スペイン1 ドビュッシー「グラナダの夕べ」
旅にまつわる音楽を聞きながら、記事をお楽しみ下さい♪
入り込めない曲
「何この曲?意味不明……」
16歳の時、ピアノの宿題で頂いた、ドビュッシー作曲「グラナダの夕べ」を聴いた時の正直な感想だ。
華やさがなく、なぜかメロディーにも入り込めなかった。
「これが、ハバネラのリズムや。ここは、ギターの音色を全面に……!」
恩師の成瀬先生は一生懸命教えて下さったが、この曲で出てくるハバネラのリズムもギターの音色も当時、全然好きになれなかった。
とりあえず合格にはして頂けたものの、この曲を楽しめることは最後までなかった。
「なんででしょう……スペインの曲、アランフェス協奏曲や、カルメンのハバネラの曲は、好きなんですけどね……」
「森ちゃんの場合、いつかスペインに行ったら、急に好きになれるかもしれへんな」
そのスペインを実際、私は旅していた。
白い村、ミハス
親友・みゆと私はまず、スペインでも人気が高い南部を訪れた。
冬なのに、そこはコートを着なくても歩ける程暖かく、特に「白い村」の中心的存在、ミハスは開放的な雰囲気だった。
「どこもここも真っ白で、ミハス歩いてるとイタリアも思い出すね」
「カプリ島とか!そんなに経ってないのに、もう懐かしいなぁ」
さすが同じ南ヨーロッパだけあり、スペインとイタリアは時々、似通った空気を感じた。
空気感と脳裏の音楽の変化
ミハスから、コルドバ、グラナダへも向かった。
コルドバ、グラナダへと進むにつれ、空気感が変わったような気がした。
「なんかさ、ミハスとか今までの町と何かが違わない?」
「そうかな?気温も同じ位だけど……あっ。イスラムの時代が関係しているのかな」
さすがみゆ、鋭い視点を持っている。
コルドバやグラナダはイスラムの国に支配されていたことがあり、その影響が今でも残っていると習っていた。
いつの間にか、脳裏で響いている音楽も変わっていた。
さっきまでは、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲第1楽章」が軽快に流れていたのに、ゴルドバからグラナダへ向かう時は、あのドビュッシーの「グラナダの夕べ」がなぜか流れている。
「高校の時弾いた曲で、嫌いだった曲があるんだけど、ちょうどグラナダの曲なの」
「グラナダの曲があるなんて!じゃあ明日、グラナダのアルハンブラ宮殿でそれ、歌ってね」
「歌える感じの曲じゃないの。なんか陰気くさい感じの……」
「ますます気になる!」
陰気くさく始まり、陰気くさく終わる。
当時、「グラナダの庭」のイメージはまさに、そんな感じだった。
グラナダに着いた時は、まさに夕方だった。
「あの16歳の時からなんか、変化があるかな……」
美しい夕日を見ながら、私は翌日のアラハンブラ宮殿が楽しみになって来た。
グラナダの、アルハンブラ宮殿へ
翌朝、私達はアルハンブラ宮殿を訪れた。
澄んだ空気が気持ちよく、鳥が快活に鳴く中、私達は神聖な宮殿に足を踏み入れた。
ガイドブックで楽しみにしていた、獅子のパティオやアラヤネスのパティオが私達を迎えてくれた。
「本当に、水面から宮殿が映ってる!」
やはり世界の人々同様、私達も水面に映るコマレス宮に感動した。
私達は、離宮のヘネラリフェにも向かった。
「水の仕掛けが、多いね」
「あ、ここもガイドブックに載ってたね!アセキアの中庭って言うんだ……」
天国のような、この世のものとは思えない世界が、そこでは広がっていた。
「情熱的なスペインという国にあって、この神秘的な静けさは、イスラムとキリストの文化の融合だから起きるのかな」
噴水からの意外な気付き
そんなことを考えながら中庭の噴水を眺めていると、その噴水の音が高音のcis(ドの♯)に聞こえて来た。
繊細な音が流れる、その噴水。
グラナダの夕べの冒頭に出てくる、ハバネラのリズムをとる高音のcisの音色と目の前の噴水が、なぜかリンクし合ったのだった。
「あの色気ある高音のcisは、この優美な噴水から来てたのかな!」
ドビュッシーは、実際にこの宮殿を訪れずに「グラナダの夕べ」を作曲したそうだが、さすが、素晴らしい想像力だ。
成瀬先生の予想力はすごい。
急にこの曲が、好きになって来た。
「ターンタタンタンターンタタンタン……」
みゆに、できるだけ雰囲気が伝わるに歌ってみたが、やはりあの高音の音色は、ピアノで伝えるのが一番だろう。
16歳では楽しく弾けなかった、「グラナダの夕べ」。
実際にグラナダを訪れて、またピアノで弾いてみたくなった。
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