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泉鏡花「外科室」を→短歌に翻訳して→短歌だけ読んで戯曲に逆翻訳したらこうなる◎小説→短歌→戯曲をつくるバックトランスレーション 「ハヤブサ」

ハヤブサの遊び方

① ものずきがふたりあつまる
② 好きな小説をえらび小説→短歌に翻訳
③「元の小説がなにか」を知らせずに交換する
④ お互いの短歌だけをよんで短歌→戯曲に逆翻訳(バックトランスレーション)
⑤ ④の完成小説と②でえらんだ小説タイトル(翻訳元ネタ)を発表し合う。
⑥ 相違点をたのしむ

さっそくハヤブサで遊んでみる

① あつまったものずき: みやり と 立夏

② 泉鏡花「外科室」を→短歌に翻訳(小説選・短歌作:みやり)※「外科室」未読の方は先に目を通していただいてから続きを読んでいただくことをお勧めします。(→青空文庫:泉鏡花「外科室」
※ 読んでなくても、大丈夫です。

泉鏡花「外科室」をみやりが短歌にしたもの

刀に微笑一つ秘密の躑躅散る 
その呼吸(いき)姿忘れぬ声よ
とうにえみひとつひみつのつつじちる
そのいきすがたわすれぬこえよ

③「元の小説がなにか」を知らせずに交換する

④ お互いの短歌だけをよんで短歌→戯曲に逆翻訳(バックトランスレーション)(作:立夏)

ここで、ハヤブサ追加ルールの発表!

今回のハヤブサには以下の追加ルールを設定してみました。
これを先ほどの短歌にあてはめると……

1. 翻訳短歌を書くとき、原作小説タイトルの名詞を使わないこと
→ 外科室は使っていないのでOK

2. 翻訳短歌を書くときに使用する名詞は、原作小説内の名詞だけを使うこと
→ 刀、微笑、一つ、秘密、躑躅、呼吸、姿、声はすべて原作にあるのでOK

3. 逆翻訳戯曲を書くときに使用する名詞は、翻訳短歌内の名詞を使わないこと
→ 逆翻訳小説では刀、微笑、一つ、秘密、躑躅、呼吸、姿、声使用禁止
※また、逆翻訳戯曲作者は戯曲作成時点で原作が「外科室」であることは知らない状態です。

短歌をもらった時点の立夏の分析

立夏:
 なんですかこの短歌。めっちゃ耽美。耽美な名詞がこれでもかと陳列されてクラックラします。お短歌。初見のイメージで、わたしすごいエロ戯曲を書きそうで不安です。
 このお短歌の物語の登場人物にとって、呼吸、姿、声を忘れることのできない誰かがいて、けれどその人はなんらかの事情でいなくなってしまった(またはそばにいない)その理由には、上の句の秘密の躑躅が関わっていそう。
 刀は「トウ」と読むんだけど、素直に日本刀なのかしら。それとも彫刻刀とかの道具類の省略系なのかも。仮に日本刀だとすると時代物の可能性があるのだけれど、知識がなさすぎていまから書くのが憂鬱。

それでは実際の逆翻訳を見てみましょう。

ハヤブサで逆翻訳された泉鏡花「外科室」

岩倉:三十歳男性
千津留(ちづる):岩倉の三つ下の妹
鳳(おおとり):岩倉の大学時代からの友人・現医師

春の夕暮れ。
河川敷沿いにある古い団地の一室。キッチンと六畳ほどの和室が一部屋の1K。発泡酒の空き缶や捨て忘れたゴミ袋や干したままの洗濯物で埋め尽くされている。
窓の外からは西日が、河沿いの団地が往々にしてそうであるように、長く低く部屋に差し込んでいる。

