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掌編小説:ストロベリーバズーカ【2674文字】

しっとが吹いている。吹きあれている。

私の半径3mくらい、ひどい台風みたいな竜巻みたいな、風速はかれない、F4クラスの竜巻:1トン以上ある物体が降ってきて危険この上ないってこの前、理科の先生が言ってた、そのくらいのしっとが吹きあれている。

エリが男子としゃべっているから、楽しそうにしゃべっているから、中3男子なんてバカしかいないのに、私はそれを校則違反の茶色い前髪ごしに教室の後ろから見ている。男子と楽しそうにしゃべるエリなんて今すぐ爆発してこっぱみじんになっちゃえって思うけど、これ以上しゃべってたら本当に爆発しちゃうかもしれないよ、私のほうが。

1トン以上ある物体って何だろう。象とか?

エリがおしゃべりをやめて私のほうに来る。超絶激萌エモーショナル笑顔で「まや、次の授業、音楽だよ。音楽室行こう」って言ってくるから私は「うん」とだけ言って立ち上がる。バカな男子なんておいていこう。100マイルくらいおいていこう。1000マイルくらいおいていこう。

1000マイルってどのくらい?

音楽室につく前に「ねえ、今日リコーダー交換して使わない?」って言ったら「いいよ」って人をまったく疑わない顔でリコーダーを交換してくれるエリは私の小学校からの友達で、音楽の授業の間中、私はエリのリコーダーに口を付ける。エリが私のリコーダーに口をつけるたび私はお腹の下のほうがぎゅっとなって、このままずっとぎゅっとなっていたら頭が真空みたいになって息がうまくできなくなって脳みそに酸素が行かなくなって私死んじゃうかもしれないって思うけどエリの唇から目が離せなくて、私は自分の舌先でエリのリコーダーを何度も何度もくりかえし左右につついてなめるしかないんだ。

音楽の授業のあと、エリがトイレに行くっていうからついていくと「あーお腹痛いと思ったら生理きたわ」って言ってお腹をさすりながら個室から出てくるから「大丈夫? 保健室いく?」って聞きながら私はエリの出てきた個室に入る。すみの三角形のダストボックスを開けるといくつも汚物が丸めてテープで止められて捨ててあってどれがエリのかわからないから私は用を足して個室を出る。

「やっぱりお腹痛い」って言うエリの顔色が悪いから「保健室行こう」って言って一緒に保健室に行く。保健室の先生はいつも優しくて生理の重いエリはよく休みに来てる。ベッドで横になるエリに「次の授業、英語だよね。先生に休んでるって伝えておくね」って言うと「まや、いつもありがとう」って言って小さく震えるから「お大事にね」ってエリの髪をなでた。つやつやしていていい匂いの、血色の悪いエリの顔によく似合う黒髪。

私は私のしんびがんを疑わない。
しんびがんブギーもうたわない。

「高校に行ったらもう会えないね」って私が言うたび「そんなことないよ」ってエリは言うけど、エリは頭がいいから県内でもトップクラスの進学校に行くんだし、私は中の下くらいの高校で、どう考えても今みたいに毎日会って仲良くできるとは思えないんだ。中学の友達なんてみんな「疎遠」ってやつになるんだって、お父さんもお母さんも中学の同級生なんて数人も付き合いが残っていなくて、その数人も年に一度の年賀状であいさつするくらいで、だれだれちゃんの子供大きくなったなとか、だれだれちゃんも老けたなあとか、そんな付き合いしかなくて、それは疎遠ってやつで、とっくに過去のことなんだ。疎遠ってやつになるくらいだったら、いっそ、完全無敵ハイパー無双モードONでロケットランチャー肩にかついでしょうじゅんをエリにさだめてチョークの弾丸ぶちこんでなにもかも全部ぶっこわしたほうがずっとマシだと思うんだ。

もうすぐ卒業だからふたりで遊びに行こうっていってみなとみらいに遊びにきたんだ。プリクラとったらエリがラクガキで「BFF」って書くからイラッとして「LOVE」って書いてハートマークのスタンプめちゃくちゃに押してうめつくしてやったんだ、そしたら「まや、それじゃ顔まで隠れちゃうよ」ってキャキャって笑うんだけど私はムカついてたから無視してハートばっかりひたすら押してたらラクガキの時間終わっちゃって、笑いすぎて涙目になってるエリの目ににじんだ液体の味を思い浮かべるんだ。

高いところが苦手だっていうエリを無理やり観覧車に押し込んでふたりだけの密室。「怖いから、まや、こっちに一緒に座って」ってエリが言うから「動いたらゆれるよ?」って言いながら立ちあがったら本当にぐらっとゆれて「ひゃ」って小さくひめいをあげるエリを追いつめたくて、高いところなんてぜんぜん怖くない私は立ったままジャンプしてドンドン大きな音を立ててたらエリが「本当にやめてって、こわい!」ってあわれみたいな顔するから、また私は下腹部がぎゅっとして超ど級のぐるぐるまわる遊園地のコーヒーカップMaxまわしたときの遠心力くらいの強さでエリにくっつきたくなって、遠心力でたれてきたヨダレすすってエリのとなりに座ったんだ。

あぁ悲しきAsianガール。
あかつきに背はむけないよ。

世界が夕陽に沈没したらふたりだけの密室がカリフォルニアオレンジになって景色を見たエリが「きれい」って言うその横顔は本当にきれいだから「本当にきれい」ってエリに向かって言ったらエリが振り向くから、頭の中でNO LIMITチカチカ点滅して、これアウトなやつじゃん、死んじゃうやつじゃんって思ったけど思うより先に体が動いて、エリの唇に自分の唇を重ねていたんだ。

エリの色つきリップはいちごの味。
ストロベリーバズーカは最強LDK。

唇を離すとエリが超絶ハイパーエモーショナル照れた顔で「何すんの」って言うから「私エリのこと好き」って言ったらエリが「私もまやのこと好きだよ」って言うから「好きって友達としての好きじゃないよ」って言ったら「知ってる。私もまやのこと友達としてじゃなくて好き」って言うから、このまま観覧車が落っこちて密室の中でつぶれたふたりがぐっちゃぐちゃのイチゴジャムみたいになって、どっちがどっちかわからないくらい混ざっちゃえばいいのにって願ったらおもしろくなって、私が笑ったらエリも笑うから私は思い切りエリのことを抱きしめて心臓のどきどきどきどきをふたりでわかちあってわかちあって楽しくて大好きで今すぐ首にかじりついてむしゃむしゃ食べちゃいたいくらい大好きで、あぁこれが恋なんだって初めてわかったんだ。

カリフォルニアオレンジはいつまでたっても沈没しない。

私たちはたぶん、宇宙をとめることに成功した。

恋の力はいだいだね。





《おわり》

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