通り過ぎた夢
なんとも曖昧な、と人は笑うだろうか。
私には仕事上のなりたい姿があった。
とても正式な場では言えるようなものではなく、友人にも恐らく言ったことはない。
私のありたい姿。それは、
スーツ姿でヒール靴を履き、ノートPC を持って空港を颯爽と闊歩するキャリアウーマン
を夢見ていたのだ。
※できれば海外出張で世界を股にかけ英語でビジネスコミュニケーションをしてくる、というオマケ付き。
え、
そもそも営業職でもないし商社勤めでもないのにどうやって?(ゴリゴリのエンジニア職だった)
当時の業務からはかけ離れてはいたが、どんなキャリアを積みたい?どんな姿になっていたい?と言われた時、私の脳内にぼんやり浮かぶのはいつも、出張に向けて空港をカッコ良く歩く姿だった。
※なんかのドラマに影響されたのだろうか。
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そんな思いを抱いてから、10 年近く経った今。
業界は変わっていないが、1人で出張をする機会には何度か恵まれた。
空港で PC は開かない。PC が必要となる準備は事前にしてあるし、メールチェック等はスマホで十分だし、どちらかというと PC を広げた「作業」ではなく、外を見ながらボンヤリ現地でのタスクを考える「思考」に時間を費やしたいのだ。
スーツ & ヒール靴は、実は初回の出張ではやっていたが、普段履き慣れないヒールに脚が悲鳴をあげ、帰路の空港でペタンコ靴を探し回り、靴擦れの絆創膏をつけ続け、だいぶしんどい思いをした。
直近の出張ではついにスニーカーデビューを果たした。元気に歩き回れて最高だった。
出張帰りの夜便で、窓の外の景色を眺めながら、隣のスーツを着た女性がフライト中ずっとノートPCを開いて資料を修正していることに気付く。
その姿にかつての自分の夢見た姿を重ね、そしてその夢は通り過ぎたんだなと急に実感した。
歳を重ねたからなのか、産後からなのか定かではないが、30 台後半から、明らかに三半規管が弱くなり、乗り物酔いもしやすくなったし、閉所恐怖症気味も相まって、長時間の移動が苦痛になってきた。
今の私には、2 時間以内の国内線出張で十分以前の自分の夢を投影できており、10 時間以上の海外出張は腰が引ける。
子育て中の今は、子供との時間も含めて優先度を判断していかないといけない。
以前キラキラと思い描き憧れていた夢を乗り越え、異なるステージになったんだなと一抹の寂しさと感慨深さを持ちつつ。
人それぞれの轍があるのは当然だ。目の前の現実と、未来と明日を見つめるのみ。