舞台を背にしてキッチンで夕食の支度をしている岩倉。ラーメンを二杯持ってきて炬燵の上に置く。
千津留はクレヨンで絵を描いている。

岩倉「(半分ほど食べてから煙草に火をつけて)千津留、」

千津留は絵を描き続けている。岩倉、千津留の服を引っ張り食卓に引き寄せる。

千津留「うえうあ(クレヨンでちゃぶ台に線を引く)」

岩倉、千津留の手を払う。クレヨンが床に転がる。

千津留「んん、あい、う(箸と麺で手遊び)」

岩倉、千津留の手を箸ごとつかみ、無理やり口の中に麺を入れる。
千津留、麺を吐き出す。

岩倉「……(千津留の頭を叩く)」
千津留「(わっと泣く)」

岩倉の携帯が鳴る。岩倉ははっとして携帯を見つめ目を離さない。
電話は繰り返し鳴り続け留守電のメッセージに切り替わると、やがて切れる。
岩倉、煙草の吸い差しを千津留の椀に入れ、自分の食事を再開する。
間。麺を啜る音。河川敷から少年野球の子どもたちの歓声が遠く聞こえてくる。
ふたたび携帯が鳴るやいなや、岩倉は自分の食べ差しの椀を手で払いのける。椀が床に転がり中身が飛び散る。
着信音から発信音になだらかに乗り替わりつつ場転。同時刻の大学病院の診察室。
岩倉に電話を掛けた相手、医師の鳳が電話を持って入る。鳳と岩倉の会話。
鳳はなるべくさり気なく、普段の会話のように。

鳳「岩倉、今日休みじゃなかったっけ。何度か掛けたよ。(間)ああ、そうだな。つまり、その、急ぎの用件だった。この間のお前の検査の結果のことで。(間)保険とか入ってるか。(間)癌だよ。(間)なんで笑ってんの。いいよってなんだよ。(間)お前はそれでもいいかもしれないけど、妹は? あれどうすんの。あれでお前とみっつしか変わらないんだろ。もしもお前が死んだら、生きてけないでしょ、あの知恵遅れ……」

長い間。鳳、岩倉の言葉に「ああ」「そうだろう」と相槌を打ちながら薄く笑ったように見える。

鳳「幸いごく初期のものだ。早めに切ればどうにかなる。金の心配はしなくていい。(間)親父の病院だ、バレないようにうまくやれる。手術が成功してもしお前が恩義を感じるなら、いつか奢ってくれりゃいいよ。(岩倉の言葉を遮るように)あぁとにかく一度病院に来てくれ。日曜の十時に。夜間診療の入口の前で待ってるから。患者じゃなくて個人的な客人として通すことにする」

場転。日曜の深夜。岩倉と千津留の家。千津留は歌を歌いながら絵を描いている。
鳳と病院で会ってきた岩倉が帰宅する。

千津留「(岩倉に駆け寄って)おおいよ! おいえ、おああ」

岩倉、無視してソファーに横になる。

千津留「(絵を見てもらおうとして)いえいえー、う、えあぁ」

岩倉、部屋の電気を消す。千津留はしばらく岩倉に言葉を掛けていたが諦めて布団に横になる。

岩倉「なんの絵なの」
千津留「……」
岩倉「それ」

千津留、河川敷から摘んできた一輪の花をおもちゃ箱の中から取り出して岩倉に見せる。
千津留の説明の途中で岩倉、千津留を殴る。

岩倉「外には出るなって言っただろ」

岩倉、千津留に掴みかかろうと近寄り花を意図せず踏んでしまう。千津留、悲鳴。

岩倉「(馬乗りになり何度も千津留を殴ったのち)良かったな、もうちょっとの辛抱でおれは死ぬから。どこへでも勝手に行けよ」
千津留「……」
岩倉「おれ癌だってさ。癌。が・ん。……鳳、分かるか? 大学の頃のダチの。あいつが、金はいいから手術してやるって言うんだけど、どうする? いや……、」
千津留「……」
岩倉「千津留さ、おれのこと殺してくんないかなぁ」

千津留、笑う。岩倉にクレヨンを握らせて、花の絵を描かせようとする。

岩倉「千津留、もういい。いいって」
千津留「(歌を歌っている)」
岩倉「分かんねえな(抱きしめて)そうだよな。もういいんだ」

岩倉、千津留と一緒に歌を歌う。千津留、一筋の涙。

場転。手術室。心電図の音。岩倉が寝台に眠っている。鳳はメスを握り、笑う。

鳳「そうだ、もういい」

絵を描くようにメスを滑らせる鳳は千津留と同じ絵描き歌を歌う。
心電図の音が岩倉の死を表し、長く音が響く中照明はゆっくりと暗転する。
波の音とともに明転。前場から数年が過ぎた、遠く離れた地の波止場に鳳。
船に乗り込もうとした鳳を、千津留が呼び止める。
以下の千津留の台詞はこれまでと同様にはっきりと発話されず、内容がほとんど分からないことが望ましい。

