六月の訪問者

そろそろ寝ようか、と思っていると
ちいさく扉を叩く音がする
こんな時間に、といぶかしく思いながら
扉を開けると
そこに居たのは弱く光る蛍だった
どうなさったの?と聞くと
蛍はしどろもどろに言った

「あの、お別れの挨拶に。また来年っていうのも
ぼくにとっては変な話なんですけど
あなたにとってはまた来年があるわけで
いや、あるっているか、ある可能性が大きいわけで
とにかく いつも川をきれいにしてくれて
それに カワニナをありがとう。」

「いえいえ、わたしなんにもしてないのよ。
どちらかというと向かいのヒラノさんのほうが
あなたのことを気にかけていて…」

蛍は ぽう、と光る
蒸気した髪
苔の生えた石垣
自然と不自然が入り混じる
ずんと重く沈みそうでいて
どこか浮足立った
六月のにおいの中

何か気の利いたことを、と思うけど
なにも言うことができない
お別れの挨拶も
ありがとうも
わたしには言葉しか手段がないというのに

ふっと闇に溶ける
手をかざすと 
ぽう、とちいさく光った
















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