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パレスチナ問題 それぞれの心情と立場、思惑

NHK クロ現取材ノート記事「パレスチナ問題がわかる イスラエルとパレスチナ 対立のわけ」

とてもわかりやすく説明してあって素晴らしいと思ったのですが、もう少し宗教的な補足をせねば、「心情的」な部分が理解できないと感じました。

まず2つの悲劇について

2つの悲劇~ユダヤ人とパレスチナ人

パレスチナ問題の根源は「2つの悲劇」にあるとも言われています。1つは、ユダヤ人が2000年の長い歴史の中で世界に離散し、迫害を受けてきた悲劇です。やっとの思いで悲願の国(=イスラエル)をつくり、それを死守していきたい、二度と自分たちが迫害されるような歴史に戻りたくない。そんな強い思いをユダヤ人はもっています。

もう1つは、パレスチナの地に根を下ろしていた70万人が、イスラエルの建国で故郷を追われたという、パレスチナ人の悲劇です。いまパレスチナ人が住んでいるのは、ヨルダン川西岸とガザ地区という場所です。国にはなれないまま、イスラエルの占領下におかれているのが現状です。周辺の国にも多くが難民として暮らしています。

https://www.nhk.or.jp/minplus/0121/topic015.html

ユダヤ人がなぜパレスチナに悲願の国を作ったのかは、そこが神によりイスラエルの民に与えるとされた「カナン=約束の地=乳と蜜の流れる地」であるからです。そこは豊穣であり、安息の地であると。
また、ユダヤ教にとって重要な「出エジプト」では、エジプトで奴隷とされていたモーセたちユダヤ人が約束の地=パレスチナに戻る際に神から十戒を授かる。
この「出エジプト」は、イスラエル人全体の民族的体験に拡大されたとされています。
更に、ユダヤ教において終末に救世主(メシア)が現れる地でもあり、聖書には以下のような記述があります。

わたしはあなたの子孫にこの地を与えます(創世記12:7)

わたしはあなたと後の子孫とにあなたの宿っているこの地、すなわちカナンの全地を永久の所有として与える(創世記17:8)

イスラエルの家は、主の地で彼らを男女の奴隷とし、さきに自分たちを捕虜にした者を捕虜にし、自分たちをしえたげた者を治める(イザヤ書14:2)

わたしはシオンに帰り、エルサレムのただ中に住もう。エルサレムは真実の町と呼ばれ、万軍の主の山は聖なる山と呼ばれよう(ゼカリヤ書8:3)

これらのことから、迫害されたユダヤ人が「出エジプト」のようにパレスチナに戻って建国することは恐らく"当然のこと"なのではないでしょうか。また、同じく旧約聖書を信じるキリスト教徒にとっても恐らく精神的抵抗は少ない。
エルサレムはキリスト教徒にとっても聖地ですが、そもそも紀元前からパレスチナの地にあったユダヤ人の王国を滅ぼして散り散りにしたのはローマ帝国なわけで、その後イエスを処刑したとしてユダヤ人を迫害してきた歴史、そして近現代では欧米の政財界の重要ポストにユダヤ人が多いことを考えても、合意しないわけにいかない。
なお、エルサレムはイスラム教徒にとっても聖地ですが、イスラム教にとっての最重要地はあくまでメッカであるので、ユダヤ人ほどの思い入れはないかと思います。
イスラム教でもエルサレムは聖地ですし、聖書も神の啓示を記した書物とされていて、その中には「出エジプト」を含むモーセ五書もありますが、重要なのはあくまでコーランであり、ムスリムが聖書を読むことは、宗教知識人などを除けばほとんどないとのこともそれを後押しするかと。

ではパレスチナ人の悲劇とは。
それは"移民"による"侵略"です。
ユダヤ人がいかに"当然のこと"と信じていようが、歴史上迫害され世界に散り散りになった悲劇ゆえの"悲願"であろうが、パレスチナ人にとってみれば、長年住んできた地にやってきた"移民"による"占領"と"支配"なのです。
なのにその不当行為は、国連決議によるもの。