千津留「鳳、」
鳳「……千津留さん?」
千津留「ずっとお前を探してた。聞かないといけないことがあったから。お兄ちゃんは本当は病気じゃなかったでしょう。嘘の手術をしてわざと殺したでしょう。どうしてそんなことをしたの」
鳳「そっか、もしかしてバレちゃったんだね。足りないくせによくわかったね。えらいね」
千津留「お兄ちゃんを返して」
鳳「(笑う)はぁ?」
千津留「笑わないで!!」
鳳「ほんとに喋れないんだなお前、岩倉もよく何年も世話焼いてたよ。なあ、おまえら、やったの。(千津留答えない)なあ、やったのかって聞いてんの。そんくらいしてやんなきゃ割に合わないよね」

千津留、鳳に飛びつき腹にナイフを刺す。

千津留「やめてよ、なんでそんなこというの。私は、そんなじゃない。ちいさいころからお兄ちゃんのことが好きなの。昔からずっと大好きなの! 一番好きなの! これからもずっと、お兄ちゃんのことだけが好きなの!」

花が降ってくる。

鳳「分からないよ。知恵遅れ。お前には死んでもわからない」

鳳、勝ち誇ったような笑みを浮かべて息絶える。

以下の千津留の台詞は、観客一人ひとりにとって、彼女の言葉を自分だけが聞き取ることができたと思わせるように、

千津留「お兄ちゃん。お願い。もう一度だけ歌って」

(終)

ハヤブサ感想戦(⑥ 相違点をたのしむ)

まずは立夏の感想

 ご覧いただきありがとうございました。原作小説を一度短歌に翻訳してもう一度戯曲に逆翻訳する文筆フォーマット越境バックトランスレーション「ハヤブサ」いかがだったでしょうか。ハヤブサは語感です、特に意味はありません。
 今回、短歌をもらった直後には、作家も作品も分からなかったのです。ただ、すごく耽美だなと思いました。あとは秘密の躑躅は秘密の初恋だなと。そして、あとは「刀」をメスにするぞと決めてプロットを書き始め、そしてプロットが完成したとき私は気が付いたのです。

「あれ、なんか、この戯曲、外科室みたいな話になったな。」
「もしかしてこれ、原作、外科室かもしれない……。」

 そこからは「もっと外科室に寄せた方がいいんじゃないか」という『外科室インサイダー』との内なる闘いです。けれども、初めに思いついたプロットのまま書き切りました。インサイダーの話は感想戦でも語っております。 

 それでは始めましょう、ハヤブサの隠れた醍醐味、いやむしろこここそが「ハヤブサ」。そんなふたりの「外科室」感想戦。回を重ねるごとに文字数増えているぞ感想戦。最後までごゆっくりお楽しみください。

みやりと立夏の感想戦

「脚本」と「戯曲」の違い

立夏「まず、率直な感想としては川端康成感想戦のときにも同じような感想を書いてしまったけれど、

・稽古場で演劇制作をするためのテキスト(この場では便宜上こちらを「脚本」と呼びます)
・テキストを読んでもらう行為のみで成立する演劇上演のためのテキスト(この場では便宜上「戯曲」と呼びます)

この違いに随分苦しみました。」
みやり「なるほど。脚本として書く場合は稽古で補完した方ががいい、望ましいという文脈も往々にしてあるという感じですかね。」
立夏「十年以上劇団で私が書いてきたものは脚本であり、戯曲ではなかったんだな、という気付きがあったんだよね。今回それがとても大きい。具体的に言うと、今回の外科室逆翻訳戯曲では、私がこれまで書いてきた脚本と比較してト書きの量が圧倒的に多いんだよね。『脚本として書く場合は稽古で補完した方ががいい、望ましい』と言ってくれたけど、私の場合は、これまでが上記のように積極的に記載を省略していたわけではなくて、稽古場での制作環境の中で説明できる物事を脚本家の私が無意識に省略していた、あるいは脚本を書く時点でそこまで考えきってはいなかったから書くことができなかった、という方が近い。演劇を作るという制作スケジュールの中で、脚本は時系列的に初期に位置することが多いんだけど、その時点で作品の詳細なムードが決まっていることって、私はほとんどなかったんだよね。だから……、それを読み物としての戯曲として執筆するときに、これまで時系列的にかなり後半に考えていたことを考えて書ききらないといけなくて、それに苦労した。たとえば、」

