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自分の変えかた/朝井リョウ『引金』を読んで



朝井リョウ著書「発注いただきました!」を買った。

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この本は、朝井リョウが企業とのタイアップや他の作品とコラボして書いた作品が20作収録された著書になる。

某人気ミュージシャンがタイアップ作品のみを収録したアルバムを発売しているということに目をつけた作者が、自分も同じように、本を出せるのでは?!と考えたことから出版が決まったとのこと。笑

現役で高校生だったときに(初版が発行されたのは中3の冬だったらしいけど)高校生のスクールカーストの有様がリアルに描かれていた「桐島、部活やめるってよ」を読んだ私は、異なるポジションに属する各登場人物のリアルな心情描写に心臓の5ミリくらい横を刺されまくって、瞬殺で朝井リョウのファンになってしまった。

好きな作品は色々あるけど、特に好きなのは、やっぱり「何者」と「世にも奇妙な君物語」の「リア充裁判」です。

・・ちなみに他の好きな作家は、綿矢りさ、村田沙耶香です。
社会・人間・固定された価値観に毒づく視点がある作家さんが、好き。。

ということで、この「発注いただきました!」が蔦屋書店に陳列されているのを発見した時に、「おわっ朝井リョウだ。」「おわっ企業とのタイアップだ。」とダブルで衝撃を受け、1ファンとして、コピーライターを目指すものとして読むしかなかと!と、財布の残高も確認せず即座に手に取り、レジへ向かったのである。。(カードで払ったよ。)

今記事では、著書内の20作品の中で「引金」という作品を、
私が読んで発狂しそうになったという理由で、感想を話しつつ自分のことをかけたらいいな〜と思っています。

あ〜〜本当はそのまま作品を読んでほしい〜〜〜。

あらすじを大まかに説明すると、、。


大学1年生の冬を迎えた優仁(ゆうじん)が教養科目の授業で一緒だったクラスメートと忘年会と称する飲み会をしているところから話がスタートする。
3月生まれでまだ18歳なことを、周りの子や4月に21になる1浪の同級生から「若い」とプチマウントをとられながらも、自分にふられた話題が空気をこわすことなく場を流れていくことに安堵している主人公は、高校時不登校経験者なのであった。 
自分が不登校になった後に、新たないじめの標的になり、同じように不登校になった倉本は、まだ部屋を出てきていない。お互いが不登校であった期間に携帯等でやり取りをしていた優仁の訪問にだけ戸を開き、部屋の中に招き入れるので、優仁は倉本に誘われたら訪問を断らないようにしていた。 
自分を助けようとした倉本を置いて、先に部屋をでて、街までも出た主人公は、倉本を部屋から出してやらないと、と思いつつ、核心の話題に触れることができずに時が過ぎていく。。

という話です。

ここからはネタバレ?と言うか内容の核心部を話すのでここまで読んで気になった方は、買って読んでください!笑

で、

続きというか大切なところを話すと、

倉本は、引きこもっているが、外の世界の情報を遮断し、ネットゲームやアニメなどに興じている訳ではなく、パソコンで年末の新聞記事を読んでいたり、18歳選挙権がどう機能するか、などといった来年へ繰り越される文字を背負っている、という描写があり、

その姿に優仁は「身も心も頭もあの部屋の中から出る気がないと分かれば、自分だってきっともっと楽になれるはずだ」と苦しい気持ちを実感するのである。

また優仁の兄は、30を超えて独身で実家暮らし。父や母にそれを咎められても、どうでもいいという様子を気取っている。飲みにいく友達がいて、仕事にも問題がない日々のなかにいると、それ以上何かを手にしたいとも思わなくなるらしく、数年前から、ずっと変わらない生活をしている。

主人公は、倉本が生きている場所も、兄も、ここ数ヶ月の間で何も変わらない。変わるのは選挙権や、家の近くのコンビニなど、自分の輪郭の外にあるものばかりだという。

優仁が部屋を出たきっかけは、高校二年生の大晦日に起こった家の火事・・・という母の嘘だった。
火事だと叫び、ドライアイスを部屋のドアの隙間から流し込んだ、母の。
ドアを開けた先に家族が立っており、その場で腰を抜かした母は「今年中に出てこなかったら、本当に火を点けようと思った」と掌からライターを落とし、その音に主人公は部屋から出たことを実感するのである。

