Butterfly Effect 7

 機械仕掛けのバタフライ、アリス、雑貨屋のおじさん、僕の順で、僕らは森を抜ける秘密の抜け道を通っていた。
はっきり言って、僕は不快だった。
だって、アリスは僕の気持ちを無視して、自分の欲望だけを優先したのだから。
 アリスに負ける運命かぁ。これも無駄な抵抗なのだろうか。

 おじさんの背を追いながら、だらだらと歩く僕は、時折遅れがちになって、その度にちらりと心を霞むのは、このまま何処かへ行ってしまおうかという気持ち。
だって、アリスは僕のことなんか、ちっとも気に掛けずに、おじさんと楽し気に話ながらどんどん先に進んでしまうし、きっと、僕が居なくなったって、誰も気が付かないだろう。
 虚無感が僕の全身をどんどん取り込んでいく。
二人だけの秘密が壊れた瞬間から、襲ってきたこの気持ち。それは、形あるものが壊れた瞬間の哀しみによく似ていた。
急に啼き出した姿の見えない鳥の囀り。
木々の間を吹き抜けていく冷たい風。
 真上に輝いていた太陽は、いつの間にか傾き始め、その傾斜具合が僕の心配を増幅させた。

 小川の水は冷たい。
頭上に輝く月は、不安そうに眉を寄せる僕の顔を水面に映しだす。
揺らめくその姿を見ていると、吸い込まれそうになる。それは、僕であって僕ではない何かだ。
 雑貨屋のおじさんもアリスも、機械仕掛けのバタフライも、いつの間にか僕の視界から消えていた。仏頂面の僕は時忘れの森に一人取り残され、少し思案した挙句、今日僕がしたかったことをすることに決めたのだった。

 濡れた手をズボンで拭うと、家への帰り道を辿る。
夜の森を一人で歩くのは初めてだった。
何度も通い馴れた道でさえ、闇が支配する空間では、全く別のものになって、僕を戸惑わせる。
 人口の灯りがこんなにも瞳に優しく映ったのは、生まれて初めてだった。
アリスは無事に帰れただろうか?
僕はそんな不安を取り除くために、夕食を前にテーブルに頬杖をつき、僕を待つアリスを想像した。
「今日は何を話そう」
「明日は何をしよう」
蜜色の三日月が僕の帰り道を照らしていた。


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