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クルーで白熊ぽん【ショートショート】

テレビ見て何とか心配まぎらわせ|セブンソードくん


部屋に音が何一つないと、なんだかざわざわして落ち着かなくなる。

昨日嫌だったこと、この前言われた何気ないチクリとした言葉。それらが無防備な私に再び襲いかかってくるようで。

何を見るわけでもなく、テレビをつける。
流れてくる雑音、意味なんてわからないくらいの音量。誰かがそばにいる気配が充満して、私はホッと胸を撫で下ろした。



大掃除見つけたお習字くまの文字|しろくまきりんさん

年末の大掃除をしていたら、押入れの奥からくしゃくしゃになった習字の紙が出てきた。大きく書かれた「くま」の二文字。この時は、くまさんが大好きだったのにな。私はその紙をくしゃくしゃに丸めると、無造作にゴミ袋に投げ入れた。



物価高必然的にシンプルリスト|南かのんさん

普段まったくやらないのに、いざ掃除を始めてみるとなかなか楽しい。なんで取っておいたのかよくわからないもの名ばかりの思い出の品でたちまちゴミ袋が溢れてしまう。あーあ、きっとまた母に「またこんなに一気に出して!日頃から片せばいいのに」とか言われるんだろうな。でもさ、一気に出した後にガラガラになった部屋を眺めるのが好きなんだ。ほんと何も分かってないよね。



あー言えばこー言う吾子に論破され|ふぅ。さん

母のやることにはいちいち反抗してしまいがちだ。何かにつけて私のやることに口を挟んでくる母にイライラして、そしてそんな自分にも余計にイライラする。ちょっと突けば論破できてしまう、母のこだわり。うっとうしくて、口を開くのも億劫になる。けど、そんな時の自分の顔がブサイクなのも、ちゃんと知ってる。


一発の銃弾たまが揺るがす民主主義|てまりさん

たった一つの言葉が、引き金になることもある。

「うっせーよっ!」とつい大声を出した次の瞬間、頬にぴりっと痛みが走った。母が私の頬を思い切り引っ叩いたのだ。いや、頬は真っ赤にならなかったので、加減はされてるのかもしれない。だけど私の中で何かが切れるのには、それで十分。泣かない。絶対泣いてなんてやるもんか。私は着替えや財布を乱暴にリュックに詰め込むと、家を出た。



冬北斗三等星の自尊心|雪ん子⛄️さん

どれだけ厚着をしたって、冬の夜は芯から体が冷えていく。時刻はもう深夜近く、通りを歩いている人影はなく空には星が瞬いてるだけだった。

どれがオリオン座なのか、そもそも冬の星座とか、まったくわからないし、そんなのどうでもいい。まだ灯っている家々の灯りが、見えるかどうかギリギリの三等星の光を遮っている。

そこに確かにあるはずなのに、見えない星。私と同じだね。でも、ちゃんとここにいるんだけどね。



🌟  🌟  🌟

軒氷柱母という枷ぶん投げて|これでも母さん

ー母として、妻として生きてきたこの数十年。

手入れをしなくなった肌はシミだらけ。手はハンドクリームをいくら塗ったところですぐカサカサになっておばあちゃんみたい。服だって動きやすいユニクロの服ばかりで、オシャレなんてとっくに忘れてしまった。

「私」という人間は私を失い、こうして埋もれていってしまうのだろうか。良かれと思って娘のために放った言葉も、娘の心に何一つ届かないではないか。

空っぽになった娘の部屋にいくと、服やバッグが無造作に投げ捨てられていた。私はそれらを力の限りぶん投げて、喚いて、泣き散らした。持ち主がここに帰ってくるのかもわからない、かわいそうな物たち。なんてかわいそう。私もきっとかわいそう。もうこんな私、どこかに捨ててしまいたい。


囚われて予め失われし六花|十六夜さん

ふらふらとコートも着ずに外へ出る。決して多くはない星たちが揺れているように見えた。この暗い空の向こうには無数の星が煌めいているはずなのに、見えるのはたった3つ、いや5つほど。赤いベテルギウス、シリウス、プロキオンの冬の大三角が大きな口を開けている。

見上げているうちに、何やら白いものがちらついてきた。雪だ。コートを着てこなかったことを急に思い出して身震いした。触れたかもわからないほどの一瞬で消える雪の花。いっそこのまま、遠くまでいってしまおうか。



