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SUGARの栞。#28

 最近、星乃珈琲店によく行っている。用途はもっぱら読書だ。
 近くに行きつけの本屋さんがあるので、本を買った帰りがけに星乃珈琲店を訪れ、いつもそこで本を読む流れになっている。
 
 店内の照明が暗く、全体的に落ち着いた色合いの内装をしているので、暗い場所が好きな僕は引きずり込まれるように足を運んでしまう。
 腰を深く収めることのできる椅子や、珈琲を入れる銅製のコップとかも気に入っていて、最近お気に入りの場所になりつつある。

 話はすこし逸れるのだけれど、僕は読書好きにも関わらず、My栞のようなアイテムを一つも持っていない。
 ブックカバーの収集にハマっていた時期もあったが、栞にはとんと興味を示さなかった。本には出版社によって栞がついているものがあるし、今持っているブックカバーのほとんどがデザインの中に栞が組み込まれている。
 わざわざ栞を買う必要が無いのだ。

 それから僕は本に何かが挟まっている状態にすごく違和感があって、新品の本に挟まれている小冊子やカバーに絡まっている帯があまり好きではなく、本を買ったらそれらの紙を真っ先に取り外してしまう。
 カバーが外れた時に鳴るシャアッって音が集中力を途切れさせてしまうような気がしていて、本を読んでいるときはカバーすら外すようにしている。
 生まれたままの姿の本が、もしかしたら好きなのかもしれない。

 星乃珈琲店に舞台を戻そう。
 そんなわけで僕はMy栞というものを持っていないので、最近本を途中で閉じ、そろそろ帰ろうと思ったときは、星乃珈琲店にある"砂糖の小袋"を本に挟んで栞代わりにしている。
 小袋は大体キットカットぐらいのサイズ感で、中に詰まっている砂糖を袋の中で均等の位置にして挟むと、本を閉じたときにイイ感じの膨らみになって、どこに挟んだのかがすごく分かりやすい。

 本を買ったときに貰えるペラ一の栞もあるのだけれど、あまりにも薄いので傍目からは一発で前回読み進めた場所をうまく開くことができないし、栞の頭をぴょんと出して挟むのも、見栄えが美しくないような気がする。

 それに栞代わりに「SUGAR」と書かれた砂糖の小袋を挟んでいるのも、いなせな感じがして気取ることができるし、もし道端を歩いていて砂糖に困っている人を見かけたら、「あの、よければ僕、持ってますよ」と読んでいる本からスッとSUGARを取り出して、颯爽と渡すこともできる。

 ホットコーヒーを淹れたときにそのSUGARを使えば、本の物語に込められた感情と砂糖の甘さが入り混じって、特異な味を体験することができるかもしれない。

 恐らく日本で唯一このSUGARを栞として使っている自分が、何か特別な存在なような気もしてきた。

 そうなるともはや、僕は星乃珈琲店に読書をしに行っているのではなく、ましてやコーヒーを飲みに行っているわけでもなく、SUGARの小袋を栞として挟みたいが為に訪れている可能性もある。そう考えると逆に、この一本のSUGARに意識をコントロールされているような気がして怖くなってきた。

 僕はまだ買ったばかりの本を最後まで読み終えていないので、SUGARをしばらく挟んでいなくちゃいけないのがとても恐ろしい。

 この白く輝くものの正体は、本当に砂糖なのだろうか?

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