理柚
きっともう一度触れたくなると思う詩、文章、お話、写真を集めています
no title
有明を夜に発ちます櫓のない船で 湾からの夕景ぐるり生きとし灯 出航は電波を捨てるための言…
多分、いくつか昔の春の日だった。ふと頭をよぎる考えごと。指を滑って落ちたバチェラーズボタ…
寄り添う、 なんて身勝手な慈愛 見守る、 なんて不確かな自愛 一本の茎から伸びていながら 同…
開花予想をはるかに裏切って 裏山が淡く色づく 今さいころを振って「優」が出たなら 地蔵に赤…
きみに 春の花束を贈りたくなった 薄衣の花びら 強く抱くと くしゃりと潰れてしまうような 緩…
わたしにはひみつがある わたしにはひみつがある と 唱えるとたのしい だれにもいえないこと…
そろそろ寝ようか、と思っていると ちいさく扉を叩く音がする こんな時間に、といぶかしく思い…
「しあわせになるおくすり」とまやかして和三盆糖舌に熔けゆく くれまちす、の響きを貝の空洞…
古い家のくちなしの垣根に絡まる抜け殻は 長く細く編まれた銀線細工のようだった 「あら大金…
先日、18歳のころに住んでいた街に行った。とても懐かしいと思う反面、本当に自分がそこにいた…
「急いでいましたの その日は 誰かに追われて何者かを追っかけていましたの いつものわたくし…
枯れたと思っていた枝に 白い珠が連なっている あ、梅のつぼみだ、と思うときの 「あ」という…
あたたかい水に 蜂蜜を溶かしたような午後でしたので 硬く締めたはずの窓の蝶番が 緩むのは仕…
春に違いなかった まだ目覚める前の ずっと霧の中だった くちびるを結んだままの 気怠い午後…
朝、窓を開けると、山際の濃い緑いろの葉の上に、白い薄紙をきゅっと丸めたようなものが見える…
午後の水族館で 僕らは見世物になる 水の中のいきものは どれもしなやかで 歪な僕らを瞬きもせ…