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【創作百合】1ールフナ

ルフナが歌う時、いつも天使が一緒に歌っているように聴こえるの。

日曜日の礼拝が終わるとそんな風に声をかけられる事が時々ある。そんな時どういう反応をしたらいいのか分からず、えっ、ほんとですか?なんて一旦驚いた反応をしてみせる。それ以外に適切な反応が思いつかなかった。

礼拝で歌を歌う時、僕は心に不純物が無いかどうか注意を払う。神の栄光を歌いながらそれを自分の名誉にしようとしていないかどうか。優越感は無いか。自分に酔っていないか。完璧では無いと思うけれど思いつく限りの不純物を心から追い出してからその時を待つ。神への心からの感謝を歌う、その時を。

僕は自分の心がどれだけ汚いか分かっていた。世の中の人達はそれは人間として当たり前だ、恥じることはないと言うけれど、それは自分にとって諦めの言葉でしかなかった。人はこれ以上どうにもなれないのだ、それを受け入れて生きて行けと言われているみたいに。僕はそう思わない。汚いと感じる部分は実は傷付いた部分で、傷は癒える事ができるし、傷付けない方法を学ぶ事が出来ると思うから。僕は時折、自分が通う学校の敷地内にある礼拝堂へ行き一人で歌を歌う。その時は自分の為に歌う。自分のなぐさめの為に。神に訴える歌を歌う。心が痛いと訴える歌を。神様は、あなたを愛していると言ってくれる。そんな気がする。  

学校に大して心を開ける友達がいなかった。皆どことなく僕に話しかけづらそうだったし、気軽に冗談を言ってくれるような人は居なかった。
先生には何故か気に入られていたけれど、かといって特別勉強ができたという訳でもなかったし、誰々がE組のルフナに告白したって、なんて噂が本当だったことは一度もなかった。僕はずっとからかわれてるのだと思っていた。きっと自分が何か変で、友達が殆どいないのも僕がつまらなくて取るに足らない存在だからだと。皆が居るところに入れないように、自分一人だけ壁で隔てられているように思えた。見えない超えることのできない線がいつも足元に引かれている気がした。  

ある昼休み、僕は教室を出て半ば放心状態のまま中庭を歩いた。ショックな事があったわけでもないし、悲しいわけでも落ち込んでいるわけでもなかった。だだ、時々とても世界が遠く感じる事があって、そんな時僕はまるで亡霊にでもなったかのように人気の無い中庭を歩く。中庭を通り抜けるとその先に正午の明るい日差しを浴びて白さを際立たせた礼拝堂が見えた。

昼休みには殆どの学生が食堂に集まる。広大なホールにざわめきが反響している様を思い出して、自分がそこにいない事に安堵する。昼休みに礼拝堂にわざわざ来る学生は僕以外にいない。静まり返った空間でやっと深く息をする事が出来る気がした。
通路を歩いて、適当な席に座る。説教台の後ろの高い所に掛かっている十字架を見上げる。何故か日々背負っている全ての荷物を降ろしたみたいな気持ちになる。

神様、あなたは、あなたなら…
「あなたは、僕の友達になってくれますよね…」

思わずそう呟いた言葉が、誰もいない礼拝堂に響きもせずに消えた。その時、

「えっ…」
と、後ろで小さく声がした。

「…えっ?」考える間もなく、僕は声のした方に振り返った。誰か入ってきた気配なんて無かったのに。

そこに居たのは生徒ではなかった。おそらくは。教授でもないと思う。自分と同じくらいの女の子が、顔を真っ赤にしてそこに立っていた。長い髪をしていて、真っ白な服を着ている。そしてその背中には真っ白い大きな翼が生えていた。

ぼんやりと彼女の周りだけ優しく光っているように見えた。僕たちはお互いに見つめ合ってしばらく呆然とした後、彼女は慌てたように辺りを見回して、また「え?」と言った。

僕が呆然とそれを眺めていると、彼女は言った。

「えっと……あの、もちろん…です…」

「…えっ?」
「あの、友達…あなたの友達に…」

「…あっ」
神様はぼくに、天使の友達をくれたみたいだ。  

絵の勉強をしたり、文章の感性を広げるため本を読んだり、記事を書く時のカフェ代などに使わせていただきます。