年が明け、また倉本の家に行った際、優仁はコートのポケットのライターを握りながら「ここ、出ないの。」と切り出す。

倉本は「どうでもいい」と返すが、優仁は言葉を続ける。

優仁は兄の話を持ち出しながら「今の生活、変えたくないんだって。だから他人と暮らしたくないんだって。そう言ってる人、僕らみたいな若い世代に多いんだって」という。
更に、「ほんとは、どうでもいいわけじゃないよな」と。

そしてこう言い放つのである。

「自分を変えたくないだけ、だよな」

・・・僕たちは今、欲がないわけでも、恋愛や結婚をはじめとする人生のあらゆることをどうでもいいと思っているわけでも、自分が今いる場所でそのまま生き続けていいと思っているわけでも、多分ない。・・・今いる場所から出なくても生きていけて、・・・生まれたときから何不自由なく生きてこられた自分たちを愛しすぎてしまっているだけだ。現状維持さえできればじゅうぶん生きていけると感じられる国にいるから、わざわざ自分を変えようだなんて思えないだけだ・・・

主人公は、今、2つ上なだけで威張る同級生に合わせて笑う自分が嫌いじゃない。どうにかライターを握りしめながら二次会に参加してみたことで疲弊している自分を、応援している、何か変わったら変わったで、もっと愛せるようになるかも知れないと、自分に期待している。

・・・今いる場所から出られないのは、心では変わろうと思っても体が変わろうとしないのは、自分を愛しすぎているからだ・・・

・・・嘘の火事や、選挙権や、そういううまくいくかどうかもわからないような、無理やりで、強引なくらいのきっかけでないと、僕たちはもう自分を変えることなんてできない・・・

そして、ライターを包み込んでいた拳をポケットから出し、親指に引金を添える。

「変わらないと、変われないよ。」

「今のままで、僕らは幸せなんだから」




・・・・

ぎゃぁあああああああ。

最後の方全部大切な言葉すぎて、削れなかった・・・!!!

要約・整理しきれてないのに、作中の雰囲気や伝えたいことのニュアンスが広いきれてないのが本当に申し訳ないので

本当にみなさん買って読んでください!


もうね、この短編小説を読んで私はメタメタになったよ。

変えようとしても変われないのは、自分を愛しすぎているから。
そんな自分を変えるのは、強引なきっかけであり、
変わらないと、変えれない。
すでに今が幸せだから。

やめて・・・これ以上、その真実を明かさないで。
認めたくないもの、ボカし続けているものへ
ピントを向けないで。と胸が苦しくなってくる。

もっと頑張りたいのに、頑張ることを途中でやめてしまったり、
違うことにチャレンジしたいのに、なかなか始めなかったり、
そんなことがあるたびに、
自分はなんてダメなやつなんだ。と自己否定を繰り返し
理想の現実、理想の幸せに近づけない自分が不幸な存在だと思っていた。

でも違う。

そうだ、私はもう、すでに幸せなのである。


今のままでも十分、本当は生きていけることを、知っているのだ。

だから、動けないんじゃなくて、動かないんだ。


この事実を突きつけられて、あっさりと、絶望に打ちのめされた。

それなら、私はもう、今のまま変われないのか。
今が本当は幸せだと、認めて、楽になってしまうのが、いいのか。

そうとも感じてしまう文章だけど、作者はしっかり希望の光を私たちに与えてくれている。

何か変わったら変わったで、もっと愛せるようになるかも知れない自分に期待できる。そのためには強い引金が必要だと。


このままが嫌だと感じるなら、
無理くり、どっかに飛び込んだり、なんかのきっかけをトリガーにして、現状を変えるしかないと。


そうなのか。。そうなのかもしれない。

全てをなあなあに、本当は変えたくない自分を認めずに、表面上で不満だけを垂らすより、


あ〜〜〜〜変えたくねぇ〜〜〜〜けど、思いながら

とりゃあああああって

変わってしまった方が、変えるしかない自分を、愛せるのかもしれない。


そう思ったら、

勇気を持って、変えることって、

すごく面白いことなのかもしれない。


今のままでも、幸せだけど、
もっと幸せになれる場所が、変わった先にあるって考えたら、

生きている中で、たくさん目の前に訪れるチャンスへ
飛び込む勇気がもっともっとわく感覚がして


あぁ、今この作品と出会えてよかったって心のそこから思いました。


「引金」


本当に素晴らしい作品です。


ぜひ、読んでみてくださいね!(3回目)





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