想像してみてください。受容できますか?自分が移民に土地を追われることを、国連が正式認定し、70万人が散り散りになり、一部は難民となった。アラブ人たちが反発するのもまた"当然のこと"です。
更に、その後イスラエルは国際法上、認められていないところまで占領を進め、パレスチナと呼ばれていた土地のすべてを統治下に置き、入植も推し進めた。ここまでの状況はパレスチナ人にとっては明らかなる"侵略"行為です。

迫害された者はたちは団結力が高まり、反発心も強くなるのは世の常です。それはユダヤ人の歴史でもあるけれど、現代においてはイスラム教徒こそ迫害されているという意識が強いでしょう。
アメリカをはじめとする欧米諸国は、ユダヤ人迫害の歴史からだけでなく、政財界にユダヤ人が多いことからもイスラエルを支持する。イスラエル支持は、アメリカ大統領選にも影響を与えることはよく知られています。
アルカイダやISIL(イスラム国)もまた、迫害されている意識によって強硬化した一部なのだと思います。
ただし、ハマスについては上記と同様に安易にテロ組織と認定することには疑問があります。

例えばBBCは「テロリスト」という表現は公平さを損なうとして使わない立場を示し、政府高官などが批判を強めています。BBCは「私たちの役割は、視聴者がみずから判断できるよう、現場で何が起きているか正確に説明することだ」とホームページに記載している。
一方でなぜ政府高官などが批判するのか。それは政財界などに食い込んでいるユダヤ人を刺激するからと見るのが相当でしょう。
そもそもイギリスが、ユダヤ人がパレスチナの地で自治政府を作ることを承認したバルフォア宣言は、第一次大戦で消耗していたイギリスに、ドイツ在住のシオニストが提案し、ユダヤ系貴族院議員であるロスチャイルド男爵ウォルター・ロスチャイルドに対して送った書簡で表明されたものです。
今回、イギリスは実際にイスラエルに軍事支援しています。
しかし私は、公平さを損なわないよう、ハマスを「テロリスト」と呼称しないBBCの姿勢は素晴らしいと思います。

ドイツのショルツ首相は「イスラエルには野蛮な攻撃から国民を守る権利がある」と強調しています。ドイツはホロコーストの歴史からも当然イスラエル支持の姿勢を崩せませんし、反ユダヤ主義の高まりも警戒しています。
親パレスチナ系団体「サミドゥン」の活動も禁止する方針を示しましたが、一部のイスラム系住民には、ハマスの暴力行為を否定したうえで「パレスチナを解放するためにしていることを考慮すれば彼らを支持する」「(ハマスの)暴力だけ見て、パレスチナ人に対するイスラエルの暴力を見ないのはいかがなものか」と一定の理解を示す声も出ているという。
これは、ネオナチのような反ユダヤ思想ではなく、フラットな目線からのイスラエルの行為への疑問も噴出してきているということと思います。

フランスもまたイスラエルに対する「揺るぎない結束した支持」を表明していますが、国内ではパレスチナを支持するデモを禁止。禁止令にもかかわらず、多くの人がデモに参加する事態となっています。
フランスでデモが禁止されるというのは、とんでもない事態なのです。
「フランスは本当にしょっちゅうデモがある。2~3週間に1回は何かのデモがあり、日曜日、暇だからデモにいくんだよね、フランスじゃ」と、フランスに住んでいた哲学者の國分功一郎さんが坂本龍一さんとの対談で仰っています。つまりとても身近で当たり前の権利なわけです。今回のデモは上記で語られているようなカジュアルなものではないけれども、だからこそ禁止という措置は異常事態。パレスチナを支持する団体の「表現の自由を脅かす」「デモをする権利がある」という主張は真っ当なものなわけです。
またフランスのユダヤ教徒コミュニティーは50万人近くと、欧州で最大。一方、ムスリム(イスラム教徒)コミュニティーも欧州最大で、500万人規模と推定されている。という事実も見逃せない。つまり、パレスチナ紛争が起きる度に、フランスは国内が揺れるということです。

