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見えないを見る③ 衣食住エネルギーから探る、これからの暮らしとは?

衣・食・住・エネルギーはわたしたちの日々の暮らしを支えています。しかし、日常の一部として溶け込んでいるがゆえに、その生産・消費の現状が目に見えづらくなっています。

昨今では「サステイナブル」などの言葉がよく使われるようになっていますが、その定義は様々であり、それゆえ抽象的な議論になったり、実態が見えずに敬遠してしまったりします。

そこで今回は、「見えないを見る〜衣・食・住・エネルギーから探る、これからの暮らし〜」と題して、衣・食・住・エネルギーの分野で活躍するゲストをお招きし、この4つの視点から抽象的になりがちな「これからの暮らし」のあり方を探るシンポジウムを2020年2月に国際基督教大学にて開催しました。

↓『見えないを見る①&②』のレポートはこちら↓

最後は、衣・食・住・エネルギーの4人全員によるセッション。
事前に用意した3つのトピックの中から、一番聞きたいものを会場の参加者に選んでもらいました。選ばれたのは「小さくはじめて、大きく広げるには」。

地球規模の問題を考える中で、持続可能な社会を作るキーになる活動をなさっている登壇者の皆さん。そのような活動を、社会で広げていくためにはどうすべきなのでしょうか。

「大きく広げて」、良いことはない?

このトピックが選ばれるやいなや、真っ先に口を開いた太田さん。

「僕はアパレル業界から農業へと、文字通り畑をまたいだんですけど、おっきくして良いことって何もなかったんすよ」

今、太田さんが誰にも媚びずに自分の好きな仕事をできている理由は「小さくてとても強い事業をやってるから」。しかし、事業を大きく広げようとすれば関わる人員や利権問題が複雑になり、今のような「強さ」を実現できるのか疑問だと太田さんは言います。

それに対して、エネルギーの分野から井上さんも一言。
自然エネルギーを使う人が増えれば、社会や環境にとっては良い変化といえます。しかし、自然エネルギーならなんでもいい訳ではありません。

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「僕たちは、太陽の光、川の流れや、強い風など、地域によって異なる自然の恵みの特色をうまく活用した自然エネルギーの発電を心がけています。それは、地球規模の気候変動問題を食い止めながらも、いかにして各地域の環境と暮らしの豊かさに貢献するか、という視点が大事です。いくら自然エネルギーとはいえ一部のステークホルダーだけが恩恵を受けるものではいけないと思っています。」

多様なものが存在する社会で、大きく、効率的に提供するモデルが当たり前ではなくなってきているようです。

小さな輪が増えて広がる

古屋さんによると、民藝運動は1つの大きな輪になって社会に広がったのではなく、小さな輪がたくさんできたというイメージの方がしっくり来るのだとか。

それを聞いた鞍田さんが例に挙げたのは、小嶋一浩さんの『小さな矢印の群れ』という本。

人口が激増していた20世紀は「広げる」ことに必死で、言うなれば「大きな1つの矢印」の時代だったといいます。対する21世紀は人口の減少に伴い、1つ1つの地域や人物の能力が発揮される「無数の小さな矢印」の時代だというのです。

「以前は量的な拡張に対応すべく、均質化に走っていたけど、これからは『小さく強い』小さな矢印になるために自分をどれだけ深掘りできるのかが鍵になると思います。」

均質化と多様性

とはいえ、現代のモノやサービスの多くは未だ「均質的」です。

例えば、野菜。キャベツ、にんじんなど、スーパーに行けば同じような”規格”のサイズ・形の野菜が、季節にかかわらず年中並んでいます。

それに対してOme Farmが栽培するのは、西洋野菜や日本の固定種。

見慣れない野菜でも、小規模な農園でも、国内で最も消費活動が盛んな東京で高品質の野菜をつくれば価値が認められて選ばれるのだと太田さんは話します。

「だから、均質化?そんなもんは、よく分からないです」

そうは言っても、私たちの多くは世の中の「平均」に慣れてしまっているのではないでしょうか?

そんな私たち1人1人の意識について、井上さんが主張するのは個々の感性やアイデンティティを確立させる重要性。

個性のあるものを1から生み出すのは難しく感じられますが、「イノベーションは何かと何かのリミックスであることがほとんど」。「均質的」なものも、既存の他の要素と掛け合わせることで個性や強みを蘇らせることができると言います。

「見えないを見る」ために

会の最後に、イベントタイトルにちなんで「見えないを見る」ために私たちができることを4人に伺いました。

太田さんは、「考えることをやめないでいただきたいです。それが『見えないを見る』、背景を知る努力をすることだと思います」。

彼が食において危惧しているのは、人々の「思考停止」。
食べ物は自分の体の一部になるのに、その背景を気にしていない人は少なくないのではないでしょうか?

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「思考停止にならないこと」は古屋さんも同意見。
古屋さんが展示会の仕事でフィンランドを訪れた際、電車で携帯をいじっている人がいなかったそうです。日本での情景と比較して、「日本、やばいぞ」と感じたという古屋さん。
画面から目を離し、現実にあるものを見つめて自ら考えることが必要です。

井上さんは、自分で体験してみることを提案します。

「僕は、人間は生態系からはみ出ちゃってると思ってるんです。それをどうしたら自然の中に一体化できるかと考える時に、やっぱり感性が必要なんじゃないでしょうか」

インターネットで調べただけで満足せず、自分自身の体験を通して自分や周囲にとって良いことを感じ、実践していくサイクルが回れば、いわゆる「サステナビリティ」に近づく、と井上さんは考えます。

最後に、「どうやってオチを作ろうかな」と笑う鞍田さんは、見えないを見るには「薄眼で見る」べきだと言います。

「半眼」とは、あらゆる仏像が持っている眼差し。
目を閉じるとかえって雑念だらけになり、目をしっかり開くと本来集中すべきものが見えなくなってしまうので、半眼にすることによってこれまで気付けなかったことに気付くのでは、と考察します。

今の自分の問題関心の狭さを知るためにも、心を解放し、一度自分の置かれた環境に身をゆだねる--。そうすると、別の世界が見えてくるかもしれません。

これからの暮らし、あなたには何が見えますか?

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ご登壇いただいた鞍田さん、太田さん、古屋さん、井上さん、当日ご参加いただいた方々、ありがとうございました!

◎登壇者 関連リンク
からむしのこえ
Ome Farm
日本民藝館
自然電力

◎イベント企画運営
Connecting Dots, Collecting Distances
・松丸里歩(SHOCK TUCK
・大塚桃奈
・臼井里奈
・吉岡大地

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