クリストファー・ノーランからのメッセージ ~『落下』と『昇華』~
ついに公開された最新作【TENET】
コロナ禍にも関わらず、アメリカはもちろん、日本でも大ヒットとなっている。
劇中に登場する順行、逆光の世界観を専門家が詳細に解説してくれているパンフレットは、この映画をより深く理解する手助けをしてくれること間違いナシな1冊だ。
映画館によっては完売している所も少ないくないようで、鑑賞後に売ってるのを見つけた場合、すぐにでも購入をオススメする。
【TENET】に関して、ストーリーの解説やレビューを書こうと思ったが、公開から1ヶ月が経とうとしている今、既にそういった投稿は山ほど有り、僕が書く必要もないな、と感じた。
そこで今回は「ノーランはTENETで何を伝えたかったか?」をテーマに、過去作品から一貫して彼が観客へ伝えようとしてきたメッセージを、『落下』と『昇華』というキーワードに沿って、紐解いていこうと思う。
ノーラン作品に度々登場する『落下』シーン
ここで、1つ思い返してみて欲しい。
彼の作品には、キャラクターが『落下』するシーンが度々登場するのだ。
製作された順に、それぞれの作品の該当シーンを挙げてみよう。
⦿ 井戸へ落下したことがバットマンへ変身するきっかけとなる(バットマン ビギンズ)
⦿ 瞬間移動の副作用として、舞台下の水槽へ落下するアンジャーの複製(プレステージ)
⦿ レイチェルが死んだ事でトゥーフェイスとなり、廃墟で落下して死ぬハービー(ダークナイト)
⦿ ホテルの部屋から落下して死ぬモル(インセプション)
⦿ 夢から醒める合図は『キック』という名の落下(インセプション)
⦿ ベインの育った奈落から脱出する為、何度も壁をよじ登っては落下するブルース(ダークナイト ライジング)
⦿ ガルガンチュアへ向かい、五次元空間まで落下し続けるクーパー(インターステラー)
⦿ セイターを撃った後、船から海へダイブ(落下)するキャット(テネット)
パッと思い付くだけでも、これだけあるのだ。
(注:他に『落下』シーン思い付いたら教えてください🙏🏻)
最も重要な作品【インセプション】
では、クリストファー・ノーラン監督にとって、『落下』は何を意味するのか?
登場キャラクターの落下シーンが多い【インセプション】が、彼のメッセージ性を色濃く映し出している。
冒頭、ヘリポートでサイトーから「Inception」を依頼されるシーン
成功の暁には、コブがアメリカへ入国できる手続きの条件が提示される。
「そんなことが可能なのか?保証はあるのか?」と疑うコブ
「保証はない。だが、約束はする」と答えるサイトー
日本語字幕では何気ない会話に見えるが、ここでサイトーが放つ台詞がかなり重要だ。
『Leap of faith』
”Leap of face” (リープ・オブ・フェイス)
Googleで検索すると「根拠のない信頼」「やみくも的な信仰」と出てくるこの言葉、実は劇中で3回登場する。
⦿ ホテルの窓から一緒に飛び降りようとコブを誘う時
⦿ 虚無へ落ちたサイトーを現実へ帰ろうと説得する時
同一作品の中で何度も登場させたこの言葉こそ、クリストファー・ノーラン監督の信念であり、観客へ強く伝えたいメッセージなのだ。
つまり『今いる自分の世界から、道の新しい世界へ飛び込む』イメージ = 『落下』という表現なのである。
『Leap of faith』という言葉だけに着目して、インセプションを端的に説明してみよう。
目の前で最愛の妻が自殺するを目の当たりにした時にかけられた言葉を、サイトーからも言われ、それをきっかけに「Inception」に挑戦する。
夢の中での壮大な旅の末、トラウマを克服したコブは、最下層「虚無」への落下を経て、次は自らが妻のその言葉を発し、サイトーを助ける。
夢の深くへ入るのも落下、夢から醒めるきっかけ(キック)も落下
『インセプション』という作品は、『落下』と共に成長するコブの物語と言えよう。
『落下』と『昇華』
このように、クリストファー・ノーラン監督の作品では、キャラクターが成長したり、それまで居た枠の中から外へ出る、自身の殻を破る、壁を打ち破るなどのメタファーとして、『落下』の表現が使われるのだ。
僕はこれをキャラクターの『昇華』であると考えた
