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‘すぺしゃる’の向こう側 (5)

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

5)ぼうけんのはじまり
しばらく、じっと、待った。なにも起こらないので、もう一度、「冒険、いっきますよーーー。」と、今度は、さっきより、少しだけ大きい声で、言ってみた。すると、どこからか、「ホッホー。」と聞こえた。ぼくは、ふくろうの声を聞いたことがなかったけれど、きっと、これがふくろうなんだろうと思って、わくわくした。ほどなくして、ふくろうが、ベランダの手すりにやってきて、とまった。大きな目のふさふさした白と茶色の毛がしましまになっているふくろうだった。「ほんとに、行くの?」とふくろうが、近所のおばさんのような声で、聞いてきた。「行くよ。」ぼくは、ふくろうがしゃべったのに、びっくりしたけれど、すぐに、答えた。「そうお?」と、ふくろうは、羽をひろげて、3回、バサバサ、前と後ろに、動かした。

すると、たくさんの星が、空に流れて、雲がどんどんあつまって、こっちにむかってきた。風も、びゅんびゅんふいてきた。そのしゅんかん、雲の中から、りゅうが出てきた。ぼくがノートに書いたりゅうにちょっと似ている、緑色のりゅうだった。りゅうは、ベランダに降り立って、指で、背中を指して、ウィンクしてみせた。ぼくのうちのベランダは、とっても小さいから、りゅうは、ガラス戸と手すりにはさまれて、ちょっときゅうくつそうで、かわいそうだったけど、かわいかった。「乗れってこと?」りゅうは、大きく、5回、うなずいた。ぼくは、ちょっと怖かったけれど、おそるおそる、りゅうの背中に、乗った。

りゅうは、羽をばたばたさせながら、ガラス戸と手すりに挟まったおしりを、2,3回振って、空に、舞い上がった。「どこに、行くの?」りゅうにきいてみた。「きゅるるる。」りゅうは、答えた。ぼくは、よくわからなかったから、とりあえず、「冒険、行きますよ。」と言ってみた。すると、りゅうは、うなずいて、飛び始めた。

ぼくは、どこに行くのか、何が起きるのか、まったくわからないから、すこし、怖い気もしたけれど、心のそこからわくわくしてきて、「だいじょうぶ。なんとかなる。」と、顔を上げて、星と月のかがやく空に、目をみひらいた。飛ぶりゅうの背中で、ぼくは、顔にひんやりした夜風を感じた。そして、手と足に、りゅうの背中の温かさを感じた。ぼくは、その心地よさににっこりして、冒険を始めた。

つづく…

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