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ベタでありきたりが最高

なんか気になるなと思いながらも見れていなかった映画で、『シェフ 三つ星フードトラック始めました』を見ました。

いやあ、これよかったです。

ログラインはこうです。『レストランを辞めた落ち目のシェフが、息子と共にフードトラックでサンドイッチを作りながらアメリカを旅し、再生していく』

まあストーリー的にはベタってやつです。

「はいはい。よくある話ね」「ご都合主義過ぎるだろ」と鼻で笑われるタイプのストーリーラインです。いわゆる王道ですね。

今って意外性とかスピーディーで予想もしない展開とか、壮大な伏線回収とかがもてはやされてるじゃないですか。

わかりやすいハッピーエンドで終わらずあえてバッドエンドにしたり、お客さんが愛着のあるキャラを無残に殺したりする作品に人気がある。

こんなシンプルなストーリーって中々日の目を見ない。特に小説ではその傾向が強いです。

でもやっぱり王道って、『王の道』と書くから王道なんですよ。陽のあたるまん中の道なんです。ベタでありきたりってことはそれだけ普遍性があるんです。

この映画に登場する料理のように、本当に丁寧に作れば、多くの人の心を震わせることができる。人を選ばない。万人に好まれる。それが王道作品なんですよね。

この映画にはそれがあったなと。

シェフを詳しく調べていたら、主演と監督を務めた『ジョン・ファブロウ』の経歴が面白かったんですよ。

ジョンは元々俳優で苦労に苦労を重ねました。俳優として芽が出ず、監督業に乗り出しました。

そして監督を務めた映画が、『アイアンマン』です。もうみなさんご存じの通り大ヒットしました。一躍有名人の仲間入りです。

ところが次作の『アイアンマン2』は評価がされず、興行収入も前作に比べるとぜんぜんでした。酷評もずいぶんされたそうです。

それでシェフの冒頭のシーンを思い出しました。

主人公の料理人がグルメ批評家に自分の料理を酷評されるんですよ。それでシェフがぶち切れて、「人が一生懸命作ったものにケチをつけるな!」と怒鳴りつけるんです。

これってネットに無数に存在する、アマチュア映画評論家に向けての自分の言葉だったんです。アイアンマン2が酷評されたときのことを思い出し、この台詞を書いたんじゃないでしょうか。どうりで台詞に力がこもっているわけです。

この気持ちは作家ならば全員わかりますよ。僕も自作のレビューを見て何度むかついたか数え切れないほどあります。

アイアンマン2でその挫折を味わったあと、ジョンはこのシェフを撮ったんです。

アイアンマンの監督やアベンジャーズの総指揮もしている人間が、こんな低予算のいたってベタな映画を作ったんです。

でもこれがジョンが本当に作りたかった映画なんでしょう。映画を見ればその気持ちが伝わってきます。

壮大な予算の大作よりも、小規模でもこういうシンプルでほっとするような映画が作りたいんですよ。

もちろんアベンジャーズに比べたらシェフの興行収入など微々たるものです。評価は高かったんですが、興行的には成功しませんでした。

けれど僕はアイアンマンやアベンジャーズよりも断然シェフの方が好きでした。大作にはない映画の良さがありました。

「いいものを見たな」

素直にそう思える映画って、やっぱり王道を歩いているんです。エセ評論家の声などに耳を傾けず、堂々と陽のあたる道を胸を張って歩いている。

ぜひみなさんも見てください。

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