(昇華 : ある状態から、更に高度な状態へ飛躍すること)
それを踏まえて、先程挙げた過去作品における『落下』シーンと『昇華』について、検証していこう。
◆ 井戸へと落下した幼少期のブルース・ウェイン(バットマン ビギンズ)
両親を目の前で殺されたトラウマ、井戸で襲われたコウモリへの恐怖
これらを克服し、バットマンの誕生へと繋がる
◆ 舞台下へ落下するアンジャーの複製(プレステージ)
テスラが発明した瞬間移動装置は、副作用として、被験者の複製を生み出してしまう。
その為、何十人もの「自分」を陰で葬ってきたアンジャー
これは見方を変えれば、最高の奇術師へと近付く、その栄光の階段を上がる度に、過去の自分、今までの自分の殻を捨て去ってきた描写とも受け取れる。
「自分」の複製とは言え、倫理観を度外視し、自らの手で死体の山を築いてきたアンジャーに、何としてでも奇術界のトップになってやる、という強く堅い意志を感じ、個人的にはとても好きだ。
◆ 廃墟で落下し、最期を遂げるハービー(ダークナイト)
レイチェルが死んだ事でトゥーフェイスとなり、何件もの殺人を犯してしまった若き検事
街に住む人々が、希望を持ち続けられるよう、全ての罪を被るバットマン
光の騎士であったハービーの亡き後、悪を完全に取り締まる「デント法」が成立
彼の名は死後もゴッサム・シティを守り続けるのだった。
※ インセプションは最初に簡単に話したので省きます🙏🏻
◆ 奈落から何度も落下するブルース・ウェイン(ダークナイト ライジング)
完膚なきまでベインに敗北するバットマン
背骨を傷付けられ、「ゴッサム・シティはおまえを必要としていない」と言われてしまう。
「今まで自分は何の為に、誰の為に戦ってきたのか?」
奈落からの落下、内なる自分との葛藤を繰り返した末、命綱無しで大ジャンプ、そしてバットマン復活へ
この展開は本当に胸が熱くなる!
◆ 五次元空間へ落下し続けるクーパー(インターステラー)
ブラックホールの特異点を観測する為、ガルガンチュアへ飛び込むクーパー
四次元と五次元を繋ぐキーマンに選ばれた彼は、愛する娘へメッセージを送り続ける
◆ 船から海へダイブ(落下)するキャット(テネット)
アンドレイ・セイターという強大な力を持った夫から、「籠の中の鳥」のような扱いを受けてきたキャット
自らの手で憎き相手を撃ち、船から投げ捨てる
全ての呪縛から解放された彼女は、過去の自分に別れを告げる笑みと共に、大海原へ飛び込む
以上が、過去作品の検証でした!
いかがだろうか?
もうひとつの"Leap of face"
『落下』とはまたニュアンスが違うのだが、【インターステラー】には『Leap of faith』なシーンに、他の表現を用いている。
マン博士から宇宙船エンデュランスを奪還し、それぞれガルガンチュア、エドマンズの惑星を目指す事となったクーパーとアメリア
それは特異点観測の成功、人類が移住可能な地の発見に繋がるわけだが、これは2人の「未来を信じて(宇宙空間を)跳んだ」ことによってもたらされた結末なのだ。
『昇華』のその先へ・・・
この投稿の前半では『Leap of faith』を「根拠のない信頼」と紹介したが、「じゃぁ何を根拠に未来を信頼すれば良いか?」を示し続けているのが、クリストファー・ノーランという監督なのだ。
バットマン3部作、プレステージ、インセプションでは、過去からの脱却を描いた。
そして、インターステラーでは『愛』が、テネットでは『理想を思い描くこと』が、「未来に信頼を置く」には必要で、重要で大切な事だと伝えているのではないだろうか。
科学技術が発達し、CGやデジタルカメラの使用が主流となった昨今、IMAXカメラでのフィルム撮影、極力実写のシーンを作り出すというポリシーは、彼自身が『Leap of faith』な存在であると言えよう。
コロナによって持たされた空前の不況
その中で今にも『落下』してしまいそうな映画業界を救えるのは、作家としてのメッセージ性をエンターテインメントへと上手く『昇華』し、ヒット作を生み出し続けている彼だけなのかもしれない。
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