一ノ瀬 織聖

いちのせ りせ。マイペースに小説書いてます。 日々の戯れ事ツイッターはこちら→ @re…

一ノ瀬 織聖

いちのせ りせ。マイペースに小説書いてます。 日々の戯れ事ツイッターはこちら→ @reira_karen

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記事一覧

Butterfly Effect 9

 あれから幾月経っただろう。 アリスは紫色のバタフライと共に消えたまま、僕は次第に一人の生活に慣れていった。  好きな時間に帰ってきて、好きなものを食べて、 好き…

Butterfly Effect 8

 蝋燭のついていない燭台。 冷え切った暖炉。 閉め切られ真っ暗なままの室内。  アリスの姿はそこには無かった。それどころか、帰って来た形跡すら無かった。僕はどうす…

Butterfly Effect 7

 機械仕掛けのバタフライ、アリス、雑貨屋のおじさん、僕の順で、僕らは森を抜ける秘密の抜け道を通っていた。 はっきり言って、僕は不快だった。 だって、アリスは僕の気…

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Butterfly Effect 6

「これは?」_ゼンマイ式クロニクル 「じゃあ、こっちは?」_真珠入りハマグリのワイン漬け 「あぁ、君。今、不味そうだと思っただろう。いやいや、誤魔化しても無駄だ…

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Butterfly Effect 5

 『七色きのこのクリームスープ。熟成子羊のブリー・チーズ。 胚芽入り自家製パン。毒入り林檎のタルトタタンに食後の珈琲』 アームチェアーに座ってくつろぎながら、僕…

Butterfly Effect 4

 青空に似合うのは、アリスの方。 そう言ったのは、リスのカンジンスキーさんだ。 彼は煙管の煙を吐き出しながら、僕にそう呟いた。 今、アリスは青空の下で花摘みに勤し…

Butterfly Effect 3

 あの日は何気なくやってきた。 何かが起こる予兆なんてこれっぽっちもなくて。 (この村は平和である事だけが取り柄だ。) だから、僕はその知らせにも、あぁ、そうか、…

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Butterfly Effect 2

 連日までの雨が嘘のように、澄み切った青空がどこまでも果てしなく続いていた。 窓硝子越しに見上げた空は、あの日と似ている。 ただ、それだけが救いだった。  マグカ…

Butterfly Effect 1

 僕らは常に一緒にいた。 まるで一時でも会えなかったら、 壊れてしまう恋人のように。 同じ時間を共有し、同じ思考回路で、同じ空間に 生き続ける。 それが当たり前…

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アレグロ・バルバロ 15

 繰り返しを繰り返す小さな命。 そのどれもが美しく儚かった。 いや、違う。 儚いからこそ、美しいのだ。  わざと波打ち際を歩くハナの裸足の足下を、小さな泡がぶつかっ…

アレグロ・バルバロ 14

 翼をもう一度、生き返らせる? そんな方法、知る訳ないじゃない。 道行く人々皆に聞いてみたが、皆、口を揃えてこう答えた。  森深くで出会った少女達も。 同じ服を着…

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アレグロ・バルバロ 13

それからの日々は地獄のようだった。 アレグロは翼を失ったことを気にしていない振りをし続けた。 そんな事は無理な癖に。 そして、一番最悪的だったのは、それをさせてい…

アレグロ・バルバロ12

 今、思えばきっかけはいつだって雨だった。 考えれば、それは簡単なことだ。 蛇の鱗の女とアレグロは度々会い、壁の向こうへの飛行について相談していたのだから。そこ…

アレグロ・バルバロ11

 私達はどこで間違えてしまったのだろうか。 最後に飛んでみようなんて、そんな馬鹿なことを考えてしまったから? 『貴方は貴方のままでとても綺麗よ。だから、この先の…

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アレグロ・バルバロ 10

『ねぇ、ハナ。私、知っているのよ。 貴方が飛べない事を。』  見る事が叶わないハナの為に、夜空の星を写し取った布を、天上に這わせてくれたのは、アレグロだった。 彼…

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アレグロ・バルバロ 9

 月日は過ぎ、アマービレがこの地に来てから早くも半年が過ぎようとしていた。  ハナの怪我は、順調に回復をしていき、日常生活においては、特段の支障も無い程にまでな…

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Butterfly Effect 9

 あれから幾月経っただろう。
アリスは紫色のバタフライと共に消えたまま、僕は次第に一人の生活に慣れていった。
 好きな時間に帰ってきて、好きなものを食べて、
好きなところに行く。
皆がアリスではなく、僕を見てくれる。
僕は満足していた。
・・・・・・満足していたはずだった。

