過去の初恋は甘美な思い出に改竄されやすい。
小学4年生のとき、初めて可愛いと思ってもらいたい異性が出来た。
そのときの私は良い子でいるのが得意だった。周りの大人達や先生から好かれる方法なんて考えなくても分かった。大人の考えなんて透けて見えるような気がしていた。
自分は、他の人とは違って大人っぽい小学生だと思っていた私は、本当は現在進行系でドジで抜けているのにいつだって完璧でいたかった。
今思うと、本当に痛いヤツだった。
そんな自分が大嫌いだったからこそ強がってばかりいたのかもしれない。
この心理状態の時期に、私なんかのことを好きになってくれた男の子がいた。その子はどんな私も褒めてくれた。認めてくれた。受け入れてくれた。
私もどんどん彼に惹かれていった。もっと好きになってもらいたかった。
私は、彼に可愛いと言ってもらいたくてわざと天然ぽくなった。
彼の紡ぐ言葉の全てが大好きだった。
授業中に居眠りの後だけ二重になる、私だけが知っているであろう秘密を孕んだ彼の顔が好きだった。
線の細い体、白くて繊細そうな肌、四角い爪、それに見合わない太く隆起した喉仏…
いつだってチャンスがあれば、視線で彼の輪郭をなぞった。
想い返してみれば、私の頭の中は毎日、彼でいっぱいだった。
彼を好きになって
大嫌いな「火曜日」が好きになった。
待ち遠しくて仕方がなかった。
夜、一緒に練習に行って、運が良いとダブルスのペアを組ませてもらえた。彼は、点数が決まると笑顔で掌を見せてくる。そのハイタッチが一週間の中で一番幸せな瞬間だった。
車の中でこっそり手を繋いだのも深く、鮮明に、記憶に残っている。
中学生に上がるタイミングでよく一緒に帰っていた友達に告白され、彼とはよく分からないまま終わってしまった。
彼は私のことをよく知っている。よく見ている。誰にもいってなかったことや中学生の時に気になっていた子を彼だけがピタリと当ててしまうのだ。
彼が嫉妬してくれてる気がする、そんな烏滸がましい気持ちを抱えながら人を好きになっていた。
ずっと分かってはいたけれど、高校は離れてしまった。
一年ぶりに電車で彼を見た。息が止まった。彼は電車の中でさえ、バインダーを広げ一生懸命何かを書いていた。変わってないな、という懐旧の念が心を占めた。
彼はメモ魔なのだ。
そういうマメなところが好きだった、と久しぶりに思い出した。
二階のベランダで景色を眺めていると彼の家の鮮やかな屋根の色が私の視界を覗く。
元気にしてるかな。
いまでも彼は私の原動力になっている。
彼だったらこんな場面をどう対処するかな、どんな言葉で周囲の人間を包むかな、ふと考えてしまう。
彼が過去を振り返ったときに私はいるだろうか。過去なんて振り返らなそうな人だけど、少しでいいから変な女の子がいたなぁと微笑んでくれていたらいいな。
思い出はいっぱいあるけど、やっぱり一番に思い出すのは、このぬいぐるみ。
(写真載せようと思ったけど、恥ずかしくなってやめました…)
当時、お互いの家(父方、母方の両方の祖父母を紹介してくれた)とかイベントとかお祭りに一緒に遊びに行くことがよくあった。
その日は二人で「君の名は。」の映画に行った後、クレーンゲームの前で私がくまのぬいぐるみに向かって無意識に可愛い!と言ったら、
その2分後、くるくるとゲームセンターを周っていた私に彼がそっと両手を差し出した。その手のひらにはさっき私が可愛いと言ったくまさんが乗っていた。
今でもそのぬいぐるみは捨てられない。
生徒会選挙のときも大きなステージ発表のときも受験の日も常に握っていた。
そこはかとなく勇気と安心感が漲ってくる。
小学校、中学校両方とも一緒になった同窓会役員。いつかの同窓会まで気持ちもくまさんも心にぐっと仕舞っておきます。
ここまで散々魅力を語っといて難だけど、本当に今は好きとかじゃないし、もう一回やり直したいとかではないけどね。
だけど、
それまで元気でね。
立派なお医者さんになって、アフリカに飛び立ってたくさんの命を救う夢、叶えてね。
今の私には、未だにその夢を抱いているのかを確認する勇気なんて持ち合わせて無いけれど。
あ、あと当時毎日会えていたのに不思議とたくさん文通していて溜まった手紙たちも交換日記も捨てられない。
過去の記憶って美化しやすいからこそ、この人を超えるくらい大好きな人って現れるのかなって思ってしまう。
この人のことを凄く家族が推してて好きなんだよなぁ。(謎)
いつか過去にしがみつかずに、この改竄された記憶をも超えるような素敵な人と出会えますように。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?