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汗と血と硝煙の似合うスターたち:女優編 ~ 林冬子に倣って


80年代、芳賀書店より出版されていたシネアルバム・シリーズで、「激動する'60年代~男ベスト60」(責任編集・林冬子)という映画本がありました。主に60年代の映画で活躍していた欧米映画スター男優たちの特集版で、林冬子という方の単独執筆です。

補足:60年代映画のほとんどは、70年~80年代にTV放映の吹き替え版で見ていました。

この本の最大の魅力は、林冬子という執筆者による、各俳優たちの個性や特徴の的確な分析・分類力と、彼らの魅力を女性ならではの視点で見事に描写した筆致力です。

たとえば、スター男優たちを次のようにカテゴリー化した文章は、特筆すべき着想であり、面白い視点から書かれています:

都会派 / モダン・センスの男たち
ポール・ニューマン、ロジャー・ムーアなど
( 今なら、トム・ハンクスあたり )

都会派は容貌や体格に関係ない。彼が持っている現代的なピリッとした味、それはスーツのセンスからヘアスタイルまで、女の琴線にピンとひっかかる。いわば、暴力は絶対にふるわない、知的で洒落っ気のある男たちである。

ポール・ニューマン

セクシー派 / 女を燃やす男たち
ジャン・ルイ・トランティニイアン、ショーン・コネリーなど
( 今なら、ブラッド・ピットあたり )

性的魅力の対象には好みが左右する。強烈な個性、外観、容貌、髪の毛の色、唇の形、目つきまで、セクシー派は一歩間違えばイヤラシイ男となるのだ。だが、この嫌らしさも男の魅力。愛憎半ばするところが妙。

ジャン・ルイ・トランティニイアン


ビューティフル派 / 憂愁とデリカシーの男
アラン・ドロン、ロバート・レッドフォードなど
( 今なら、ベネディクト・カンバーバッチあたり )

眺めているだけで女性をうっとりさせる、生まれながらの美貌。喜ばせたり、泣かせたり、愛したり、捨てたり、・・ビューティフルな男だけに許された特権である。そして女はみな面食いなのである。

アラン・ドロン


そして、今回の本題「汗と血と硝煙の似合うスターたち」のオリジナル文が以下です:

アクション派 / 汗と硝煙の似合う男たち
クリント・イーストウッド、スティーブ・マックイーンなど
( 今なら、ジェイソン・ステイサムあたり )

男臭くて、荒々しくて、ほこりっぽい彼らは、ひっくり返せば孤独で、寂しがり屋なのかもしれない。荒野を駆ける西部劇のヒーローから洒落たスーツに身を包み、秘密兵器をいじくるスパイまで、明日の生命の保証のない人生。一匹狼の潔さ、生や金銭への執着、本音をさらけ出した生きざまに乾杯!

スティーブ・マックイーン


それでは、1965年~2018年までの間で、私が「汗と血と硝煙の似合う」と思ったスターたちの映画、時代背景は史劇や近未来SFは省いて、あくまでリアルな現代そのものを舞台にした映画に限定したセレクションです。

まず「女優編」を、制作年度の新しい順に紹介

海外編:

「ライリー・ノース:復讐の女神」
原題:Peppermint
ジェニファー・ガーナー主演 
2018年アメリカ

この人は、2001年スタートのTV放映アクション・ドラマ「エイリアス」(未見)で一気に人気が出た女優。その後も、鍛え上げた筋肉によるパワフルで切れの良い身のこなしと、精悍で逞しい風貌を生かした役どころで数多くの映画に出演。

精悍で逞しい風貌

「ライリー・ノース」出演時は46才、夫と幼い娘をギャングに殺された妻ライリーが、汚職刑事やギャングを相手に「目には目を」の復讐という名の殺戮を繰り広げてゆく話です。B級アクションならではのご都合主義なシーンが散見されても、普通は男優が演じるだろう役柄を女性設定にして、ジェニファー・ガーナーがそれを演じたことで、愛する家族を失った女の悲しみは殺した者たちへの怒りとなって、血の流れる傷跡を独り歯を食いしばって処置しながら、再び銃を構えて次の標的を撃ち殺してゆく、・・・血と汗と硝煙にまみれた彼女の悲壮な雄姿に心打たれたのでした。