欧米各国においては、歴史的・政治的問題でイスラエル支持を崩せないものの、市民の中では、ハマス(パレスチナ)の行為も行き過ぎだが、イスラエルも同様だ、もしくはイスラエルの行為の方が行き過ぎだという意識があるということは否定できないと思います。

今回の各国の主張の中で、私が最も注目したのはエジプトです。
エジプトはガザ地区と隣接しており、対応を求める声も高まっています。しかしパレスチナ難民の流入は当然懸念します。
それでもなお、シーシ大統領はガザ地区への支援を表明。
しかしその支援能力には限界があるとも警告し、「もちろん我々は同情している。だが、慎重に対応しなければならない。同情はするが、我々は常に、我が国の大きな負担にならない形で平和と安全を実現するために頭を使う必要がある」と述べ、エジプトは既に移民900人を受け入れていると言い添えた。
またエジプトは、イスラエルとパレスチナ双方に最大限の自制を促しています
ハマスがイスラエルに致命的な攻撃を開始し、イスラエルはガザへの壊滅的な空爆で報復したことを受けて、暴力の「悪循環」について警告した。
一方、国際社会に対しては、「イスラエルに対し、パレスチナ人民に対する攻撃と挑発行為を停止し、占領国の責任に関する国際人道法の原則を遵守するようイスラエルに促すべき」と呼びかけた。
イスラエルの攻撃が激化すれば自国への難民流入が増えるのだから当然とも見えるかもしれませんが、既に実際にパレスチナ支援を行なっている。
その上で、国際社会に対して「国際人道法の原則を遵守するようイスラエルに促すべき」と言えるのは、イスラム教国であり、アラブの春「エジプト革命」を経たエジプトならではであると思います。

欧米各国や国連は、歴史上・構造上、イスラエル支持に寄りすぎている。
ハマスの行為は行き過ぎではあるが、パレスチナを支援してきたアラブ諸国は、エジプトとヨルダン以外は「パレスチナ問題が解決するまではイスラエルは認められない」という立場だったにも関わらず、UAEやバーレーンがイスラエルと国交を結び、スーダンやモロッコといった、アフリカのイスラム教の国も続いた。
あのメッカがあるサウジアラビアすらも、イスラエルとの国交正常化を模索していると言われている。
「アラブの大義」の鉄則が崩れたことを、パレスチナ人が裏切りだと憤慨するのも当然ではないでしょうか?

そんな中、ガザ地区と隣接するエジプトが、ハマスの行為を非難しつつもパレスチナを支援し、国際社会に向けては、イスラエルは国際人道法を遵守するよう促すべきだと訴えかけているのは救いであると思います。
イスラエルによる占領やガザ地区の封鎖が続いてきたことが今回のような悲劇を招いたのは間違いないけれども、ハマスによる行為も決して容認できるものではない。

私には、現時点では解決の糸口は見当たらない。余りに困難。
ただひとつ思うのは、国連のパレスチナ分割決議による1948年のイスラエル建国は間違っていたのではないかということ。

実はユダヤ教の一部であるユダヤ教超正統派は、イスラエル建国の在り方自体も支持していません。
なぜならまず、聖書の「汝、殺すなかれ、盗むなかれ」に違反しているから。また、「救世主(メシア)が現れるまで建国は待つべきだ」として、反シオニズム活動を行なっています。
信心が殊更強いからこその立場です。

イエスを処刑したからとユダヤ人を迫害した人たち、神から与えられた約束の地だからこそとパレスチナにイスラエルを建国した人たち、それによって国を追われ、尚且つ現在国際的に劣勢にいる人たち。
それぞれの信心と正義がある。
信心は基本的に素晴らしい。素晴らしいけれども、私は、信心や正義は時に間違えると思う。
そんな時にこそ冷静に振り返るべきものが倫理だと思う。


  • 私は無神教で聖書を研究したこともないので、読解なども不備あるかもしれません。その他も、間違いや他の見解がありましたら、ぜひ教えてください。X(Twitter)にて呼びかけていただけたら反応が早いかと思います。https://twitter.com/Rin_ha_Rinri



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