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小説

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小説と言えるものを、企画を問わずに全てまとめたものです。
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#大学生

ささど「花火とその余熱」前編

ささど「花火とその余熱」前編

「今年もたのしかったね、塔也くん」
 関野遥が僕に笑みを向けながらそう言った。余裕を湛えた、世界の全てにーー彼女の認識する世界そのものに――慈愛を注ぐような、そのような笑顔だった。慎ましい美しさが遥を包み込んでいる。しかし、その姿は僕を幸せにはしてくれない。
 大晦日の午後一一時三〇分、僕と遥は山奥の国道上にいる。道路自体は綺麗に舗装されているが、ガードレールを境界として、その先には暗い山肌が広が

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虫我「サンタ証明の途中式」後編

虫我「サンタ証明の途中式」後編

 小学生の僕が、僕を覗き込んでいた。ポンポンが付いた青いニット帽が、白く染まっている。
「つかまれよ」
 そう差し出された小さな手を握る。引っ張られる力は、その大きさと見合わないぐらい強かった。
 そのまま小学生の僕は、白い世界に向かって走り出す。消えゆくように、背中が白く薄くなっていく。
「おい、どこに行くんだよ‼」
 見失わないように必死についていく。叫んだ声も、吹雪で掻き消えそうだった。
 

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虫我「サンタ証明の途中式」中編

虫我「サンタ証明の途中式」中編

 外は案の定の暗闇だったが、不思議と自分の身体とその前方ははっきりと見通せた。
「では、お気をつけて」
 運転手は扉の前でお辞儀をすると、再び戻ってバスのエンジンをかけた。表記は『夢行き』から『回想中』に変わっている。
そうして過ぎ去っていくバスを見えなくなるまで見送ったあと、僕はあてもなく歩き出した。
歩き出して、少し止まって、また歩いた。
ずっと、暗闇。でも、少し前だけは見えている。
「……な

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