鍛え上げた筋肉


「アトミック・ブロンド」
原題:atomic blonde
シャーリーズ・セロン主演 
2017年アメリカ
 

東西冷戦末期の東ベルリンを舞台に、イギリス情報局MI6の凄腕諜報員セロンが亡命者を必死に守りながら敵対組織を壊滅させてゆくという物語。
全編にわたり、次々に襲ってくる敵と、擦り傷、切り傷、打撲、骨折、殺傷の絶えない血まみれの肉弾戦が執拗に繰り返され、観ていて痛ましくなるほど、セロンは迫真のパフォーマンスを見せてくれます。

見ていて痛ましくなるほど迫真の演技

一方で、セロンの美貌とモデル体型の長身を活かしたスタイリッシュなファッションも見せ場ではありますが、ブーツやヒールを履いたままの格闘戦はちょっと現実味が薄い感じです。音楽は80年代のヒット曲が流れ、映像もお洒落な華美さと、リアルな戦闘描写とを対照的に巧くつないでいます。

血まみれの肉弾戦

補足:格闘中に「ストーカー」上映
映画館内で追いかけてきた敵と闘うシーンがありますが、その時に上映されていたのが、タルコフスキー監督の「ストーカー」であったのはなんとも不思議な取り合わせでした。


「ソルト」 原題:Salt
アンジェリーナ・ジョリー主演 
2010年アメリカ

CIAの有能な諜報員であるソルトはある日突然、ロシアのスパイ容疑がかかり逃走して真相を探ることとなります。背後には二重スパイの裏切りと組織的な陰謀の罠が潜んでいた、・・という物語。かなりの制作費が注がれたであろう謀略系アクション大作です。

髪を染め、身なりも変えて逃走する

主演のアンジェリーナは、満身創痍となりながらも、ひたすら走り、飛び越え、伏せては殴り、撃ち殺し、ダイナミックなアクションを披露しており、最後まで結末の読めないスリリングで緊迫した映像が続きます。彼女の原動力の根底に、夫への愛があった、という点もしっかり演出されており、大女優アンジェリーナにふさわしい役柄でした。

ひたすら走り回る


日本編:

「精霊の守り人」
綾瀬はるか NHK総合 3期22回放送 2016年

ここニッポンで、現役で活躍するスターの中で「アクションが似合う女優」と言えば、この人をおいて他に思いつきません。NHK大河「八重の桜」での見事な銃撃の腕前を颯爽と披露した彼女にとって、この短槍使いの名手バルサの役はまさにうってつけでした。

女用心棒バルサ

卓越した身体能力と敏捷な身のこなし、頑丈でタフな体つき、義侠心と闘争心に満ちて根性の据わった顔つき、一方で、澄んで明るい声や、目元、唇に仄かによぎる少女の切なさと純真さ、・・これらすべてが一体となって、綾瀬はるかは女用心棒バルサそのものと化していました。

根性の据わった顔つき


補足:他の女優たちの映画
ベッソン監督の女暗殺者「ニキータ」、ミラ・ジョヴォヴィッチの近未来ホラー「バイオハザード」、タランティーノ監督の女殺し屋「キル・ビル」、オルガ・キュリレンコの元CIA復讐劇「その女諜報員 アレックス」なども、女優たちが生傷覚悟で決死に格闘している映画でした。


まとめ

今回の女優編では、候補となる作品が少なすぎるため、本来は血なまぐさいアクションなど似合わないスター女優たちが、「強い女」を演じるべく果敢に挑んだ話題作中心になってしまいました。
アクション映画とはエンタメ映画の真骨頂でもあるわけですから、華やかで美しい女優が、銃を片手にどんなに血を流し傷ついても、最後に憎き敵を倒すときには、毅然として美しい横顔のアップが映し出されるものです。

さて、男優の場合は、どうなるのでしょうか?
というわけで次回は、ひと癖もふた癖もある男を演じた男優編の予定です。

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