 蜜色の満月は、本当のことをそっと教えてくれる。
僕は独りでいることを紛らわす為に、双子の金魚を飼い始めたこと。
その金魚

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Butterfly Effect 8

 蝋燭のついていない燭台。
冷え切った暖炉。
閉め切られ真っ暗なままの室内。
 アリスの姿はそこには無かった。それどころか、帰って来た形跡すら無かった。僕はどうすることも出来ずにただ、冷え切った室内で立ち尽くした。

 月の光は静かにこの部屋の内側を映し出し、
床に一つきりの影を描き出す。

 夜遅くになり、村中の人達が灯りを手に、森中を探し回ったけれど、結局彼女を見つけることはできなかった。

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Butterfly Effect 7

 機械仕掛けのバタフライ、アリス、雑貨屋のおじさん、僕の順で、僕らは森を抜ける秘密の抜け道を通っていた。
はっきり言って、僕は不快だった。
だって、アリスは僕の気持ちを無視して、自分の欲望だけを優先したのだから。
 アリスに負ける運命かぁ。これも無駄な抵抗なのだろうか。

 おじさんの背を追いながら、だらだらと歩く僕は、時折遅れがちになって、その度にちらりと心を霞むのは、このまま何処かへ行ってしま

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Butterfly Effect 6

「これは?」_ゼンマイ式クロニクル
「じゃあ、こっちは?」_真珠入りハマグリのワイン漬け

「あぁ、君。今、不味そうだと思っただろう。いやいや、誤魔化しても無駄だ。ちゃんと顔に書いてある。
物は見かけによらないぞ。騙されたと思って、一つ食べてみるといい。これが、意外に美味しいんだよ。
 ふむ、そうか。試食はいらないと。それは、残念だ。」
僕が丁寧に辞退をすると、店主のおじさんは、残念そうに、茶色に

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Butterfly   Effect 5

Butterfly Effect 5

 『七色きのこのクリームスープ。熟成子羊のブリー・チーズ。
胚芽入り自家製パン。毒入り林檎のタルトタタンに食後の珈琲』

アームチェアーに座ってくつろぎながら、僕ら二人は明日をどう過ごすかについて議論をする。
右に座るアリスの提案は、町に新しく出来た雑貨屋を覗く。
僕の提案は、時忘れの森深くの小川で過ごす。

 采配はどちら側に星が流れるか。
僕らは黙って、夜空を見上げ運命の時を待つ。

 星が流

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Butterfly Effect 4

 青空に似合うのは、アリスの方。
そう言ったのは、リスのカンジンスキーさんだ。
彼は煙管の煙を吐き出しながら、僕にそう呟いた。
今、アリスは青空の下で花摘みに勤しんでいる。
 カンジンスキーさんは、先月、どんぐりの実を喉に詰まらせて
亡くなった。享年12歳。大往生だ。お葬式の日、僕は涙一つ流すことができなかった。それが唯一の心残り。

 アリスの青いドレスの裾が僕の目に眩しく映る。
僕には一体何が

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Butterfly   Effect 3

Butterfly Effect 3

 あの日は何気なくやってきた。
何かが起こる予兆なんてこれっぽっちもなくて。
(この村は平和である事だけが取り柄だ。)
だから、僕はその知らせにも、あぁ、そうか、ぐらいにしか
興味を示さなかった。

 町に移動式サァカスが来た。
いつもとは違うサァカス集団だけれど、そこに大差はないよ。
そうだね、パレェドの日ぐらいは、見に行こうか。

 僕とアリスはそれだけでこの会話を終わりにした。
今日の朝食で

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Butterfly   Effect 2

Butterfly Effect 2

 連日までの雨が嘘のように、澄み切った青空がどこまでも果てしなく続いていた。
窓硝子越しに見上げた空は、あの日と似ている。
ただ、それだけが救いだった。

 マグカップ片手に僕は、射し込む光が床に映し出す影を眺めていた。
どうして、影は一つだけなのだろう。
さっきから考えるのはその事ばかり。
その理由を僕は知っているはずなのに、頭がぼうっとして、よく思い出せない。

 そう、あの日は青空が綺麗だっ

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Butterfly Effect 1

Butterfly Effect 1

 僕らは常に一緒にいた。

まるで一時でも会えなかったら、

壊れてしまう恋人のように。

同じ時間を共有し、同じ思考回路で、同じ空間に

生き続ける。

それが当たり前。少なくとも僕にとっては。

ねぇ、アリス。

君はいつから僕と違う思考回路を持ったのかい?