すると、そこに黒い人影が姿を現した。

ビクッとすると、大きなリュックを背負った娘の姿があった。どうやら終電がもう出てしまっていたらしい。娘は気まずそうに、

「べつに、散歩していただけだから」

というとぷいっと家に入っていった。



あらいやだ、お家用のスヌードだわ|とのむらのりこさん

ふと我に返り自分の格好を見下ろすと、家用の使い古したスヌードを付けたままだった。やだ、忘れてたわ。慌てて取ろうとして、やめた。

なんてことない、日常のほんの一コマ。家族の縁はそう簡単に切れるものではないらしい。お互い、果たして本当にどこかへいく勇気などあったのか。それくらい培ってきたものがお互いの胸の中にあることに気づいて少し安堵し、私は家に入った。




きっぱりと雲が途切れる場所があり あの下は違う風が吹くんだ|まど夏さん

きっと遠くに行ったって、私は私のままだ。
捉われてるのは、他の誰でもない自分自身。
私が変わらなければどうしようもない。

あの雲が形を変え風を変え流れていって順応するように、私も流されるまま生きるのではなく、自分が何をしたいのか、何が出来るのかを見極めなくては。



冬林檎八等分のニの甘さ|のんちゃさん

翌日の朝、デザートに向いた冬林檎。
艶々としたそれを切って一口食べると、思っていたほど甘くない。むしろまだ酸味があって酸っぱく感じた。

見た目は美しく熟しているのにまだ酸っぱい林檎は、娘そのもののよう。娘も今は粗ばかり見えてしまうけれど、もう口を出さずとも自らの経験で成長していくのだろう。

私はゴミ袋に捨てられていた習字の紙を取り出し、丁寧に皺を伸ばすと和室の壁に張った。



枝先につぼみ膨らみ春を待つしづごころなく雪を憂ひて|すうぷさん

主人と娘を送り出して家を出ると、
隣の庭の蝋梅が黄色いつぼみを膨らませている。

透けた花弁が真っ青な冬空によく映えて美しく、つい足を止めてじっと見つめた。まだ雪の積もる時期はこれからなのに、こうして春が来ることを告げてくれる自然の生命力。その仄かな香りが安らぎを与えてくれる。


さざんかの溢るる白に猫潜む|かよんさん

その隣で、白いサザンカの花びらが地面に舞い散っている。終わる時って、いつもどこかちょっと切ない。

その葉の隙間に気配を感じて覗き込むと、茶色い猫と目が合った。警戒心をあらわにした鋭い目がじっと見つめてきたので、ふっと目をそらして腰を上げる。猫は目をじっと見てると敵だと思うらしい。



癒えぬ傷なお生きてゐる日向ぼこ|rira

猫にとって、花びらが散るとか終わるとかなんてきっとどうでも良いこと。猫も、サザンカも、私たちも、ただ懸命に今を生きてるだけなのだ。悩み苦しむからこそ、私たちはどれだけ失敗してたって傷を抱えた分だけ優しくなりながら、また歩き出せるはずだから。


辛いこと楽しいこともあるけれど元気があるからなんでもできる|PJさん

辛いことも楽しいこともすべて、私が元気だから感じること。年老いたり病気になったりして自由が効かなくなってしまえば、目の前のことの何割も楽しめなくなるかもしれない。それなら私は、今を精一杯楽しみたい。まずは、娘がとか、旦那がとかをいったん忘れて、私が何をしたいかを探すこと。きっとすべてはそこから始まる。




🌟 🐻‍❄️   🐾 🌟 🐻‍❄️   🐾 🌟

※セブンソードくんは白熊杯クルー・とのむらのりこさんの息子さんです。(まだのりこさんの投句がないうちに書いていたので、セブンソードくんの句を代わりに入れてました🙏)

これがラストのぽんになります。


投句した方も、してない方も
白熊杯スタッフの皆さまへ。

楽しいときはより楽しく、時にふざけながら
ちょっとしんどい日には、そっと見守りながら
やるときは真剣に
日々楽しく運営できるのは
皆さまのおかげです。

クルー同士でも、あの人はこの役割だからやってもらって当たり前、なんて世の中そう甘くありません。

忙しい隙間の時間を縫って、平気な顔でやってるクルーもいるかもしれない。本当はつらくてしんどい人もいるかもしれない。だから、失敗したって笑いに変えてお互い楽しく。そしてお互いへの感謝の気持ち、時にはリスペクトを忘れないようにしたい。


というわけで、

感謝の気持ちを込めて(*ᴗˬᴗ)⁾⁾



🌟白熊ぽんは31日まで受付中🐻‍❄️🐾

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