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22. 苦しみを与えるために
シンジ|パーティーの主催者。作曲家。
ハル(尊)|女風で出会った私のパートナー。
私とシンジがセックスすること自体は、尊も皆も当然知っている、というか見ているわけで、お互いのパートナーも特段咎めることではないけれど、これはあまり良い状況ではない。
本当に2人きりになるのはこれが初めてだった。
シンジの家には油彩から立体まで様々なアートが置かれていたが、私は一度もそれに触れなかった。音楽だけじゃなく芸術全般が好きなんだろう、でも私は、これ以上何か共通点を持つのが怖かったんだと思う。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/75305466/picture_pc_e6edba04c215d1196797e7e323683181.jpg?width=1200)
『ハルくんのキス、いいよね。咥えるのも1番うまいんだ。唇の使い方が上手だから』シンジが、クククと笑う。
「ハルの話しないで」
私はため息をついた。
『なんで』
彼はたいして興味なさそうに尋ねて、
私を膝の上に乗せる。
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私はこの頃精神を病んで病院に通っていた。
ここでは書けないような色々なことが重なって、追い詰められていた。
辛くて、誰かに話したくて、尊に電話したのが数日前。
『そういう人いるんだよなぁ。すぐ精神病んで、仕事休んで人に迷惑かけるやつ』
私は、「うん、ごめん」とだけ言って、
電話を切ってから泣いた。
その時、私は深く傷ついて、尊が結婚していない本当の理由を知った。
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![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/75306698/picture_pc_d14d0dd9188bdd74594583709e2a24bc.jpg?width=1200)
「シンジとハルがシてるの見るのは楽しいけど、今はうんざりしてる。ハルってイカれてるじゃん」
シンジのカラーレンズメガネに朝日が反射する。彼にはカラーレンズやピアスがよく似合っているけれど、尊がつけているところは想像できない。
『俺たちが言える?それ』
そう言って私の手首を強く掴むと、
『でも分かる、ハルくんって俺が知ってる中でも1番のサイコパスだよ』と続けた。
数十年の付き合いがある人間が言うのだから、間違いない。
「笑い事じゃない、本当に精神が崩壊してるんだよ」
シンジは、私の前髪を長い指先で梳かす。
『でもさぁ、ハルくんが女の子を家に連れて帰ってんの、初めて見た。俺が知ってるのは、現地集合現地解散厳守の冷酷な男だもん。蒼ちゃんが手懐けてるのみて驚いた』
それを聞いて私は、むしろシンジの方がすごい、と思っていた。
数十年経っても相手の本名や住んでいるところも知らず、同じ距離を保つことができるこの人のことを、すごいと思った。
1人の人間と同じ距離でいるのは、とても難しい。
「...じゃあ、私が離れるとき、少しは苦しむかな」
私はシンジのベルトに手をかける。
『2人きりで会ってるのを知ったら、苦しむかもね』
カラーレンズの奥の瞳が弧を描いた。
「なら、来てよかった」
私が跪いてシンジを咥えると、
『唇の力抜いて』と頭を掴まれる。
フェラチオよりイラマチオの方が好きだ。
『上手になってきたね。要領いい女の子は好き』
息が苦しくて、目に涙が滲む。
私はすっかり彼に教育されていた。
驚くべきことに、頭を掴むだけでも、上手い下手があるのだ。
掴まれて違和感がある人もいるけれど、
シンジは完璧だった。
知性と才能のある男ほど色気のあるものはない。
私は、すっかり服従したくなる。
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