春の夕暮れ。
河川敷沿いにある古い団地の一室。キッチンと六畳ほどの和室が一部屋の1K。発泡酒の空き缶や捨て忘れたゴミ袋や干したままの洗濯物で埋め尽くされている。
窓の外からは西日が、河沿いの団地が往々にしてそうであるように、長く低く部屋に差し込んでいる。

立夏「これ冒頭のト書きなんだけど、普段だったら、」

夕暮れ、岩倉と千津留の団地

立夏「としか書いてない。」
みやり「夕暮れ、西日でも違いますからね。アパートと団地でも得られるニュアンスは違うかなとおもいました。」
立夏「これらは私は、舞台美術や照明を決める演出家としての自分の領域でやっていた部分なんだよ。あとは、脚本が演技の仕方を規定するようなト書きは私は意図的に避けていたところがあって、それは俳優に任せたいと思っていたんだよね。こちらは無意識ではなく、そのほうがいいと思ってそうしていた。でも、こちらもいざ戯曲となると書かざるを得なくなってくる。たとえば、」

岩倉「(半分ほど食べてから煙草に火をつけて)千津留、」
千津留は絵を描き続けている。岩倉、千津留の服を引っ張り食卓に引き寄せる。
千津留「うえうあ(クレヨンでちゃぶ台に線を引く)」
岩倉、千津留の手を払う。クレヨンが床に転がる。
千津留「んん、あい、う(箸と麺で手遊び)」
岩倉、千津留の手を箸ごとつかみ、無理やり口の中に麺を入れる。
千津留、麺を吐き出す。
岩倉「……(千津留の頭を叩く)」
千津留「(わっと泣く)」

立夏「これまでだったら、これだけになる。」

岩倉「千津留、」
千津留「うえうあ」
岩倉、千津留の手を払う。
千津留「んん、あい、う(箸と麺で手遊び)」
岩倉、麺を食べさせる、千津留吐き出す。
岩倉「……(叩く)」
千津留「(泣く)」

みやり「なるほど」
立夏「省略した部分は、これまで脚本を読んだ演出家と俳優の稽古場仕事に任せていたんだよね。だけど今回の戯曲の場合は、直接読者にテキストが伝達される。だから脚本のとき演出家や俳優が担っていた表現領域を、脚本家としての自分が引き受けざるを得なくなって、ここは書いたほうがいいのか、ここは書かなくてもいいのか、という切り分けが大変難儀しました。でも、ハヤブサ戯曲をやりきった感想としてはね『ああ、普段の脚本もこのくらい書いたほうが絶対作品の品質は上がるな』だったよ。今まで書いてきた自分の脚本が、いかに情報量が少なく、解釈のための手がかりを与えていなかったか。いかに脚本家の脳内にあるものを言語がしていなかったのかを思い知らされたんだよね。」
みやり「これは難しいですよね。小説でもそうですけど、どこまで文字起こしをするのが適切なのかと言う。訓練の仕方も全然想像できませんが。しかし、普段とアプローチの違う書き物だと、出やすいのかな。もう国語オリンピック強化合宿。」

小説は料理、戯曲はレシピ

みやり「言語化できないのですが小説版とはまた違った手触りがありましたね。。。短歌→戯曲ってのが新鮮と言うか、色々考えないと難しいというか、前回までの逆翻訳小説のアプローチでは書けませんでした個人的に。精神的な関係性とか場の雰囲気見たいのは掴めるのですが、それをこう登場人物に台詞として出させるところがやっぱりしんどいところだったかな。」
立夏「戯曲だから、小説に比べると活字の担保する領域が全然違うんだよね。全部を台詞にする必要はないものね。戯曲だから、脚本形式で記述された読み物ではあるものの、その前提であれば、設計図に近いからな。そして、戯曲はその設計図だけで読み物として成立させないとしけない難しさと面白みを感じました。料理にたとえるなら、小説は完成品。戯曲はレシピなのかね。」

俳優を信じる

立夏「それぞれの登場人物の内面まで書いてしまうことも可能だよね。いいよと言っているが、内心とても嫌なのである、みたいな。」
みやり「観客の方々には文字として渡らない情報ですが、演じられる方々には文字として伝えるということですね。」
立夏「その通りです。でもその選択は、あると思うしあっていいと思うんだけど、つくり手としてはそれを選ぶことはないだろうな。小説でも戯曲でも脚本でも、あくまで観測できる事象を書いていたいという思いがある。それをどう解釈するか、あるいはその人の内面がどうであったかは読者または俳優に任せたいんだよね。

