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ノラや 【よもやま話・2860字】

 首輪をされていない猫さんが拙宅でご出産をされたようだと、先週の水曜日、noteに書きました。今週はその話の続きになります。

・6匹の子猫

 突然現れた6匹の子猫たち、かわいくてかわいくて、もう見ているだけで心がほっこりやわらぐような、そんな気分を味わっていたのですが、はてさて、そうは言ってもこれはどうしたものかと案ずる気持ちも同時に発生するわけです。人間にあるような気がする責任のようなものを果たさなければいけないのではないかなと少しは思いまして、猫さんについて、ネットで調べてみました。そのおかげで、レコメンドが猫だらけになっています。

 それはさておき、猫について知ったことの中で私が気になったのは、野良猫の場合、母猫が何らかの理由で育児放棄をして、子猫を置いていくことがあるということです。さいわい、6匹の子猫たちのそばには母猫がいたのでよかったのですが、もし母猫が子猫を置いていってしまったらどうしようかと思いまして、さまざまネット検索してみたところ、保健所に引き取ってもらうという選択肢だけではなくて、そういう猫さんたちを保護している団体に引き取ってもらう方法もあることを知りました。

 子猫の引き取り先を調べる一方で、猫を飼うとしたら、1カ月にどれぐらいお金がかかるのかというのを調べてみたり、ホームセンターへ行って猫関連商品を見てみたりもしました。子猫のかわいさってすごいですね。子猫のあまりのかわいさに、私は自分の懐事情も猫アレルギーがあることもすっかり忘れてしまっていました。

 かわいい、でもどうしよう、いっそのこと飼ってみる、いやいや飼えない、にしてもかわいい、飼えないよなあ、かわいいなあ・・・と、頭の中がすっかり子猫たちのことでいっぱいになっていたのですが、事態は急展開。

 猫さん一家、お引越しされました。母猫さん、1匹も、子猫を置いていきませんでした。

 なんというか、梅雨も夏もすっ飛ばして秋を感じています。


・野良猫

 あくまで、例えばの話です。例えばなのですけども、

 例えば、ご近所さんに、ものすごく情深いおじさんがいるとします。年齢は70~80代で、お一人暮らし。そのおじさんは、捨てられた犬とか、野良猫とか、放っておけない人です。そういう犬や猫をかつては数匹ずつ飼っていました。飼っていた犬や猫は天寿を全うされて、最近は何も飼っていないようです。
 ある日、6匹の子猫の母猫さんが、このおじさんの家に入っていくのを見ました。母猫はおじさんに何か食べ物をもらっているかもしれません。ただ、この母猫の場合、人馴れしていないので、おじさんが飼っているというわけではなさそうです。まあ、猫が家に来れば、ちょっと何かをあげているという感じだと思われます。

 おじさんが猫に食べ物をあげているとして、それはそれで悪いことではないのではないかなと私は思っています。なぜなら、この辺りでは、おじさんがそうしているからといって、長い期間で見たときに、野良猫が増えているというわけではないからです。


 他方、例えば、これまたご近所さんに、野良猫に顔をしかめるおばさんがいるとします。年齢はこちらも70~80代で、お一人暮らし。そのおばさんのお家の周りには、猫よけになるようなものがたくさん置いてあります。おばさんは、お庭を家庭菜園にされています。その家庭菜園を、野良猫がトイレにしてしまっていて、おばさんはそれを迷惑だと怒っています。
 確かに、家庭菜園で作ったものは食べることが前提でしょうから、それは嫌かもしれません。


 内田百閒「ネコロマンチシズム」(初出「小説新潮」1962年5月号『クルやお前か』)に、こんなことが書かれています。

 最近両陛下のお住居の吹上御所が出来て、もとからあった皇子達の呉竹寮は取りこわしになったそうである。その呉竹寮があった当時、森に棲む野生を帯びた猫どもが頻りにその廻りに出没したと云う。
 森の猫が余りに増え過ぎて、樹の枝の小鳥を襲ったり巣を荒したするので、猫狩りをしたと云う新聞記事を見た。
 罠を仕掛けて三十何匹とか四十何匹とかを捕まえたと云う。その中にノラが這入っていなかったか。気になるけれど、見に行くわけには行かないし、第一、皇居の森にノラがいるかどうかも、よくわからない(内田百閒『ノラや』、筑摩書房、2003年。p253)。

 「猫狩り」が必要なほど野良猫が増えてしまっているというのなら話は別なのかもしれませんが、どうなんでしょうか。野良猫はいないほうがいいんでしょうか。
 たとえ野良猫が2~3匹しかいないとしても、野良猫の糞尿被害を被っているおばさんがいて、他方で、野良猫を放っておけないおじさんがいるとしたら、どうすべき。


・地域猫

 子猫のことをいろいろ調べているうちに、「地域猫」という活動を知りました。野良猫に去勢手術をして、ご飯をあげて、地域で飼うというような活動です。野良猫を地域猫にしていって、最終的にはその数を減らしていくことを目的としているそうです。猫さんがこの活動をどう思うかは、私には分かりませんが。

 ところで、野良猫がいなくなったことによる弊害というのはないのでしょうか。
 猫といえば、ネズミですよね。イギリスには、「首相官邸ネズミ捕獲長」という肩書を持つ猫がいるそうです。公務員なのだそうです。イギリスで野良猫として生まれると、そういう職に就くチャンスがあるのですね。
 とは言いましても、最近の猫はネズミを捕らないというのも聞きます。しかし、抑止力にはなっているかもしれません。野良猫がいなくなると、ネズミがさらに増えてしまうかもしれません。

 ただ、小さい鳥にとって猫は、天敵なんですよねぇ・・・。

 何が言いたいのか、しっちゃかめっちゃかになってきました。おそらく、要するに、野良猫がいてもいなくても、悩ましい問題があるような気がしなくもないのではないかなと私は思っているのだと思います。(くどい)

・ノラや

 子猫がいなくなってちょっと寂しいなあなんて思っていたら、『ノラや』を思い出しました。
 「自分で猫を飼って見ようと考えた事もなく、猫には何の興味もなかった」「私」が、家に居ついた「野良猫を野良猫のまま飼う」ことにして、その猫にノラと名づけます。そのノラがある日から帰って来なくなってしまうと、「可哀想で一日じゅう涙が止まら」なくなって、ずっとめそめそめそめそ泣いているという、日記体の作品です。この本を初めて読んだときは、大丈夫かこのおっさんと思ったのですが、今読むとなんかちょっと分かる気がしています。

 猫は七代祟ると云う。ノラをいじめるつもりはないから、尻尾でぶら下げたのもいじめたのではないから、祟られる心配はないが、怨みの側ではそれ程執拗である癖に、恩の方は丸で関知しないと云うのが古来、猫の通り相場である。野良猫のノラも拾い上げられたと云うので感謝感激している風はない。三日の恩を忘れない犬よりも、猫のそのそっけない所がこちらにはいいので、恩を知られたりしては却って恐縮する(同上、p51)。




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