見出し画像

読書|噛みあわない会話と、ある過去について

ふとした時、頭によぎる過去の出来事。向き合うことも逃げることもできないまま、大人になってしまった。

短編全4作。自分の一部となっている過去の思い出ってありますよね。

それが嫌な記憶の場合、自分一人の出来事ならまだしも、誰かと共有してしまっているとあらぬ方向にモヤが行き渡ります。

昔の教え子だった”パッとしない子”が芸能人になった。

"誰からも嫌われていた子"が、世間の注目を集める塾の経営者になった。

自分目線で過去の出来事を見つめた時と、他人が思っていたことのチグハグさ。

「あ、やってしまった」という後悔を指摘される以上に、無意識な言動が他人を傷つけていたこと。

素敵な思い出を共有していたつもりが、自分だけの美談になっていたこと。

「あなたとの思い出なんて、私には何の傷ももう残さない」

「早穂とゆかり」P182

今だからできる過去の清算。今だからより重く、真実がのしかかってくること。その両方を同時に味わっている感覚になりました。

自分の中に眠っている傲慢さや無神経さなどが、無自覚にヒョコヒョコ顔を出していたかもしれないと思うと、怖くなります。

「すべきことを与えられるとそれは一生懸命、とにかくこなすことを考える。無駄がない質素な生活を心がけて、清く正しく生きることが得意。その逆で、苦手なのが娯楽や贅沢。何かを楽しむってことがすごく苦手」

「ママ・はは」P109

昔ね、実はこう思っていたんだよ。
このフレーズに続く言葉が、自分にとって嬉しいものでありますよう、無自覚な刃物を持たないようにしたいと思いました。


前回の読書記録はこちら。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,831件

#わたしの本棚

18,378件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?