船にのる夢

有明を夜に発ちます櫓のない船で

湾からの夕景ぐるり生きとし灯

出航は電波を捨てるための言い訳

幼子は走る甲板タミヤのTシャツ

男らはビール結局海の上でも

波を背に本読む人凛々しく

覚悟なく陸までの距離徐々に失う

外海に出るとき胸の内は詰む

揺ることに慣れないままに午前2時

黒波は終わりのこない陣痛のごと

臨月の胎児となりて春汽船

夜が明けた海こそ「母」と名を決める

目が眩むひかり、風、青、さらに青

半島が現るごろりと寝そべって

「飛び込まないで」ゴシック体の切なる訴え

船上のテレビも正しく朝ドラ映す

ここでまで米津玄師は唄う「さよなら」

下船待つバイカーたちのこなれたブーツ

この船は轍を持たずさざ波残す

それぞれに待つ人があり空は開ける

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