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読む、気づく、繋がる

宇田智子著 『本屋になりたい』

ふらりと本屋さんに立ち寄り、なんとなくで手に取り、購入する。という方法で本を持ち帰ることがある。誰かが読んでいて気になった本をメモしたり、話題の新作を買ってみようかと思っても、本屋に着いた途端に本の迫力に圧倒されて、棚の間を彷徨っているうちに疲れ果て、結局「なんとなく」という理由の末に一冊の本が我が家にやってくる。

今回持ち帰った本は宇田智子著 『本屋になりたい』。改めて本を見返してみる。イラストや配色がよかったのか、タイトルが刺さったのか、「沖縄」というワードに惹かれたのか、なにで選んだのかはよく分からない。いつもなんとなくのご縁で本を買う。そこには間違いなく私の意志が反映されているはずなのに、その時はよく分からない。でも、そんな買い方があったっていいと思う。

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宇田さんが営む「市場の古本屋  ウララ」は、那覇の第一牧志公設市場の向かいにある小さな古本屋さんだ。大手の新刊書店で勤めていた彼女は、東京から沖縄の支店へ移ったのちに、元々そこにあった古本屋を引き継ぐ形で今の店を開いた。

宇田さんの日々は、ひとりであることの気楽さと、抗えない漠然とした不安と、人との関わりと、それに対する感謝で成り立っているように思えた。そしてその登場人物たちはみな、悲観でも楽観でもなく、「今、この店で生きていく」という確信を持って過ごしているように見えた。他者ではない。自分もその場を作っている一部なんだと、当事者として生きている姿が、私には少し眩しく思えた。

もちろん、宇田さんも例外ではない。外から来たものとして周りを客観的に眺めているうちにいつのまにかその空間の当事者になっていくその過程が、この一冊を読む私の心ともリンクしていて、いつのまにか彼女の世界にダイブしてた。
宇田さんの文章はとても不思議。軽い口当たりでごくごく飲めるのに、後味はしっかり濃厚。余韻までしっかり残していく。そんな感じ。

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そういえば以前沖縄へ行った時、ホテルへの道中で見つけた古本屋さんに入ったことがある。気になった本を一冊買って、出ようとした時にふと思い出し、「柳宗悦の『芭蕉布物語』はありますか?」と店主に尋ねた。店主は「新しいのだけど。」と奥から出してくれた。

芭蕉布とは、バショウの繊維で追った平織の布のことで、沖縄が主な産地だ。とても貴重なもので、着物好きとしては憧れの布。なんといってもその軽やかでサラリとすべる手触りと、自然と人の営みが一体となったような佇まい。そして暗い歴史の中でも絶やすことのなかった情熱の結晶。そんな芭蕉布のうつくしさを柳宗悦が評したものが、この『芭蕉布物語』だ。そしてこの本こそ宇田さんの本に何度もでてきた"沖縄県産本"のひとつだった

芭蕉布について
芭蕉布物語』について


今思えば、古本屋で新刊本がでてきたことも、あまり手に入らなかったこの本が簡単に手に入ったことも不思議だった。だけど宇田さんの本を読んで全てが繋がった。「新刊書店」「古本屋」という括りだけでは表現できない、いろんな形の本屋さんがある。沖縄だけじゃなく、その土地だからこそ成り立つ文化や店の形がある。そしてそれを求めるお客さんがいる。そしてわたしがそのひとりだったりする。

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帰りの飛行機でまだ沖縄の面影残る海を眺めて黙々と読んだ時間が、こうしてあとからより特別なものになる。少しだけ宇田さんの景色とわたしの景色がリンクしたようで、どきどきする。

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なんとなくで手にした一冊。その中で気づきを得たり、疑問を抱いたり、少しづつ他者と自分が繋がっていく。取り込んだり仕分けたり、重なったり離れたり、寄り添ったり。時には記憶を潜って繋がっていく。

不意に出会って、行動して(本の場合は読んで)、そうして自分の一部になったものが新たな私をつくっていく。そしてそんな私がまた不意に本を手に取る、人と出会う、暖簾をくぐる。

私の「なんとなく」はいろんなものによって作られている。繊細で、思い切りの良い、とても鮮やかで豊かで、ちょっぴりミーハーな「なんとなく」を私はこれからも頼りにしている。

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