僕が永遠に掴むことのできなかった羽根で、

空高く飛んでいった・・・・・・

君へ捧げる。

アレグロ・バルバロ 15

 繰り返しを繰り返す小さな命。
そのどれもが美しく儚かった。
いや、違う。
儚いからこそ、美しいのだ。
 わざと波打ち際を歩くハナの裸足の足下を、小さな泡がぶつかっては消えていった。

 「君かい?翼を生き返らせる方法を探しているのは?」
その男はどこまでも続く夜の海岸で、突然声をかけてきた。
黒づくめの男に、ハナは頷き返した。すると、男は笑いながら彼女に答えた。
「そんな事は、簡単さ。君は翼を持

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アレグロ・バルバロ 14

アレグロ・バルバロ 14

 翼をもう一度、生き返らせる?
そんな方法、知る訳ないじゃない。
道行く人々皆に聞いてみたが、皆、口を揃えてこう答えた。

 森深くで出会った少女達も。
同じ服を着て、そっくりの笑みを浮かべる少女達の胸元で、結われた蝶々結びが、風で一斉に揺れる。手を繋いだ彼女達は、楽しそうな声をあげながら、尋ねたハナの周りをぐるりと取り囲んだ。
楽しそうに弧を描きながら、右に左にステップを刻む彼女達を円の中心から

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アレグロ・バルバロ 13

アレグロ・バルバロ 13

それからの日々は地獄のようだった。

アレグロは翼を失ったことを気にしていない振りをし続けた。
そんな事は無理な癖に。
そして、一番最悪的だったのは、それをさせているのが自分だという事だった。
あれから、彼はまるで何もかも諦めてしまったように、悲しそうに笑う。
その笑顔がハナは、大嫌いだった。
修復できない事を見せつけられているようだった。

ある日、アレグロはハナに話しかけてくれた。あの大嫌いな

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アレグロ・バルバロ12

アレグロ・バルバロ12

 今、思えばきっかけはいつだって雨だった。

考えれば、それは簡単なことだ。
蛇の鱗の女とアレグロは度々会い、壁の向こうへの飛行について相談していたのだから。そこにハナの話が出てきたとしても、何も驚かないだろう。
蛇の鱗の女がうっかり、ハナの秘密を話してしまったとしても。
誰も驚かないだろう。少し考えれば分かったはずだった。

 朝から続く偏頭痛。自己主張を続けるかのように足の傷が、じくじくと痛み

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アレグロ・バルバロ11

アレグロ・バルバロ11

 私達はどこで間違えてしまったのだろうか。

最後に飛んでみようなんて、そんな馬鹿なことを考えてしまったから?

『貴方は貴方のままでとても綺麗よ。だから、この先の未来を見つめて。』
そう話してくれた蛇の鱗を持つ女に、口留めするのを忘れたから?

彼女は、続けて言った。
『皆、何かを失って、その代わりに何かを得て。そうやって、後悔と懺悔と少しの希望を抱きつつ生きているのよ。』
でも、私は知っている

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アレグロ・バルバロ 10

アレグロ・バルバロ 10

『ねぇ、ハナ。私、知っているのよ。
貴方が飛べない事を。』

 見る事が叶わないハナの為に、夜空の星を写し取った布を、天上に這わせてくれたのは、アレグロだった。
彼は時折、ハナの部屋を訪れては、天空までの飛行プランについて、説明をしてくれる。彼の話によれば、太陽の影響を考慮して、昼間に飛びたつ事から、夜の飛行へと変更をしたらしい。
 昔、太陽に憧れて太陽まで飛んでみた人がいるんだってさ。
彼は、そ

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アレグロ・バルバロ 9

 月日は過ぎ、アマービレがこの地に来てから早くも半年が過ぎようとしていた。

 ハナの怪我は、順調に回復をしていき、日常生活においては、特段の支障も無い程にまでなっていた。相変わらず、飛ぶことは出来ないので、配達の仕事はアレグロに任せ、ハナはアマービレの付き人の仕事に勤しむ毎日を送っている。
 アマービレは、ここの所、彼女と一緒に堕ちた馬車へと足繁く通っていた。自分の国に向けて、SOSを出すためだ

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