みやり「観客の方々には文字として渡らない情報ですが、演じられる方々には文字として伝えるということですね」

立夏「そんな中で、上記に該当するのが千津留の最後のセリフだと思うんだよね。」
みやり「そうですね、『望ましい』というト書きに色々感じました。」
立夏「演じている俳優、あるいは戯曲を読んだ読者にしか、千津留がなんと言っているのかは分からない。だからテキストも全部喃語で書いたって良かったんだよ。俳優に全部任せて。けど、今回は聞き取れる音声ではなくて発話したつもりの元音声として、内容を記載することを選んだ。ラスト以外の喃語も多分千津留はなにかまともなことを言っているんだよね。そっちは書かなかったんだけど。でも多分これを受け取った俳優は、内容を受け取ってラストを『そういっていたかもしれない』と感じられるような芝居をしてくれるだろうと思って書いた。これを実際に発話された音声に合わせて喃語で書いてしまったらいよいよ戯曲だけ読んだ読者はなにも分からない。そういう意味で、仮にこの作品が上演されたときに観客席で上演を見た人と、この戯曲だけを読んだ読者が想像する空想上の上演が、なるべく印象的にギャップが生じないような書き方を意識しました。そしてそれが私なりの戯曲のあり方だと、今は思っています。」

みなさんもどうですかハヤブサ

みやり「ハヤブサ戯曲版どうでしたか?」
立夏「イヤーすごい楽しかった。名詞縛りルールは残したいな。やっぱり品質が上がるよね、このルール。」
みやり「やる度に上達というか練度が上がっていてすごいなとおもいます。国語筋肉をいつも鍛えられているのかな、と。名詞縛りは、短歌の読み手と変換物の書き手を繋げるものですね。選んだ要素についての読み合い、そのものなのか、それとも現れて出てきた名詞なのか、とか。」
立夏「そうなんだよね。縛りとして難度も上げるし、逆翻訳を書く人へのメッセージの役割も果たすようになった。すごくちょうどいい。」
みやり「翻訳の本質みたいなところはあるかもですね。」
立夏「今後のことで言うと、誰か別の人にこれで遊んでもらいたいなとは思っている。」
みやり「わたしはもう二回目からずっと思っていたのですが!笑」
立夏「ああ、そうだっけ? ごめんね。うん、客観的な難度みたいなものを確認してみたくはあるし、それを抜きにして他の人はどんな戦略で作るのか……きっと色んな方法があると思うんだよね。」
みやり「うれしいのですがわたしがスパーリングパートナーを果たせているかいつも不安です。」
立夏「みやりさんの短歌はいつも書きやすい。今回も割とする内容は思いついたし、原作の手触りを短歌翻訳するのがとても得意だね。もう特殊技能だと思う。」
みやり「シンプルに楽しさみたいなところもあって、なんか童話大きなカブを、三十分で短歌にして1000文字以内とかならライトなのもできそう。」

外科室インサイダーとの闘い

立夏「外科室短歌はどうやって書きましたか?」
みやり「これが最後に残った四首で、

刀に微笑 一言も無く躑躅散り  その呼吸(いき)姿 忘れぬ声よ刀に微笑 一言も無き躑躅散る  その呼吸(いき)姿 忘れぬ声よ
刀に微笑 一つ秘密の躑躅散る  その呼吸(いき)姿 忘れぬ声よ
刀に微笑 雲上に咲く躑躅散る その呼吸(いき)姿 忘れぬ

