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カナダで保育: 子どもの真実と事実

保育園で働いていて保護者の方からの質問のトップ5に入るものの1つが「子どもがこんな事を家で話してる(言ってる)んですが...」というもの。

2歳にもなると文章で話をする事も出来るような子も増えてきて、そんな彼らの話を聞くのは本当に楽しいですし、面白いです。

ただ何を話しているのかわからないという事もしばしば。

現実であった事と絵本などのお話の世界、遊びの中での空想や想像に加え、彼ら自身から見える世界の解釈が入ったり文章が穴あきな事もあるので、子どもによっては謎解きレベル。

それがまた面白いのと、子どもたちの世界を共有できる大切な一つだと思っています。


ただ彼らの言葉が全て事実というわけではありません。


「嘘をついている」という事ではなくて、子ども達にとってはそれが真実でも事実ではないという事は多々あります。

そしてそれが元で騒動になる事も実は少なくはありません。


これは数年前に起こった友人の保育園での話です。

お散歩に行こうと子ども達が並んで待っている時に1人の保育士の腕が後ろにいた子どもの頭に当たってしまった事があったそうです。

子どもはそれに対して文句を言って、保育士はすぐに謝り、わざとではないけれどぶつかってしまってごめんね、と伝えたそうです。

次の日にその子の親が怒鳴り込んで来ました。

「うちの子がXX先生にぶたれたとはどういう事ですか⁈」と。

その場にその時の保育士はいなかったのですが、一緒にいてその場を目撃していた保育士がいたので説明をしたそうなのですが「うちの子が言っていた事と違う」「うちの子が嘘をつくわけない」と取り合って貰えなかったらしく、最終的にはライセンス(監査)に連絡が言って裁判騒ぎにまでなったそうです。


実際ここまで大事のなる事はそんなにあるわけではないのですが、似たようなやり取りや騒動は結構あります。


ここでの鍵は「保護者と保育士の信頼関係」です。


普段からちょっとした事でも情報交換しているか、双方の間にどんな交流がありどんな関係性を築いていたかなどによって受ける情報の印象も変わります。



そしてそれは逆も然りです。



ある日1人の男の子が母親に

「I don’t want daddy hit my face(お父さんに顔を叩かれるのは嫌だ)」

と言ったそうです。

お母さんは聞き返しましたが返ってきたのは同じ言葉。


お母さんは大混乱です。

この子とお母さんは普段から沢山おしゃべりをしているので、実体験や考えを比較的きちんと話して伝える事が出来ると知っていたからです。

どうしてこの子はこんな事を言っているんだろう、何か父親との間にあったのだろうか、でも自分に隠れて虐待が行われているとは思えない。

色々な事が頭を駆け巡り、その子に更に詳しく話を聞いてみると、どうやら以前に玄関のドアの前で座っていたその子に対して、もうすぐお父さんが帰ってくるからそこに座っていたらドアが顔にぶつかって痛いよ、という事を言った事があって、それが何故かその時その子の頭によぎったらしく、それがかなり単語が省かれた形でそうなったとの事の様。


お母さんも「なるほど、そういう事か」ホッと一安心。


でもこの時に、こんなに話せる子でもこんな事もあるのか、そしてコレを保育園で言っていたとしたらどうなっていたのかと思ったそうです。

カナダでもし虐待の疑いがあった場合、本当に「かもしれない」程度でもレポートする義務があり、下手するとその真偽がわかるまで子どもと引き離される事だってあります。


だからこそ保育士側も子どもの言葉に真剣に向き合い耳を傾けると同時に、どういう事なのかと情報を集め真偽を確かめる事はとても大切です。


うちのクラスでもこの前1人の子のお母さんから「うちの子が「友達にハンマーで叩かれる」と言っているんだけど、何の事かわかる?」と聞かれました。

今うちのクラスでは工事や大工さんの遊びが大流行中で、おもちゃの道具を使ってしょっちゅう色々な所を直しています。

そしてその中には友達や保育士の身体をFixしよう(直そう)とする事もあって、その時にトンカチでトントンするわけです。


ここでのポイントは「トントン」で、コレ、英語でも色んな言い方が出来るわけです。

Hit
Tap
Hammer

どう言うかによってその力加減が想像できるわけで、今回の場合その子がお母さんに言ったのは

「XX  hammered my leg」

こう言われると友達にハンマーで足を殴られた、というような印象を受けます。

でも実際にはTap(軽く叩く)しただけで、痛いと感じる強さではなかった様で、その時は普通に一緒に遊んでいました。

こういう事は日常の遊びの一コマなので、保護者にどういう遊びを最近しているかなどを話しても、常に全てを1から10まで伝える事は出来ません。

ただ、こういう事を聞かれた時にその状況を保育士が把握していたのかどうかも保護者側からの信頼ポイントの一つにもなります。

もちろん全ての子どもの全ての事を1人の保育士が把握するのは不可能なので、保育士同士の情報交換も大切なわけです。

そうする事で、保護者側も「自分の子どもを見てくれている」と思えるでしょうし、保育士側もその信頼があれば色々話がし易くなります。


そうして保護者と保育士両方からの情報を合わせる事で子どもの真実と事実が見えてくると思います。


だって子どもの言葉は時に決して嘘ではない、でも真実でもない事があるのですから。



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