拾った。02

≪*午後編*≫

***sideちいさな”ワタシ”***

───大人だからって道をしってると思ったワタシがバカだった。

「ご、ごめんね…」
「……いいよ、もう…」

ワタシとめがヌ。2人ともヘトヘトでいしだたみの細い道。古いかいだんのとちゅうで座りこんでいた。きっとこういうのを”徒歩《とほー》がくれる”というのだ。もさもさの木々の向こう、とおくにやねと海が見えた。

あれからめがヌは「任せとい

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【短編】8月31日、切符を拾った。01

【短編】8月31日、切符を拾った。01

*午前中*編

仰ぐと玉座のような入道雲が天を蹂躙していた。8月31日。ツクツクボウシの断末魔の声が響く。夏の終わり。どこかの体育館から、とぎれとぎれの、カノン。

わたしは多分、”切符”を拾った。というか、切符だったんだろうと思う。

───その前にわたしのちいさな頃の話をしよう。

───”ちいさなワタシ”は10数年前のこの日、朝から大きな肩掛けかばんに少しの旅の装備を詰め込み、お気に入りの麦

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掌編「鳩目町仕様ネイビーモデル67」

掌編「鳩目町仕様ネイビーモデル67」

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星語《ホシガタ》掌編集*8葉目

(2662字/読み切り/挿絵付)

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陽炎の中、ゆらり、青い屋根連なる白ばんだちいさな町、霞んで揺れた。

──ここはどこだ?

これは残像?それとも────

ふと気づくと、わたしは、光の爆発の中、坂の上から遠く水平線が見渡せる、どこかの町の只中に突っ立って、ノースリーブのワンピースをなびかせ、眼下に広がる青を見ていた。

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