ここから選びました。相当悩んだのですが、一つ秘密の躑躅散るを選択しました。まず語感です。口当たり良いなと。あとなんか他のやつはちょっと硬くなってしまうかなと。刀という名詞を選んでいるので、語感が硬いと時代が昔のお侍さんまで行ってしまうのは嫌だなと。一つ秘密のという選択だと刀と微笑に なんでしょうね。恋慕感が出るのかな、この辺は感覚になってしまうのですが、柔らかさを与えてくれるのかなと。そんな感じで今回は作ってみました。あ、あと今回は(立夏にすでに)読まれている作品を狙いましたね。読了済みだとどういう書き手体験になるのかなと。(選定の理由としては)まず今回は前回の老人と海変換小説で書かれた作品を再読したところからです。続きという訳では無いのですが、なんだろう。あの寂寥感みたいな、独特の感じ。あのあたりがやっぱり選定の中に混じっていたと振り返って思います。候補作品は芥川龍之介の『トロッコ』か泉鏡花の『外科室』でした。短歌の分析やプロット作り『外科室では?』の気づきとそのインサイダーとの戦いなどの設計周りお伺いできれば。」
立夏「それはすごく今考えててね。

短歌読む(この時点で外科室だとは気付いてない)

プロット書き終わる

自分のプロット見て)あれ? これ外科室じゃね?

ほぼ確認に変わったがそれ以降は外科室に寄せずに元のプロットで書ききる

と言うふうにやったので外科室に意図的に寄せた要素は意識的にはないはず。だ、これがハヤブサとして、逆翻訳という作業に対して反してなかったのかと言うのは今もとても疑問。ただ、外科室みたいな作品を意識的に書くなら外科室がもうあります、と信じて、短歌を純粋に読んで感じたもので考えたプロットに対して正確に書かせてもらったという感じ。だから外科室に寄せそうになる外科室インサイダーには真っ向から抗った形だよね。」
みやり「なるほど。なんかこう、不思議なもので元作品に気づいた方が辛いのではという笑」
立夏「そうなんだよね!笑 前回『老人と海』は短歌読解(=プロット作成前)の時点で気付いたんだけど、幸い原作を知らなかったから全力で妄想寄せができたんだよね。」

立夏「今回もプロット書いてから気がついたから原作を無視することができた。もし今後短歌を読解の時点で作品に気付いてしまって、しかも内容を知っていた場合、自分はどう振る舞うんだろ? てのがすごく不安だよ。知らないままでいたいからもっと私が知らなそうな作品を選んでください!」
みやり「危ないところでしたね笑。試合前に相手ボクサーが怪我してるの知った選手みたいだ。」
立夏「あぶなかったー! 気づく前に殴っといてよかった! ってなってる。」

ハヤブサ劇場!?

みやり「小説の感想としては、今回も名詞を綺麗に拾っていただいたな、と思いました。個人的には (短歌の)刀、秘密あたりが鳳さんで、微笑、躑躅あたりが千津留さんかなと。下の句は全員かな。岩倉はこう、炙り出されてくる感じですね。三人の中で。ルール確認の段階で何人芝居縛りをどうするかみたいな会話があったと思うのですが、三人にした理由など気になっております。」
立夏「戯曲を描いてる時の経緯で言うと、プロット初期では二人芝居だったんだよね。兄が妹を愛していて、あるいは愛し合っていて、妹が病気なので手術をしたがうまくいかなかった。という話にしようと思っていた。つまり岩倉と鳳がひとりの登場人物だったんだよね。でも、もうすこし人間関係的に複雑な話にしたくて。あとは、作品的カタルシスみたいなものをどこにもっていくか、というときに、発話できない人物にラストのセリフをどうしても言ってもらいたくなって。そうすると、兄弟の関係を死が分かつ以上、もうひとり第三者が欲しくなり、死を与える役を鳳に託しての3人芝居としました。でも私としては主役は岩倉です。そんな岩倉のセリフが死ぬほど少ないことは1番気に入っています。そのあと、妹は病気だが、自分にも不治の病が見つかったため、ひとりで生きていけない妹を兄が殺す、という案もありました。でも、どうしても自分は妹に生きていてもらいたくなって。」
みやり「これはちょっと上演されたら見てみたいですね。」
立夏「今回のやつはお互いのを読むんだったよね? すごく楽しみにしています。これもう一回くらいやったら小説版と合わせてハヤブサ演劇・朗読できますよ。」

次どうする?

みやり「数年後のルールが英訳とかになってそうで怖いですね。来年も機会があれば頑張ります。」
立夏「いやいや、来年と言わずまたやりましょう! 次は元作品を法律とかにしてみませんか!?」
みやり「小説なら。。。笑」

ありがとうございました。

「原作小説選/短歌作」と「バックトランスレーション戯曲作」の役割を入れ替えたバージョンがみやりさんのnoteに掲載されています。そちらもよろしければ併せてご覧ください。



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