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23. あぁ、嫌だ。痛い。嫌だ嫌だ
*パーティーの常連たち
ハル(尊)|女風で出会った私のパートナー。
シンジ|パーティーの主催者。作曲家。
かほちゃん|シンジのパートナー。職業女王様。
セナちゃん|ボーイッシュな赤髪の女の子。自傷癖あり。
偶然シンジと会った数日後、
私たちはまた、彼のマンションにいた。
今度は「みんな」で。
隣のベッドでハルとかほちゃんがセックスしている。私が目をやっても、ハルはこちらを見てくれない。
あぁ、すごい苦しみだ。
私は一生懸命、目の前の相手に集中する。
だめだ。
余計に辛い。
こういうとき、私は公共の交通機関を利用している自分を想像した。おかしな話に聞こえるかもしれないが、具体的な駅の名前や構内図を詳細に想像できるから、簡単に気を紛らわせて気に入っていた。
男のサイズが合わなくて、痛い。
嫌だ。
我慢。
中、痛い。
悲しい。
惨めだ。
かほちゃんの喘ぎ声が、耳を塞ぐ。
痛い。
辛い。
あぁ、最悪だ。
そうだ、もう一つ、辛いときにやっていたことがある。
頭の中で「あぁ、」と一言おくと、少しだけ、ほんの少しだけ痛みを後回しにできる。自分は冷静だと思えるから。
ハルがかほちゃんに『かわいいね』と囁くのが聞こえる。
あぁ、また心臓を握りつぶされた。
我慢できなくなった涙がこぼれる。
『そんなに、気持ちいいの?』私の下にいる男が笑う。
あぁ、嫌だ。
「うん、気持ちぃ」
ハルとかほちゃんの激しい音を掻き消すためだけに、私は喘ぎ声を絞り出した。
早く終わって
お願い
でも、終わったらもっと地獄なのを知っている。
最悪なのは、こちらが終わった後も、横が盛り上がっているときだった。
ここには地獄しかない。
かほちゃんが横で痙攣して、呻き声をあげている。
中イキしたことがない私は、パーティーに行く度に自信を失い、精神的に追い詰められていった。
隣の女性が叫び声を上げるたび、死にたくなった。ほとんど強迫観念に駆られて、毎回、自分が周りより女として劣っていると感じた。
皆に合わせて、無理やり演技したけど、限界があった。
心と身体を満たしに女性用風俗に行ったが、
尊に連れていかれた世界の中で私は、
自信を失い、
自分を嫌いになっていった。
結局私たちの方が早く終わってしまって、私はハルとかほちゃんが絡み合うベッドに手をついて立ち上がる。私は全然濡れていなかったから、中が酷く痛んだ。
ハルとかほちゃんのセックスは心が張り裂けるが、ハルとシンジのセックスはなんともない。私はやっぱり、異性愛者ということなんだろうか。あえて、自分の性嗜好を決めつける必要はないにしても。
実のところ、私は性にあまり興味がないのかもしれない。
無理だということもなければ、すごく気持ちいいセックスもしたことはなかった。嫌だと思うことがほとんどだったけど、わざわざ拒否してその場の空気を悪くするのも気まずくするほどでもなかった。
広々した浴室でシャワーを浴びていると、
雲ったガラス扉に赤髪が映る。
色落ちして、金髪に近い。
セナちゃんが『入っていい?』と聞く。
『私結婚したいんだ』
シャワー室に入ると、彼女は唐突にそう言った。
結婚するという報告ではなく、
結婚したいという願望だった。
『結婚したい人がいるんだ』
私の知ってる人だろうか
誰?とは聞けない代わりに、
本気なの?と訊ねた。
セナちゃんは頷いたまま、顔を上げない。
彼女の華奢な肩が震えるのを見つめながら、
私は尊から離れようと決めた。
床に滲んだ鮮血が、排水溝に吸い込まれていく。
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