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小説「まなざし」

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交通事故で聴力を失った女性、瞳美と彼女と生きることを選んだ恋人の真名人。音のない世界で、彼女のまなざしは何を語ろうとしていたのか。 普通の恋人と同じように愛し、すれ違い、味わうこ…
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2019年5月の記事一覧

まなざし(5) キャンパスで埋もれて

まなざし(5) キャンパスで埋もれて

「社会学部ってさあ〜、何するとこなの?」
4月10日月曜日。
大学の入学式、それから保健関係のガイダンス、学部ごとのガイダンスを終えたところで、俺の隣には当たり前のように高校からの友人である中島春樹がいた。無事に二人仲良く希望の大学に通って、これまた二人仲良く大学生活初日の運命を共にしているというわけだ。よりにもよって同じ学部に入ってしまったのだから仕方がなかろう。
「何するところって……、お前な

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まなざし(4) 瞳美と真名人

まなざし(4) 瞳美と真名人

それからの日々、私は歌が経験できなかった高校受験、そして大学受験を普通に乗り越えて大学生になった。
親友の歌がいなくなってから、自分がどうやってまた仲良しの友達をつくって、部活や勉強を頑張って、大変だった受験生活を乗り越えたのか、自分でもはっきりと覚えていない。覚えていないというか、ただただ全てが惰性のように流れてゆく日々の中で、これまた惰性のように勉強して、誰かと楽しくおしゃべりして、クラスメイ

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まなざし(3) 幸せが崩れる日

まなざし(3) 幸せが崩れる日

***

「皆さん、もう知っているかと思いますが……、佐渡さんが、昨晩、亡くなりました……」

最初に彼女の訃報を聞いたとき、私はクラスメイトたちが「シン……」と担任の北村先生を言葉に耳を傾ける中、「えっ」とそれはもう自分でも不思議なくらい大きな声を上げてしまった。

「な、なんで? うそでしょ……?」

幸いか不幸か、昨日の晩は両親が家にいなかった。有給を使い、二人で旅行に出かけたのだ。だから今

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