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rjm童話

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2023年9月の記事一覧

童話ーあの日のセルフタイマーー

童話ーあの日のセルフタイマーー

僕には、おじいちゃんもおばあちゃんもいなかった。
だから、学校の友達が、たまにおじいちゃんやおばあちゃんに会いに行った話を聞くと、少し羨ましかった。

僕が物心つく前に、ずっと昔に亡くなってしまったらしい。

「おじいちゃんとおばあちゃんが欲しいのかい?」

僕が古いアルバムを広げていると、アルバムの間から枯れ葉の体をした虫が、ひょっこりと顔を出した。

丸い顔に可愛い黒目がこちらをにっこりと見て

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童話ー僕の夏をあげた日ー

童話ー僕の夏をあげた日ー

夏の日の暑さが和らいだと思ったら、また暑い日が続いた。

秋の虫が鳴いたと思ったら、まだ蝉が鳴いていた。

冷房もつけるし、扇風機は回すけど、アイスノンで頭を冷やしながら寝るには、もう冷たすぎると感じる。

「氷はいりませんか?」

眠ろうと横になった僕に、尋ねる声が聞こえた。
びっくりして声のする方を振り向くと、小さな妖精がつぶらな瞳でこっちを見ている。
ティッシュのような薄い布をいくつも巻いて

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童話ー隣人は風見どりー

童話ー隣人は風見どりー

私は、この小さな街で一番大事に作られた。

沢山の願いが詰まった温かな身体に生まれた私は、誰に教わるでもなく、人の願いを聞き届ける魔法が使えた。

それは、人の願い事を直接叶えてあげられない代わりに、叶えるために手助けができるものだった。
例えば、失せ物を探している者には、それを思い出すきっかけを与えた。豊作を望む者には、作物の芽に大きく実るよう語りかけた。平和を望む者には、空に穏やかな天気が続く

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