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四神京詞華集~shishinkyo・anthologie~

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2023年4月の記事一覧

四神京詞華集/NAMIDA(10)

四神京詞華集/NAMIDA(10)

【脇役目線から見た幻想世界】

3年後に新国民総背番号券が作られるそうだ。
まあ、半ばチューチューであろう。
近々では国民大運動会が、その前はハコモノ事業が。
そして遥か昔は羅城門を放置し荘厳な寺社を建立していた。
そんなものと一緒にするなと券に関わる人達は言うだろう。
今回は別だと。
恐らくは運動会に関わった人達もハコモノに関わった人達も同じことをのたまわっていたはずだ。
「全てはこの国のためな

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四神京詞華集/NAMIDA(9)

四神京詞華集/NAMIDA(9)

【鬼姫の川流れ】

○白虎堀河・上流(夕)
四神京はゆるやかな傾斜地であり、北側の玄武山脈から南の朱雀ヶ原まで、ほとんど誰も気づかない程度ではあるが下り坂になっている。
都の東西には東川と西川なる川が流れており、京内に入ると青龍堀河、白虎堀河という人工河川となる。
水は低きに流れる。
必然的に堀河の流れは北側の上級階層が住む区域から南側の下層階級が群れ成す地域を通るようになっている。
健全な商業区

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四神京詞華集/NAMIDA(8)

四神京詞華集/NAMIDA(8)

【かえすがえすも何でそんなことをしていたのだろうか?】

○とある寺(二年前)
咲き乱れる菜の花を望む小さな寺の境内で、膳を前に藤原の姫乙子、橘の姫公子をはじめとした貴族の子女たちの宴。
上座で、下げ角髪の少年物部咲屋が粗暴に肉を頬張っている。

咲屋「みなもの。もっとくつろげ。こは麿が宴ぞ」
公子「そのあなた様の宴だからです」
乙子「今を華やぐ右大臣様のご子息なれば、立ち居振る舞いひとつで首が飛

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四神京詞華集/NAMIDA(7)

四神京詞華集/NAMIDA(7)

【何でそんなことをしていたのだろうか?】

○菅原石嗣の館・書斎(二十年前)
山と積まれた書物や巻物、木簡に埋もれるように、ひたすら机上の人となり赤い注釈をつけている石嗣その傍らで眠る赤子の慧子。
貴族の声1「石嗣殿はいまだ出仕されぬか」
貴族の声2「仕方あるまい。奥方が命をかけ生んだ子が女子であったのだ」
貴族の声3「ご本人も気が楽になってよいのではないかえ? なにせ後添えをとるよりも学問という

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四神京詞華集/NAMIDA(6)

四神京詞華集/NAMIDA(6)

【慧子】

思えば変わり者の父だった。
既に過去形にしてしまっているのは無意識のうちに諦めがあるからだ。
多分あの人は私を助けてくれない。
そっち方面のドラマチックな期待はしていない。
だからただ今、別方向からのアプローチを模索中である。
なんと言ったか。
そうだ、祓魔師だ。
お祓いで呪いを解いてくれる、
確か『キヨメの穢麻呂(きたなまろ)』という御仁らしい。
おそらくは殿方であろうが、しまった、

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四神京詞華集/NAMIDA(5)

四神京詞華集/NAMIDA(5)

時は金なりというが、はっきり言って金銭とは比べ物にならないほど人生にとって時は一番大切なものである。
どんなに座席が快適でも同じ乗り物に乗る限り到着時間は白も青も一緒。
ゆえに本当のセレブはプライベート○○を使用する。
そしてその延長線上に昨今の電話離れがある。
電話とは相手の空間にどかどかと踏み込んで、彼や彼女を拘束しその時間を一方的に奪うもの。
だから未来を生きるビジネスパーソンさん達の間では

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四神京詞華集/NAMIDA(4)

四神京詞華集/NAMIDA(4)

【顕現】

○蝮山・中腹
笑い合いながら戻って来る卑奴呼と広澄。

広澄「こんな低い山で迷うとは野生の女も口ほどではないな」
卑奴呼「やだな~もう。山を舐めちゃいけないという教えを身をもって示したげたんですよ~」

と、二人ともその異様に気づく。
血と泥に汚れた慧子が頭を割られた鹿を埋めている。

卑奴呼「な、何やってるんですか姫! 汚れちゃいますよ!」

卑奴呼、竹筒に汲んだ水を差し出す。
慧子

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四神京詞華集/NAMIDA(3)

四神京詞華集/NAMIDA(3)

【怪人と説教】

○蝮山・中腹
ハッとなる慧子。
空はうす曇りとなっている。

慧子「卑奴呼……広澄様……」

慧子、立ち上がろうとするも、膝が痛くて立てない。

慧子「二人共どこで何やってるのよ」

と、草むらから一匹の子鹿がこちらを見ている。
慧子、少し頬を緩め、手を差し伸べてみる。
だが鹿は近づこうともせず、からかうように辺りをうろつくだけ。
慧子の顔に次第に怒りが宿る。

慧子「何笑ってる

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