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琳琅の会
2020年12月15日 23:03
蜃気楼になりたかった。空気を揺らし、日差しへ体を預けたかった。 太陽が毛羽立った畳を燃やす。冷たい布団とぬるい缶ビール。煤けた原稿用紙が畳を隠している。西武池袋線近くの安アパートは、電車が通るたび、木製のドアが軋む。がたん、ごとんと、規則正しい騒音が耳へ入り込む。 柱に体を預け窓の桟に肘をつき、一メートル平方の窓から街を見下ろす。徹夜明けの目は充血して痛い。住宅街の合間にできた狭い道には誰